エピソード4:ヒーロー回想録γ
さて、場面は再びバンジョウジ邸。
ユカ「――といった感じだったんですけど……」
カイト「相変わらずブレへんなぁ、カシラもホンゴウも。
まあ、今に始まったことやないけど……」
タイセイ「オレ、ライホウさんの実力は間違いなく本物だと思うし、
彼のヒーロー精神だって正直心から尊敬してるけど、
ぶっちゃけ拘り過ぎなんじゃないかって思うことも多々あるんだぜ……」
ユメ「ホンゴウもね~、
基本は無駄なく素早くヴィランを始末するスタンスだし、
ムジョウシステムって戦闘以外の災害救助とかにも応用できるしで、
ヒーローとしての実力・実績は申し分ないんだけどねぇ。
性格が明らかにヴィランのそれなのよねぇ……」
ユライ「……心根が優しいのは間違いないのですがね。
例えば今年の春にドミナス共和国で起こった『ゼット・ワン事件』……」
ユライの口から言及されたのは、
大国"ドミナス共和国"の主要五都市がヴィラン組織"ゼット・ワン"に襲撃され
未曽有の大災害に見舞われ甚大な被害が出た大事件だった。
ユライ「我々セキガハラの構成員も総動員したあの大事件……
当然ホンゴウくんも作戦に参加していましたが、
ヤタガラスモードに転身した彼の活躍は驚異的の一言に尽きましたから」
タイセイ「ヤタガラスモードって、確かあの空飛べてメチャクチャ早い奴だっけ?」
ユカ「うわぁ、間違ってないけどなんかすごい雑な説明……」
カイト「ター坊お前なあ、間違ってへんけどもうちょっとなんかあるやろ。
専用武器が双剣やとか、空気を操れるとか、
静電気起こして電気も操れるとか、
あと全身の装甲がソーラー電池になっとるとか色々あるやろ~。
そらワシも詳しくは知らんけど~」
ユメ「大概詳しく知ってんじゃないの……」
その他、装甲が照明になったり、水や空気を浄化できたり、
現場の状況を素早く分析し的確な救助活動や避難指示を熟せたり、
戦闘のみならずサバイバルや災害救助への転用もできる多芸な形態……
それがヤタガラスモードだった。
ユメ「あとあの短剣、ヤタガラカットラスだっけ?
あれって確か最大八本までストックできて、
しかも二本ずつ合体させるとカラス型の小型飛行メカになるんでしょ?」
ユライ「ヤタガラスドローンですね。
遠隔操作の他、ある程度の自律行動が可能な言わば小さなヤタガラスモード……
ホンゴウくんに曰く『小型化し素早く動けるようになった分
総合的なパフォーマンスは本体に遠く及ばない』とのことですが……」
ユカ「それでも大概高性能ですよね?
ほぼヤタガラスモード本体と同じことできるんですし」
カイト「ホンマやで。何ならあのちっこい鳥メカ一つでも
そこらの木端ヴィランなら完封してまうもんなぁ」
ユメ「しかもそれを最大四機同時に飛ばせるんだから……」
タイセイ「正直、敵わないっていうか、
何ならユウトさんが羨ましくなっちゃうんだぜ。
オレたちじゃどうしても、戦闘一辺倒になりがちだから」
カイト「なんやター坊、えらい弱気なっとるやないかい。
オマイは相対的評価なんぞ気にするタチでもないやろ」
タイセイ「弱気ってワケじゃないぜ。
ただ、あんなに色々な形態や装備を使いこなせるなんてすごいなぁって」
カイト「ンなァ、まあそらそうやな。
あの臨機応変な器用さ、少なくともワシには真似でけへんわ。
厨房ならともかく、鉄火場であんなんやれんて」
曲がりなりにも元自衛官、
それも結構出世もしてたカイトが言うと説得力が違ってくる。
ユカ「……ま、まあでもほら!
『遠距離戦に関しては私達マズルフラッシャーの方が格段に上手だ』って、
他ならぬホンゴウさんご本人が言ってましたし!?」
ユメ「それはそうだけど……でもねぇユカちゃん、
あなた自身心からそう思えてる? 私はちょっと自信ないわ……。
だってホラ、あの紫の……」
ユメが言及したのは数ある"遺恨リーパームジョウ"の形態でも、
特に純粋な遠距離戦に特化した鉄砲使いの形態だった。
ただ……
カイト「あぁ~、あったなぁ。
なんやアレ~~確か、ザリガニやったか?」
タイセイ「何言ってんだぜカイト、あの形態はクワガタだろ~?
てか他のモチーフが狼、タカ、シャチなのにザリガニはないんだぜ」
ユカ「いやいや、あれはハチだよアサガキくん。
ほら、外国になんか、なんとかバチってすごいハチいるじゃん?
元々あの形態って毒攻撃もできるしハチだよ。
ザリガニとかクワガタで毒攻撃って明らかにおかしいじゃん」
ユメ「ねぇユカちゃん、もしかして私とごっちゃになってることない?
あと海外のすごいハチって、大体"なんとかバチ"って名前だと思うんだけど……」
何故かようわからんが、
どうもマズルフラッシャーの面々はムジョウの各形態について記憶が曖昧なようで……
ユライ「どうしたんですか皆さん、
そんなまるで示し合わせたように誤答ばかり……
まさか故意にボケていらっしゃるとでも?」
タイセイ「ちょっとユライさん!? 誤解しないで欲しいんだぜ!?
てか間違ってないだろっ!? ユウトさんの……
遺恨リーパームジョウの並列形態は、
赤い狼と青いタカ、紫のクワガタに緑のシャチの四通りでっ!」
カイト「せゃーからその認識が誤りやっちゅうねん。
あのホンゴウがやで? そない王道の動物選ぶわけないやろ〜。
赤ハイエナの青ハゲタカ、紫ザリガニで緑はなんかの深海魚とかそんな感じやんか」
ユカ「なんですか"なんかの深海魚とかそんな感じじ"って〜。
大将さんこそ間違ってるじゃないですか〜。
赤はジャッカルで青はサギ、紫が外国のハチで緑はモササウルスでしょ〜?」
ユメ「ユカちゃんも二人のこと言えないぐらい間違ってるじゃないのよ……。
そもそもムジョウシステムって元々はあの任天堂が、
他社への報復と法務部の護衛、
あと『スマブラ』の販促を兼ねて開発してたヒーローシステムを、
開発頓挫したから〜ってうちが引き継いだ奴だから
四形態ともスマブラのキャラがモデルだったじゃない」
ユカ「あれ、そうでしたっけ?」
ユメ「そうよ〜。だから正しくは赤がガオガエン、
青がファルコ・ランバルディ、
紫がファンタズマラネア、
緑がパックンフラワーでしょ〜」
ユライ「……アイザワさん、流石にそれはボケていますね?」
じとっ……とした、如何にも湿度の高そうなユライの視線は、
さながら死にかけの獲物を狙う猛禽類のそれ……
正鵠を射た指摘に一瞬場の空気は凍り付く。
果たしてユメの返答は、実際……
ユメ「……ごめん。なんかこの流れだと私もバカになっとくのが正解かと思っちゃって……」
言うまでもなくボケてやがったんだ。
しかも理由が理由なもんで、当然素で間違えてた三人とてキレずにいられねぇ。
タイセイ「はぁ!? なんだよそれっ!?」
カイト「"バカになっとくのが正解"なわけあるかぁ!」
ユカ「ほんとそうやってもっともらしいトーンで嘘つくのやめてもらっていいですか!?」
トーンだけで騙されるこいつらがバカなのか
それとも曲りなりにも役者やってるユメの演技力(?)がスゲーのかは……
イマイチよくわからねえが、
ともあれそもそも
『直近の主要な出来事を思い出そうとすると
真っ先に出てくるぐらい印象に残ってる仲間』
についての記憶が壊滅してんのは果たして一体どういうことだと、
そんな風に小一時間問い詰めてぇのは、
読者のみんなもきっと同じだろう。
ユライ「……勘弁して頂きたいですね。
如何に見え透いた冗談とは言えど、
それでも普段から行動を共にするだけに、印象に拠るバイアスは強烈……
極論ですが"ヴィランの精神攻撃で狂わされているのては"と疑わずにいられませんので……」
ユメ「うん、ホントごめん。
何ならこの場にキャプテンが居たら多分叱られてるだろうし」
ユライ「……因みにですがアイザワさん、
実際どうなんです?
"ムジョウ"システムについて正しく把握できているんですか?」
ユメ「そう言われると若干怪しいかも。
言う程ホンゴウと共闘してるわけでもないし」
カイト「まあ、ワシら基本集団行動やからな~」
タイセイ「ああ、そっか。
そうなると原則ライホウさんがついてくることになるから……」
ユカ「隊長と一緒に戦うのを嫌がって逃げちゃうんですよね~ホンゴウさん」
ユメ「それよ。何ならあの子、
キャプテン避ける為ならヴィランの必殺技敢えて食らいに行くくらいだし……」
ユライ「諸事情によりそれすらできないとなれば、
崖から落ちるのも車に轢かれるのも厭いませんからね……」
どんだけライホウと戦うのがイヤなんだよと思うかもしれねぇが、
事実ホンゴウ・ユウトって男にとっちゃそれが当たり前の動きだった。
ユメ「なんだっけ、車にぶつかった時の受け身の取り方練習してるんだっけ?
幾ら不死身に近いとは言っても怪我しないには越したことないとかって」
ユライ「加えて警視庁や国交省への事情説明も、
バンバさんにバレないように行っていると聞きましたよ……」
カイト「しかもその上車に轢かれる時ァ、
必ずジジババのプリウスやら改造車やらに突っ込んだりと、
不特定多数に迷惑かけんようなるたけ配慮すんねんもんなァ」
タイセイ「大将、それは配慮って言わないんだぜ……」
ユカ「いや~、害悪ドライバーを人身事故で破滅させてるんですから、
なんなら社会貢献まであるでしょ」
タイセイ「ユメさんまでそんなこと……」
そんなこんなでユウトの話題で盛り上がっていった一同は、
"どうせなら改めて"遺恨リーパームジョウ"について学び直そう"ってことで、
セキガハラのデータベースに保存されてる"ムジョウ"の戦闘記録映像鑑賞会を開くことになったんだ。




