エピソード1:ヒーロー忘年会A-開幕
さて、なんやかんやであれから二年後の年末某日……
防衛組織『セキガハラ』に身を置く『撃鉄戦隊マズルフラッシャー』の五人は、
とある豪邸の一室に集まり忘年会を開いていた。
「いや~、こうしてまた五人で集まれて良かったぜ~。
みんな、今年も本当にお疲れ様!
それと、一緒に戦ってくれてありがとな!
特にユライさん!
毎回なにかある毎に部屋貸してくれてマジサンキューだぜ!」
眩しいぐらいの笑みを浮かべて王道の台詞を宣うのは、
如何にもアクション系少年漫画の主人公ってビジュアルの男……
拳銃戦士"ハンドガンレッド"の変身者、アサガキ・タイセイ。
今や高校を卒業したこの熱血漢は、
ヒーロー業に励む傍ら引退後を見越して
大学でヒーロー養成校の教員になるべく勉学に励んでいた。
「どうぞお気に為さらず、タイセイくん。
元々この時期は社員や使用人の方々も里帰りしてしまわれますから、
聊か敷地や部屋を持て余してしまいますのでね。
寧ろ皆さんが過ごしてくれた方が、私としても助かるのですよ」
などと返すは、如何にも知的かつ紳士的な態度の色男……
その正体こそは、今回忘年会の舞台に選ばれた豪邸の持ち主で、
機関銃戦士"マシンガンブルー"の変身者、バンジョウジ・ユライ。
飛び級で南オーストラリアのフリンダース大学を飛び級卒業した頭脳と、
各国の政治家や投資家を手玉に取るが如き卓越した経営手腕は未だ健在で、
今や世界の富豪ヒーローとしちゃ五指に入るほどの逸材として知られている。
「どんな理由があるにせよ、ワシら庶民からしたら大概大盤振る舞いやけどなァ。
ヤラシイ話、金も持て余しとんか? っちゅー話やで。
ホンマ、何度見ても慣れんぐらい冷凍冷蔵室ん中エグいもん。
しかも料理人でも中々見んような食材ばっかり……
挙句あれ全部好きに使てエエ言われた時は心臓止まるか思たでワシ〜」
そう語るのは、メンバーの中でも一際異彩を放つほど大柄な厳つい大男……
元自衛官の飲食店経営者で、今回の忘年会でも料理全般を担当した陽気な関西人こと、
無反動砲戦士"リコイレスイエロー"の変身者、トビホシ・カイトに他ならねぇ。
他のメンバー共々、この男にとって直近二年間はまさに激動の年だった。
ヒーローとしてだけじゃなく経営者としても華々しい活躍を収めたが、
一方でヴィランとの戦いの余波で経営難に陥りかけたりと、決して順風満帆なばかりでもなかったんだ。
「や〜、なんでしょうね〜。
もう本当に心底感無量っていうか、天にも昇る心地、感謝感激雨霰っていうんですか?
ひたすらそれしか言葉が見つかりませんよね〜。
ただの劇団員くずれのコンカフェ店員がヒーローにってだけでも有り得ないのに、
他の皆さんにおんぶに抱っことは言え、
それでもここまで生き残って来れたなんて幸運通り越して奇跡としか……。
本当に全ての人と物事に感謝感謝の謝罪贖罪ですよ〜」
自嘲気味に過去を思い返し遠い目で感傷に耽るのは、
小柄だがスタイル抜群で中性的な愛らしさのあるトムボーイ……
そう、まさに散弾銃戦士"ショットガングリーン"の変身者、タカオカ・ユカその人だった。
よくある言い回しに"色々あって"なんてのがあるが、
この女はまさにその言葉通りの経歴の持ち主で、
才能や経験でこそ他メンバーに劣るがそれを努力で補い続け、
今や立派な女性ヒーローとして民衆からの支持を集めるまでになっていた。
「全く〜、何卑屈になってんのよユカちゃ〜ん。
今年だけでもあなたの活躍が決め手になった事案が幾つあると思ってんの?
あなたが居なきゃ詰んでた状況、
あなた無しじゃ甚大な被害が出てた戦いがどれだけあったか覚えてないの?
そりゃ侘び寂び遠慮は日本人の美徳、
謙虚に遜る姿勢が大事とは新約聖書にも書いてあるけど、
もうちょっとこう、足元見えなくなっても胸張ってなさいな〜」
普段のクール気味かつミステリアス風味なノリは何処へやら、
酒でも入ったみてーな明るいノリでユカを励ますのは、
王道のグラビアアイドルじみた美貌を誇るスタイル抜群の別嬪……
要するに狙撃銃戦士"スナイパーピンク"の変身者、アイザワ・ユメで間違いねえ。
ヒーロー業の傍ら宅録声優やら動画配信者としても活動してんのは相変わらずで、
動画配信チャンネルは登録者数75万人を突破、
世界的超大作映画にメイン級キャラの吹き替えで出演し大御所との共演も果たすなど、
例によってここ最近の活躍は著しいモンがある。
さて、そんなわけで毎年恒例となった忘年会……
だがマズルフラッシャーの面々、ひいてはセキガハラの主要ヒーローって括りで考えると、
この場に居なきゃおかしい奴らがいるわけで……
「そういえば、キャプテンとユウトさんは?」
タイセイの口から出た疑問は、
恐らく一部読者の心理を代弁したようなもんだっただろう。
実際この場に集ったのはタイセイ、ユライ、カイト、ユカ、ユメの五人だけ。
後にもう一人合流予定ではあるが、
ともあれ紛れもなくマズルフラッシャーの一員たるライホウや、
同じくセキガハラに身を置くヒーローで親しい間柄にあるユウトはこの場に居ねえ。
無論、それには明確な理由があるワケで……
「なんやタイセイ、忘れたんか?」
「キャプテンは彼女さんと里帰りするって言ってたでしょうが」
「ホンゴウさんはタルタロス王国出身同士で集まるらしいですよ~」
「あっ、そうか! ……そうだったな。
なんでかなぁ、すっかり忘れてたぜ~」
「仕方ありませんよ。
こういう時バンバさんが別行動というのは珍しいですし、
ホンゴウくんにしても事ある毎に行動を共にしていましたからね。
それだけ君の中で二人の存在が大きく掛け替えのないものになっていたのなら、
寧ろいいことなんじゃないですか?」
斯くして忘年会は和気藹々と進行していき、
やがてやがてこれまでにあった出来事なんかを語り合う流れになっていく。




