急:ヒーロー大論争
さて、場面は引き続きセキガハラのオフィス。
ライホウの熱弁に一旦は黙り込むユウトだったが……
「熱弁振るって頂いたとこ恐縮ですがね、バンバ先輩……
師匠は生前『自分は間違った存在だ』的なことをわりと頻繁に言ってましてねぇ」
「なに……? どういうことだ……?」
「そのまま言葉通りの意味ですよ。
『どれだけ正義側に属し善行を積もうと、
犯した罪は消えず、殺戮者としての過去も消えない。
罪を償い赦されても、被害を補填できても、
生じた犠牲の何もかもが元通りになりはしない。
ヴィランとして生きた自分には、
本来死を以て償う以外に選択肢などない筈だった』とね……。
ま、その想いさえ表に出すようなもんじゃねえってんで、
原則として門外不出の他言無用、
明かすなら余程信用に値する相手にしろと厳命もされてましたがね。
所謂本邦初公開ってヤツですわなァ~。
無論『さりとて義のもとで善行を積み贖罪に生きるのは重要だ。
開き直り罪悪感すら持たないならそれこそ生きる価値はない。
生きて償える可能性があればそれに縋るべきであり、
義に基づき己を求める者があれば、
極力その需要に応えねばならぬ』
とも言われましたが……
原則『ヴィラン死すべし』ってのが師匠のスタンスでしてねぇ」
「……それはソウキチ氏の私的見解、単なる彼の自説に過ぎんだろう。
この場合の論点は彼の考えではなく、
実際君が殺した五人のヴィランたちにも改心・更生の余地があり、
ヒーローに転身すれば、
結果的に社会全体に莫大な利益を齎す可能性があったという点に他ならん!」
「その主張も結局は先輩の自説でしょうが。
……まあ仮に?
連中に妥当なポテンシャルがあったとしてですよ?
実際トータルで見た時のコスパ・タイパがどんだけだっつー問題もあるじゃないですか〜」
「……彼女たちを更生させヒーローへの転身を補助するのが、割に合わない行為だとでも?」
「断言はしませんが、
低く見積もっても数割方ロクなオチにはなりますめぇ。
何なら致命的な損害を被る可能性とて視野に入るでしょう。
……先輩。賢いあなたなら理解してるハズですね?
ヒーローの育成・養成と維持にどんだけのコストがかかるかってのは……」
「……」
ユウトの言葉に、ライホウは押し黙る。
流石にヤツ自身も『些か無茶苦茶言い過ぎたかもしれん』と実感していたからだ。
「普通に育てても莫大な手間と金がかかる。
加えてしっかり育ち切ったとて常に殉職のリスクが付き纏うってのに、
下手したら育ち切る前に事故って死ぬ可能性も決して低くはねえ。
あとはそもそも当人が精神病んだやる気無くしたで辞めるとか、
装備の不具合や能力の暴走でマトモに運用できなくなるとか、
最悪はヴィラン堕ちで社会に弓引くって展開もあり得る。
ヒーロー養成ってのは、雑な言い方しちまえば超ド級の大博打です。
その支出・規模・利益・損失全てが盛大にインフレしまくってる……
フツーそんなもんに、
しかも国家が政策として手を出すなんざ悪手にも程がありましょう。
だがそれでも現実、博打に勝たなきゃ文明が死ぬ……」
「……そ、そうだっ! だから国家は、社会は"賭け"に挑むのだ!
"賭け"に挑まずして"勝利"など有り得んからだ!
如何に悲惨な"敗北"の可能性があるとしても、
それを恐れてそもそも"賭け"に挑まなない者は、
哀れにも蹂躙され尽くし滅び去る以外に道はないのだっ!
然し"賭け"なんて不安定で得体の知れないものに勝とうと思うなら、
純粋な"賭け"そのものの試行回数を増やす以外に方法はない!
如何なる失敗をも恐れず突き進み、
例えどれだけ失敗したとしても諦めず、
失敗から学びを得た上で新たな"賭け"に挑む!
そうして必死で努力して勝利を掴み取る……
即ち"試行錯誤"以外に必勝法などありはしないのだっ!
……ホンゴウ・ユウト! 君もそれは理解の上だろう!
ともすれば、彼女らを……
あの五人のヴィランたちを問答無用で殺したのが、
如何に罪深い過ちであったかも!
理解できているハズだ! 君ならばっっ!」
「聊か論理の飛躍が過ぎませんかねェ~。
そもそも博打の勝ち筋が"試行錯誤"一択ってのが頂けねェ。
"失敗を恐れず諦めず突き進み、学び努力して勝利する"
…… 確かにそれもやり方の一つでしょうが、
少なくとも博打でそれをやれば、
余程の大金持ちか強運の持ち主でもなきゃ必然自滅……
てか人命かかった博打の"負け"は、
そのまま守るべきモンの死に直結する……
賭け金が人命じゃ"金下ろして見た目チャラ"にもできやしねえ。
バンバ先輩、あなたは医療ミスで患者殺した
言わば"医師免許持ちの殺人犯"を名医と呼ぶんですか?」
これは全くの余談だが、
医師国家試験には"禁忌肢"ってのがある。
要するに"絶対選んじゃいけねえ選択肢"のことで、
どんだけ家柄や点数が良くとも
選択式問題で"禁忌肢"を選ぶヤツは問答無用で不合格っつー、
聊か容赦のねぇ原則があるんだ。
……ま、命を預かる仕事に就く者は厳選しなきゃいけねえってこったな。
実際禁忌肢の内容は
"実際それをやると患者が死ぬ"ようなもんで占められるらしい。
「ならば……ならばどうしろと言う!?」
「当然、予め勝率を上げてくのが最適解でしょう。
ことヒーロー養成で手っ取り早いのは"養成対象の選定"……
相手の能力や気質を吟味し、
育てるに値すっかどうか見極めるってヤツです。
特にヒーローは育成にかかるコストや業務に伴う責任を加味するに、
徹底した厳選が必須になります。
厳選せずに下手なヤツを選んじまったら、
最悪国一つだって滅びかねませんからなァ」
「つまり君に言わせれば、
彼女らはヒーロー足り得ぬ無能だというのかっ!?」
「つーよりは、社会と相容れねえ害悪ってトコですかねぇ。
元より挙動・言動からして奴らに改心・更生の余地は実質皆無……
遭遇した時点で奴らは全員殺すつもりでしたよ。
そうでもしなきゃ、この俺のみならず
あの場の全員が死んでたでしょうからねェ。
何せ異世界由来の怪人部隊となりゃ、何をしてもおかしくはねえ。
……もし仮に、最初の一人二人が死んだ辺りで投降でもしてりゃ、
或いは暫く生かして情報吐かせるって選択肢もあったでしょうが……
仮に奴らがやたら頭の回るクチで、
投降したように見せかけ護送先で悪さする可能性もある以上、
下手に慈悲を見せるよりはとっとと殺しちまった方がいい。
ヴィランをナメて甘やかした結果、
甚大な被害を被り大勢死んだって事例は歴史上枚挙に暇がねえでしょう」
もっと言うなら、歴史的な"ヒーローの大敗"は結構そういう
"ヴィランへの甘やかし"が原因で起こってるのも歴史が証明していた。
「それは、そう、だと、してっっ……!
そうだとして、それらは全て"可能性"に過ぎない!
"そのような事態に陥る可能性"があったとして、
逆に"そうならない可能性"とてあったハズだ!
加えて、何だ!?
"彼女らに改心や更生の余地が皆無"だと!?
なぜそう言い切れる!? 君はそれを証明できるのか!?」
「と、仰いますと?」
「だから! 彼女らに!
改心や更生の余地がないと!
その事実を証明できるのかと!
聞いているんだろうが!
いいかユウト? 仮に君が"それ"を証明するつもりならお勧めはしないぞ!
君がやろうとしているのは悪魔の証明だからだ!
"ない"ということを証明するのは事実上不可能で、
試みた者は総じて破滅的な末路を辿ると相場が決まっているからだ!」
「勿論そんな面倒な真似するつもりは毛頭ありませんがね……
証明する迄もなく現実問題として、
奴らは民衆の身体・生命を不当に害そうとした……
となりゃそんな連中、始末されて当然でしょう。
つーかそもそも、ここで議論し仮に俺を論破したとして、
先輩に何のメリットがあるんですか?」
「メリットだと? 何をわけのわからんことを……!」
「なら言い方を変えましょうか。
ここで俺を言い負かし自分の正しさを証明したとして、
それを経て先輩は俺をどうしたいんです?
謹慎なり退職にでも追い込みたいんですか?
俺を『未来あるヴィラン候補者を惨殺した殺人犯』に仕立て上げ、
ヒーロー業界から追放でもすりゃそれで満足なんですか?」
「そんな、わけがっっ! そんなわけがあるかっ!
……僕は! ……僕はただっ……!
君に『ヒーローとして当たり前の生き方』をして欲しいだけで……!」
感極まり過ぎたか、いよいよライホウは顔を顰めながら泣き出しちまう。
途端、静観を決め込んでたマズルフラッシャーの五人も気まずい雰囲気に呑まれ、
我らがキャプテンのフォローに回らざるを得ず……
「ちょっ、バンバ親分!?
何もそんな泣かんでもエエやないですかっ!
お気持ちはなんとなくわからんでもないですけどっ!」
「そ、そうですよ!
っていうか、被害に遭った方々みんな、
ホンゴウくんに感謝してますし!」
「現場のショッピングモールでも、
各店合同で『遺恨リーパームジョウありがとうフェス』を開催中とのことで……」
「ネットでもスゴい人気みたいね。
動画とかイラストとかあちこちで増えてるし……」
「……なあ、キャプテン。
もういいじゃないか……許してやろうぜ?
怪人の命を奪ってるのはオレ達だって同じなんだしさ……」
「……」
気まずい空気が漂う中、ただ時間だけが過ぎていく……。
そしてユウトは……
(……今日の夕飯何にすっかなぁ。
魚食いてぇし刺身……いやでも生モンの気分じゃねーなァ……)
呑気に夕飯の献立を考えていた。
……ちったあ空気読めよお前。




