エピソード7:エクストラステージ『採石場跡の決闘』
場面はショッピングモールの一角。
「――はい。
確認できた限りのヴィランは全員駆除済みです。
はい。既に送信済みの視覚記録を参照して頂ければ間違いはないかと……。
……ええ。極力店舗側への被害は抑えるように配慮しました。
事後処理班の派遣は……」
ヴィラン集団『チャカイーズ製菓』の面々を始末したユウトは、
変身を解除しつつ『セキガハラ』へ連絡を入れていた。
「……ええ。店舗様側には事情説明させて頂きましたよ。
偶発的な緊急事態とは言え、大切な建物ン中で殺しなんざやっちまいましたんでね……。
……ええ、はい。幸いにも関係各所様からは寛容に対応して頂けました。
それで自分は……はい? ……ええ、勿論自分はそれで構いませんが……
……了解致しました。では報告は折を見て近日中に……
何分油断ならねェ相手ですんで……ええ。はい、では失礼致します」
ユウトは電話口の上司から
『報告は後回しでいいから暫くゆっくりしとけ』と指示を出されていた。
何せヒーローは多忙かつ過酷を極める業種……
種別や雇用形態によっちゃ連勤が数十日続くなんてケースさえあった。
事実ユウトもつい一昨日実に五十二日に及ぶ長丁場の仕事を終わらせて、
組織から長期の休暇を言い渡されたばかり……
今回の戦いは言わば事実上の休日出勤ってワケだ。
(ともすりゃ組織から休めって指示が出るのも必然だが……
それにしたってまさか報告さえ後回しでいいとは予想外だったな。
……ま、早めに纏めて提出しとくか……)
加えて昨今は諸事情から
"ヒーローかどうかに関わらず労基法遵守に徹しよう”って世相なもんで、
"休日出勤"をした労働者には手当や代休をやるのが当たり前の時代……
もし仮に少しでも労働者を雑に扱おうもんなら忽ち破滅に追い込まれちまう。
ブラック企業なんて経営しようもんなら、
よっぽど運が良くてもヒーローにシバかれ社会的に死亡、
殆どはヴィラン化した労働者の手にかかって地獄行き。
経営者自身が異能や怪人の力で会社を支配した場合は最早言う迄もねえ。
……いやマジでさ、
『重税と過労にキレた労働者がヴィラン化して内閣強制総辞職』
ってのも一度や二度どころじゃねーのよ。
「とは言えどーすっかな~」
ショッピングモールの駐車場。ユウトは頭を抱えた。
何せ今日はあの施設で好きに過ごそうと心に決めてたってのに、
ヴィランどものせいで予定は台無し……
(どこか別んとこ行こうにも、なんか気が進まねえし……)
安牌は帰宅、かと思われたが……
ユウトの意識は本能レベルで"外出してえ"って欲求に囚われていた。
つまるところ帰宅なんて選択肢はそもそも存在しなかった。
「全くよぉ~、どこ行こうか迷っちまうなあ~……」
なもんだからひたすらに悩み、迷っていたんだ。
そして、ふと意味深に立ち止まり……
「なあ、そこのアンタ……なんか妙案とかねえかい?」
背後へ忍び寄ってた何者かに、振り向きもせず問い掛けた。
さて、ユウトに負けず劣らず只者じゃなさそうなそいつの返答はというと……
『勿論あるとも。最高のアクティビティのアイディアがね。
もし君さえよければ、案内してあげても構わないが?』
「……ああ、頼まァ」
ユウトの答えを聞いたそいつは、満足げに頷き……
二人は忽然と姿を消した。
所謂、瞬間移動ってヤツだな。
~~~~~~
「……よぉ、何のつもりだ」
場面は変わってどっかの採石場跡……
瞬間移動で飛ばされてきたユウトは、対面の相手に問い掛ける。
『何のつもりと言われても……
案内させて貰っただけだよ、"アクティビティ"の場所にね』
淡々と答えるそいつは、
高級感溢れる白スーツに身を包んだ白髪の"男装女"だった。
背が高く手足も長い、白人風の中性的な美形……
気品と風格に溢れる佇まいは、さながらデキる金持ちか権力者の如く。
黒中心で破落戸じみた身なりのユウトとは対照的だ。
「アクティビティ?
ただの採石場跡跡地でか?
読めねえな……何が狙いだ。
てかそもそもアンタ何者だよ」
『おっと、そう言えば自己紹介がまだだったね。
名乗らせて頂こう。
チャカイーズ製菓代表取締役社長の"ジャバオクタルス・ホワイトナイト"だ。
以後宜しく、"遺恨リーパームジョウ"くん……』
「なにぃ、チャカイーズ製菓だぁ……?」
男装女ジャバオクタルスの口から出たその単語……
ユウトにとっちゃ『聞き覚えがある』なんてレベルじゃねえ。
「それも代表取締役社長って、
あのふざけた連中の上司かよ……」
『驚くのも無理はないことだ。
何せ直近百五十年は実質経営権を持っていなくてね。
所謂名ばかりというのか……会社の象徴、飾り物のような扱いだったんだ。
あんな連中、私が経営権を持っていれば採用すらしていなかったろうよ。
……詳しく聞かせようか?』
「いや結構。
あのクソどもが実質アンタの部下じゃねえと知れたならそれでいい。
で、ホワイトナイト代表取締役社長……聞かせて貰おう。何が目的だ?
まさかさっきみてーに言っときながら『部下の仇討ちだ』などとは言うめえ?」
『無論だ。寧ろ私は君に感謝しているくらいさ。
君のお陰で、あの連中が無価値だと証明されたのだからね。
特に専務のスルファンプティ・トゥルペッタス・ダンペドディと、
人事部長補佐のネムリー・リボインロ・ラットが死んだのは大きい』
「なら何がしてェンだよ。
態々瞬間移動でこんなとこ連れ出しやがって、
俺と殺り合おうってんだろ?
アクティビティってのも要するに"そういう意味合い"だよなァ?
……見え見えなんだよ、そっちの意図なんてな」
『如何にも。概ねご指摘の通りさ。
だが既に言ったように。部下の敵討ちなんて考えちゃいない……。
君と戦いたい理由はねムジョウくん、
極めて単純で個人的な"一身上の都合"ってヤツさ』
「一身上の都合、ねえ……オーケー、何となくだが了解した」
ジャバオクタルスの態度から何かを察したユウトは、
さっと手を翳しベルトを出す。
「そんなら戦ってやる。かかって来な、代表取締役社長」
『感謝するよ、ダークヒーローくんっ』
「……転身」
『アンロックド・ミミック!』
ユウトがベルトを操作しガルムモードに変身すると同時、
ジャバオクタルスも擬態を解除……
白い鱗の上から所々に黄金の装甲を纏う、
タコとドラゴンを組み合わせたようなゴツい異形の怪人に姿を変える。
『ほう、エレェギャップだなァ。
色ぐらいしか元の面影がねえじゃねーか』
『まあ、色気や女らしさの欠片もない姿だとは自負しているよ。
……温度差で風邪でも引いたかね?』
『まさか。温度差があるのは事実だが……
精々サウナで"ととのう"程度のモンだぜっ!』
『ふふん♪ なるほど……
それはある意味、風邪を引くよりも危険だなっ!』
かくしてヒーローと怪人は意気揚々と身構え、
今ここに壮絶な戦いが幕を開ける――かと思った、その時!
『ぐおうっ!?』
鈍器みてーな拳を振り上げたジャバオクタルス。
ヤツの顔面が唐突に"爆ぜて"、"火を噴く"
――そう、まさに特撮怪人が飛び道具を喰らったみてぇに!――
(なっ!? まさかっ!)
事実それは遠距離攻撃、それも銃撃によるモンだった!
瞬間、その事実を見抜いたユウトの脳裏へ"地味に厄介でイヤなパターン"が過る!
(……いや、まあ、待て。落ち着け。
別に"あの方々"と決まったワケじゃねえっ。
まだなんか別の、俺と仲悪いヒーローが横入りしてきたとかかも……!)
想定は想定、確定じゃねえんだと、ユウトは自分に言い聞かせる。
(もしくはアレだ!
"あの方々"ってだけで"あの方"がいねぇパターンかもしれん!
それならまだなんとかなる!
少なくとも最悪のシチュエーションは避けられる!
そうとも、"あの方"さえッ!)
よっぽど"そいつら"が苦手なんだろう、
ユウトは藁にも縋る思いで希望を見出そうとする。
だが……!
「大丈夫かユウト! 助けに来たぞ!」
(居ちゃったぁー……)
響いたのは、亡き恩師程じゃないにせよ聞き慣れた"敬愛すべき男"の声!
声のした方に目を遣ればそこには必然、勢揃いする"六人の若い男女"!
(……なぁ~んでこのタイミングで来るかなァ~。
もうちょっと助けに来るべきタイミングってのがあんだろっ、
古人曰く『ヒーローは遅れてやってくる』ってんだからよーっ!)
さて、これ以上テンポが悪くなっちゃいけねえし、
いい加減説明させて頂こう……。
採石場跡で始まろうとしたジャバオクタルスとユウトの戦いに、
最高のタイミングで割り込んで来たその"ヒーローたち"ってのは……
何と事も在ろうに同じ『セキガハラ』に在籍する先輩ヒーローチーム、
新生『撃鉄戦隊マズルフラッシャー』の面々だったんだ!




