エピソード6:海魔の一発芸"卵の唐竹割り"
(ラッテブララァッ……!
よもやニチャルネッコまでやられるとはタマゴ……!
ただの童貞如きに我が社の幹部社員が次々倒されるとは、
最早現実に起こっとる出来事とは思えんタマゴッ……!)
場面は引き続きショッピングモール内。
全身オレンジ色の全裸チビことチャカイーズ製菓の"専務"は、
ユウトの快進撃に頭を抱えていたが……
(とは言え逆に考えるならば、
今ワガハイがあやつを倒せば社内での評価はまさに鰻登り!
最低でも次期社長の椅子は確実……
場合によってはそのまま政界進出も夢ではないタマゴッ!)
舌の根も乾かねえ間にこの楽観ぶり……
今に始まったことでもねーが、
部下二人が死んで尚ここまでポジティブになれるのはある意味驚異的だろう。
(何よりワガハイは社内でも随一の防御力を誇るタマゴ!
何せこの「タマゴトジ・カプセル」、
今に至るまで如何なるヒーローの必殺技によっても破られたことはなく、
傷付こうとも我がサイキックパワーにより瞬時に修復が可能タマゴ!)
『……超転身』
(加えてカプセル内に満ちる「パクラン・ミロシゲル」の作用により、
ワガハイのサイキックパワーはほぼ無尽蔵! 事実上の永久機関タマゴ!
或いはもし仮にカプセルを破壊されようと、
体内にある心臓部「ランキ・ミオウコア」さえ無事であれば
ワガハイは死なぬしサイキックパワーも使えるタマゴ!
そしてコアの外殻はカプセルと同じ材質で、同じく瞬時に修復が可能タマゴ!)
誰に向けてんのか、独白で自分のスゴさをアピールし続ける専務。
当然ながら、ユウトが形態切替を発動したのにも気付いちゃいねえ。
(そもそもあの童貞はワガハイのカプセルを破壊できておらんタマゴ!
あの不細工なガラクタでもニチャルネッコ程度ならば倒せたであろうが、
前身からしてワガハイのカプセルには無力であったタマゴ!
よもや姿が変わった程度で威力が上がるワケはないタマゴ!
加えて古語に曰く「銃は剣よりも強し」が絶対の鉄則!
とすれば赤い姿や青い姿で使っておった刃物はガラクタ以下のゴミ……
即ちあの童貞如きがワガハイを倒せるワケはないタマゴォ~!
勝っタマゴォ~! ワガハイの完全勝利タマゴ~!)
……この際専務はほっとくとして、だ。
三度の形態切替を経たムジョウの姿は、
今迄のより一回りほどデカく、厳つい。
大まかには"全身緑色のゴリマッチョなホホジロザメ怪人"なんだが、
大まかな外観はメカっぽさ控え目で有機的、
作業着にエプロン、長い手袋に長靴って感じの、
調理師か魚市場の作業員っぽいスタイル。
頭はまさにホホジロザメサメそのものだが、
開かれた大口ん中には真っ黒で無機質な"顔"があって、
宛ら着ぐるみに悪霊か何かでもとり憑いた化け物のよう。
"顔"はユウトの本性を現すが如く邪悪な笑みを浮かべていて、
2008年の実写映画版『リアル鬼ごっこ』第一作に登場する
"囚人くずれの鬼"どもの特徴的なマスクを彷彿とさせるデザインだ。
……ま、あっちと違って目と口はどっちも緑色だけどな。
『……やっぱどうしても身体が重てえなあ』
その名もフォルネウスモード。
見た目通り水中戦で真価を発揮する形態で、
ユウトの言うように空気中じゃ多少その動きは鈍重になっちまうが、
それを補って余りあるパワーと破壊力が持ち味だ。
とは言え、その実態を専務が理解できるワケもなく……
『フン! 何を考えとるのか知らんタマゴが、
このワガハイを前に形態切替など全くの無意味と教えてやるタマゴ!
出でよ、トゥイードル・アームズっ!』
専務の声が響くと同時、
カプセルの両サイドにやたらデカいメカアームが現れる。
そのサイズは大体小型油圧ショベルのアームより一回り大きいぐらいか。
腕の先端はどっちも格闘武器で、
右腕は回転鋸、左腕は肉厚の刃になっている。
『これなるはライオンダム・ノコ並びにユニコーンディー・ナタ!
我が切り札にして連戦連勝負け知らずの必殺武器タマゴッ!』
『連戦連勝負け知らず……ねえ。
まあ、一度も戦ってなきゃ負けるわけもねェかァ~』
『ラッ、テッ、ブッ、ラァァァッ! この腰抜け童貞がっ!
そんな風に言っておれるのも今の内タマゴッ!』
ユウトの安い挑発に乗せられた専務は、
左腕のユニコーンディー・ナタを力任せに振り下ろす。
大方『見るからにノロマそうだし容易く切り裂ける』
とでも思っていたんだろうが……
『あぶねえなァ』
『なあっ!?』
ユウトは事も在ろうに、
振り下ろされたアームを片手で受け止めやがったんだ。
『クッ、ならばより悲惨な最期を遂げさせてやるタマゴッ!』
余計イラついた専務は続け様に、
右腕のライオンダム・ノコでユウトを切り付けようとするが……
『よっこいせッ』
『ぬおおわああああっ!? バカなぁっ!?』
ユウトに引っ張られたせいで手元が狂い、
事も在ろうにユニコーンディー・ナタをぶった切るポカをやらかしちまう!
『……まあ、これでいいか』
切断されたメカアームを奪い取ったユウト。
この後の展開なんざもう、概ね予想つくだろうが……
『断ち切る刃は海魔の顎が如く……』
専用武器の形成だ。
ユウトが意味深に唱えるのに合わせて出来上がったのは、
柄の長さ一メートル半、先端部に数十センチの刃がついた若干細身の戦斧。
三日月形の刃部分にはサメの目や連なる歯、背鰭みてーな意匠が見受けられ、
全体的に鮮やかな緑色を中心としたカラーリングもあって、
まさにフォルネウスモードで使うのが前提のデザインと言えるだろう。
『フン、何かと思えば斧かタマゴォ~?
そんな見掛け倒しの武器とも言えぬ飾り物がぁ~
極限まで無駄を削ぎ落とし実用性だけを高める設計のされた、
このトゥイードル・アームズに勝てるわけないタマゴッ!』
『なら見せて貰おうじゃねえか、
"無駄を削ぎ落とし実用性を高めた武器"の性能とやらをっ』
意味も無くカッコつけた台詞を吐き捨てたユウトは、
大理石の床を損壊させねぇよう加減した踏み込み加速!
一気に距離を詰め懐に入り込み……
『ッシャアッ!』
『ぬがーっ!? ライオンダム・ノコがぁぁっ!?』
下方向からの切り上げでもって、
見事残りのメカアームをも根元から切り落とし機能停止に追い込む!
『ラテブラァ~!
ただの"まぐれ"で成功したからと、調子に乗るなタマゴッ!
こんな武器の換えなんぞ、幾らでも用意できるタマ――
『ショゥアッ!』
攻め手を失って尚息巻く専務の脳天目掛けて、
ユウトは容赦なく戦斧を振り下ろす!
『ゴォォォォオオオオオオッ!?』
緑色の斬撃エネルギーを纏った刃は、
専務をカプセルごと真っ二つに両断!
一応コアは掠り傷に留まっていて、
僅かばかりは生き永らえたようだが……
『えっ、ぐ……こんな、ハズが……
……ワガ、ハイの……次期社長の、座がぁぁっ……!
……む、ムネン……ムネェン……極端に無念、タマゴォォォッ……!』
掠り傷を起点に亀裂が広がっていき、
修復する間もなく砕け散り木端微塵……
生命活動の中枢を破壊された専務は壮絶死。
元々水分量の多かった亡骸は、
無色透明の液体に姿を変え跡形もなく溶解した。
『……さて。台詞からしてこのチビがバリアの根源ぽいし、
これでお客様方やスタッフの皆様方が店外に脱出できてりゃいいんだが……』
どうにも不安げなユウトだったが、ヤツの憶測は当たっていた。
事実ショッピングモール全体を覆っていたバリアは専務が発動した代物で、
発動者が死んだと同時に解除され、
閉じ込められていた買い物客や店員たちは無事外に出ることができたんだ。
補足
端々のワードから分かる通り(?)専務のモデルは「不思議の国のアリス」の続編「鏡の国のアリス」に登場するハンプティ・ダンプティ……なんだが、
ぶっちゃけ本家ハンプティ・ダンプティについてよく知らないというか、
無知故のガバから「不思議の国のアリス」に登場する双子のディム&ダムと情報がごっちゃになってた所もあって、
こういうよくわからないキャラになってしまった所がある。
なので(他のチャカイーズ製菓の面々にしてもそうだが)原作と違うって思えても「まあこいつなんてその程度か」と思っといて欲しいのであって……




