エピソード4:鴉に導かれた帽子屋、その行き着く先は死
場面は前回から引き続きショッピングモールのイベント会場!
『そ、そんニャ……ネムリーに続いて、ボインバまでっ……!』
『あ、有り得ないっ……! 有り得ないのデスヨッ……!』
『ふむ……童貞の癖にボインバをああも簡単に蹴散らすとは……
どうやらただの童貞ではないようタマゴなぁ……!』
ヴィラン組織『チャカイーズ製菓』の巨乳バニーガール怪人
ボインバ・O・ππ・ニーギャルの壮絶な死に様に、
残る三人の女ヴィランどもは呆気に取られ呆然と立ち尽くすばかり……!
『……なんだお前ら、まだそこに居たのか?』
そんな三人へ、ユウトは至極真っ当な疑問を投げ掛ける。
曰く……
『……俺がこのバカぶっ殺してる隙にお客様方捕まえて逃げるなりしときゃ
とりあえず最低限の仕事はできたろうに、
何をボサッと突っ立ってんだよ。おかしいだろ……』
『ぬう……!』
『ニャッ……!』
『デスヨッ……!』
ユウトの指摘はまさに的確……
イタズラに損害を出しちまったマヌケな女怪人どもは、グウの音も出ず黙り込むばかり。
……とは言え一応、そうしなかった理由そのものはあった。
その理由……
割合にして五割五分を占めるのは
『生意気なヒーローが惨敗する姿を見たかったから』
残る四割五分の内側三割三分を占めるのが
『合理的に動いたら格下みたいで負けた気がしたから』
更に残る一割二分の内訳は多い順に
『上手く割り込んで手柄を横取りすれば出世のための点数稼ぎが楽になるから』が五分……
『ボインバがヒーロー如きに負けるわけはないと確信していたから』が四分……
『仲間を見捨てるような真似をしたら周囲からの評判が悪化しかねないから』が三分……
とまあ、軒並みゴミみてえなのばっかりで。
……そりゃ〜、
見栄っ張りでカッコつけたがりな『チャカイーズ製菓』の面々からしたら、
そんな理由なぞダサ過ぎて到底敵に明かせるワケもねえ。
『まあ、何のつもりかは知らねえがよ……
一騎打ちで連戦してえんならそれでも構わねえぞ。
……バテ散らかすまで付き合ってやらァ』
(((!!!)))
ユウトの何気ないボヤきに、女ヴィランどもは何かを感じ取る。
(……そうタマゴッ! 確かにボインバはやられたタマゴッ!)
(けれどそれでも、あのイタ過ぎ腰抜け童貞は間違いなく消耗してるのデスヨッ!)
(やり様によってはあの中二病ヘタレ童貞を楽に始末できるニャ! 即ち……)
(((上層部に媚びを売って出世できる大チャンス……!)))
曲がりなりにも同僚が目の前で呆気なく殺されたってのに、
ここまで状況を楽観視できんのは最早ある意味才能の域じゃねえかと思う()。
……まあともかく
"遺恨リーパームジョウ"対"チャカイーズ製菓幹部社員四人衆"による一騎打ち四番勝負……
ボインバに続く二番手として名乗りを上げたのは……
『ここはズバリ、このワタクシ……チャカイーズ製菓幹部社員随一の策士こと、
ミナドーマ・ハッター・O・π・K・メチルーン・マキュリーの出番なのデスヨ~!』
これまたふざけ散らかしたノリで、
かつやたら乳のでけぇ中性的なノッポのショートヘア女……
その名も"ミナドーマ・ハッター・O・π・K・メチルーン・マキュリー"。
名前の長さに比例してんのか(?)服装の情報量も中々多く、
明るい若草色のハイレグ・レオタードの上からどぎついオレンジ色のタキシード・ジャケットを羽織り、
深緑のやたらデカいフェルト製シルクハットにこれまたデカくて派手な柄の蝶ネクタイ……
タキシードの下に着たシャツは毒々しいまでのピンク色で、
サイズが合ってねえのかボタンも留めておらず、
胸の谷間がこれでもかと露わになってやがる。
……余りにあからさま過ぎていっそ安っぽく滑稽なその有り様は最早、
"いやらしくてエロい"ってより"はしたなくて下品"な印象を与えるだろう。
両脚はボインバより一回りほど太く、
黒ストッキングにモスグリーンのロングブーツってスタイル
……なんだが、ブーツはやけにゴツくてメカっぽく、
何か仕掛けがあるのは火を見るよりも明らかだった。
『……御託は要らねえ、来るならとっとと来い。
極力読者が飽きねえ内にな……』
『フンッ! メタ発言でカッコつけとは、これだから童貞はいかんのデスヨ!
運良くボインバを倒した程度で調子に乗ってるのデショウが、
そうしていられるのも今の内……ワタクシが現実を教えてやるのデスヨ!
イッツ・ア・ショウタァ~イム!』
手垢に塗れた月並みな台詞を吐いたミナドーマが気取ったポーズを取れば、
でかい乳はシャツ越しに大きく揺れ、
ゴツいブーツやデカい帽子、ジャケットの袖なんかが変形しては、
中から銃口とも噴霧器とも排気口ともつかねえ筒の束が現れる。
『フン、愚かデスネ腰抜け童貞ヒーロー!
ナンジはその未熟さ故に身を亡ぼすこととなるデスヨ~!
喰らうデスヨ~! ドーテーキラー・ハツジョースモーク!』
『なんだその知性の欠片もねえ技名は――ぐうっ!?』
カッコつけたミナドーマが技名を宣言すると、
ヤツの五体に備わる筒の一本一本から色とりどりの毒ガスが勢いよく吹き出す!
如何にも人畜に有害そうな色合いのそれは、
しかもどうやらミナドーマの意思で操れるらしく、
瞬く間にユウトの全身を覆い尽くしちまった!
『クソッ……視界がっ……てか、足が動かねえっ……!』
『フッフッフ! フが三つっ!
ワタクシのドーテーキラー・ハツジョースモークはッ!
物体を接地面に固定し移動を封じる効果と、
童貞の溜まりに溜まった性欲を掻き立て各々の身勝手で身の程知らずな幻想を反映させた
"理想の女性(笑)のヴィジョン"を見せ付け魅了し骨抜きにする効果を併せ持つデスヨ!』
(あー、クソっ……
これなんか焼き払ったら粉塵爆発起こりそうでヤだなあ……)
ガスに包まれ身動きの取れないユウトを嘲笑うように、
ミナドーマは大袈裟なほど派手に芝居がかった仕草を交えながら自分の必殺技を解説していく。
『特に後者の効果は強力無比!
一度発動すれば逃れられる童貞はこの世に存在しないのデスヨ!
事実今に至るまで多くの童貞がこの能力の前に惨敗を喫してきたのデスヨ!
何せこのドーテーキラー・ハツジョースモークは
どんなに頑丈なバリアや装甲も通り抜けることができるのデスヨ!
というかそもそも相手の魂に作用するので、サイボーグや幽霊にも効果があるのデスヨ!
まさしく最強無敵で究極の必殺技なのデスヨ〜ッ!』
(やっぱ店ん中壊したくねーしアレかな……)
……当然ユウトが煙の中で着々と準備を進めてる
≒非童貞だからガスの魅了が効いてない事実にもまるで気付きゃしねえ。
『どんなに強いヒーローでも、どんな能力を持つヒーローでも、
童貞である以上この煙からは決して、絶対に、何があっても逃れられないのデスヨ!
よって童貞であるナンジの惨敗は決まったも同ぜ……ん……?』
大声で延々と要らねえ講釈垂れ流してたミナドーマ。
ヤツが異変を察知したのは、実に毒ガスを撒き散らしてから一分以上経過した頃だった。
『そ、そんなっ……!
いったい何がっ……何が起こったのデスヨッ!?
なぜ……なぜっ……
なぜワタクシのスモークが、綺麗サッパリ消えてるのデスヨーッ!?』
目の前に広がっていたのは、ミナドーマからすりゃ到底受け入れ難い、
まさに目を疑うような光景だった。
何せヤツがたっぷり撒き散らした色とりどりの毒ガスは、
あたかも最初から存在しなかったみてーに丸ごと消え失せていたんだからな。
『……よぉイカレトンチキ、
すまねぇが空気をキレイにさせて貰ったぞ。
お前の屁とワキガが洒落にならんぐれーキツかったんでな……』
『なっ……!?』
毒ガスを消し去ったのはユウトだったが……
ここに来てミナドーマは再び目を疑った。
というのも……
『腰抜け童貞っ、その姿はいったい何なのデスヨっ!?』
ユウト……もとい遺恨リーパームジョウの姿は、
まるで別モンかってぐらい大きく様変わりしてたんだ。
毒ガス浴びる前の姿を"パワードスーツを着込んだ赤いイヌ科肉食獣の怪人"とするなら、
こっちはさしずめ"ペスト医師風味の青いカラス型怪人"ってトコか。
比較的細身で軽装甲、背中には折り畳まれた翼があり、
身体の各所には果たしてどんな働きをすんのかよくわからん装置が点在している。
……察しのいい読者のみんなはとっくに気付いてるだろうが、
この姿はユウトに埋め込まれたムジョウシステムのある機能によるもんだ。
『……幹部社員随一の策士が随分とバカな質問をするじゃねぇか。
形態切替だよ。
状況に合わせて姿を変える……変身する系のヤツなら珍しくもねえ』
その機能ってのはズバリ"形態切替"。
要するに特撮ヒーローが難敵への対処や玩具販促のためによくやるアレだ。
『さっきのはガルムモードで、こっちはヤタガラスモード……
機能はまあ、太陽光発電とか空飛んだりとか色々あるが……』
屈み込んだユウトは何を思ったか、
地面に転がるボインバの肢骨を片手に四本ずつ、合計八本手に取る。
『……聖鳥の翼、その恩恵に与らん……』
抉った太腿の肉をガントレットに変えた要領で意味深に唱えると、
ボインバの肢骨は鳥の翼を象った幅広のカットラスに姿を変え、
うち二本はユウトの手元に、残りの六本はユウトの腰にあるホルダーへ収まった。
『くっ、小癪な真似を……
デスガ、スモークを無効にした程度で勝ったと思うなデスヨッ!
ワタクシを、スモークで動きを封じ無抵抗になった敵を痛め付けるしか能のない、
そんな三流怪人だと思ったら大間違いなのデス――――』
『シャァッ!』
『――ヨオッ!?』
早口で捲し立てるミナドーマ……ヤツの視界からユウトが消える。
『き、消えたっ!?
ええい、童貞めっ! 次は何をしたのデ――』
『遅え』
『ズウウウウウッ!?』
次の瞬間、ミナドーマはド派手に吹き飛んでいた。
背後を取ってたユウトに蹴り飛ばされたんだ。
……ユウトに代わって説明すると、ヤタガラスモードは機動力特化の形態だ。
まあ、他形態共々相対的に見りゃヒーローでも平均レベルなんだが、
と言ってミナドーマにしてみりゃ平均的な機動力特化形態でも大概脅威だったようで……
『……いけね、その先はレジだった……
オラッ』
『ぐへえっ!?』
『あっ、サービスカウンターが危ねえっ』
『どぐえあっ!?』
『パン屋を死守っ』
『ぼごっ!?』
『野菜コーナーっ』
『ぎょあっ!?』
そっから先はまあ、酷いモンで……
ユウトがミナドーマを蹴り飛ばしちゃそれを追っかけ、
更に蹴っ飛ばしちゃ追っかけの繰り返し。
……例えるなら
『超スピードで動ける超能力者の子供が、
友達居ないから一人でサッカーやってる』っつーの?
なんかマーベルとかDCとかの洋画か、平成期のジャンプにありそうだよな。
あんな感じ。
……まあ、ボールに相当すんのが敵な時点で相当異常な光景ではあるんだが。
しかも、それどころか……
(……やべえな、武器使ってねえ)
こんな心配をする始末。
恐らく読者のみんなは『どうでもいいだろ』と思わずにいられねぇだろう。
だが当人にしてみりゃ結構深刻な問題のようで……
『ぐひいえええっ――』
『オラァ! 複数枚下ろしだッ!』
『デッスヨオオオオオ!?』
すれ違いざま、目にも止まらぬ連続斬撃が炸裂。
ド派手な衣類ごと細切れにされたミナドーマ……当然助かるハズもなく、
切り裂かれた肉片は軒並み分子レベルで崩壊、跡形もなく霧散し風に消えていった。
『……これじゃ下ろしじゃなくてツミレだな。
まあいい……これで二人目、折り返し地点だっ……』
補足
ミナドーマのモデルは「狂ったお茶会」の帽子屋で、
帽子屋が狂人扱いされる理由が当時帽子屋の職業病と呼ばれた水銀中毒なため、
そこから連想して我が国で起きた悪名高き水銀中毒事件「水俣病」と
その原因物質メチル水銀を名前に組み込んである。
毒ガスを撒き散らす攻撃方法もそこから来ていて、
ユウトがミナドーマの毒ガスをヤタガラスモードの能力で浄化しそのまま倒す展開には
『水俣病のような災害が二度と起こらないように』との願いが籠められている。




