プロローグ1:最悪の怪人
~ここに至るまでのA☆RA☆SU☆JI☆~
時は現代! 様々な動機を拗らせた結果人畜を害するに至った"ヴィラン"と、
ヴィランに対抗する正義の戦士"ヒーロー"たちの戦いは何千年にも渡って続いていた!
戦いは常に凄絶かつ過酷を極め、悪も正義も数多の犠牲を出しつつ鎬を削る日々!
当然『正義は必ず勝つ』の理屈ばかりが通る筈もなく、
ヴィランがヒーローを打ち負かし勝利を搔っ攫った時代も少なからずあった!
だが同時にヒーローたちも敗けっぱなしでは終わらず、
大抵の場合は何かしらの形で勝利を果たしていた!
この物語はそんな日々壮絶に戦いの続く地球に産まれた、
とあるヒーローたちの生涯の記録である!
場面は、何処とも知れない閑散とした荒野……
「ぐっ……!」
「くそっ、こんなバカな……!」
「なんて強さなの、こいつ……」
「まさかディスペアーがこんな戦力を隠し持っていたなんて……」
「Oh……No……想定GUYだZ……」
傷付き倒れ伏す、大勢のヒーロー……
それはまさに、絶体絶命の惨劇だった。
『……』
その場でただ一人、何事も無かったように佇む男……
甲冑に身を包んだドクロの騎士って風貌で、
どう見たって人間じゃないし、加えて明らかに善玉でもなさそうだ。
『……フン、他愛もないな……』
冷淡に吐き捨てるそいつ……
台詞から察しはつくだろう、この男こそ惨劇を引き起こした張本人……
大勢のヒーローたちを単独で返り討ちにして、
まだ涼しい顔で余裕をかますふざけた野郎だった。
『……』
男の正体は、ヴィラン組織が生み出した戦闘用のヒト型生体兵器……
要するに、怪人ってヤツだった。
「どうすればいいの……どうすれば……!」
「……もう、諦めるしかないっての……?」
怪人の戦闘能力は圧倒的で、
誰もが『勝てない』と心で理解せざるを得ねえ程だった。
みんなあきらめムードだったよ、通夜みてえな雰囲気ってヤツさ。
「……!」
ああ、まあでも、ただ一人例外なヤツも居たな。
まだ諦めず、ほんの少しの可能性にもしがみつこうとしてるしぶといヒーローが。
「……っっ、ぬぅっっ……!」
そいつの見た目はまあ、サイボーグの厳つい侍って感じ?
実際ヒーローネームも"装甲武者マシンサムライ"とそのまんまだったしな。
「……諦めて、なるものかっっ……!」
ボロボロだった。満身創痍だった。限界だった。
だがマシンサムライは、それでも立ち上がった。
ここで諦めたらヒーローの名折れだと、
こいつをここで倒さなきゃどうしようもねえと、
気合と覚悟だけで立ち上がったんだ。
「おい、止せマシンサムライ!」
「無茶よ! そんな身体じゃ戦えないっ!」
「Comeback!! Comebackマシンサムライ!
戻るんDA! SINじまうZ!」
当然仲間のヒーローたちは止めに入ったが……マシンサムライは聞かなかった。
火花を散らし、血を滴らせ、オイルを垂れ流しながら、怪人に全力で殺気を向け、ただ進む。
『……なんだ、貴様は』
声が届く距離まで近付いた所で、怪人が気だるげに問い掛けた。
「……某こそは、ヒーローギルド『玉鋼の武士道』一番隊が長!
名を"装甲武者マシンサムライ"と申す!
……怪人よ、貴殿の名はっ!?」
返って来た返答は、まさに王道の武士って感じの……
名前に恥じねえ雄々しく勇猛なモンだった。
『……』
ともすりゃ面食らった怪人は、
けれど面白がってか"乗ってやる"ことにしたようで……名乗ったのさ。
『……ハイパー、デスナイト……
秘密結社「ディスペアー」の"超死霊騎士ハイパーデスナイト"……
それが、私だ……』
~~~~
超死霊騎士ハイパーデスナイト!
名前通りのメチャクチャ分かりやすい見た目をしたそいつは、
ヴィラン組織『秘密結社ディスペアー』が生み出したまさに最強の怪人だった!
あらゆるヒーローが奴に戦いを挑んだが、
どんな相手にもハイパーデスナイトは敗けなかった!
その華々しい戦績は最早説明するのも面倒なレベルなんで割愛するが、
とにかくシンプルに強かったってだけ覚えときゃそれでいい!
……例えるなら初代のウルトラマン的な感じの強さっつーの?
スゲー装備とか特殊能力なんかに頼らず"単純に最強"だったワケだ!
奴の強さはそりゃもうとんでもなくて、
当時のディスペアーは最強のヴィラン組織ってんで世界に名を馳せてたが、
その要因ってのも概ねハイパーデスナイトの功績だったほどだ!
だがハイパーデスナイトの、
そして奴に乗っかってたディスペアーの天下も永遠には続かなかった!
何せ時が経ちゃ必然、色々と変化するからな!
それはヒーローやヴィランも例外じゃなく、
奴らは移ろう時代に合わせて日々研究と研鑽を続けてた!
ともすりゃハイパーデスナイトのシンプルな強さにも限界が見え始める!
何せ同世代の怪人やヒーローが平均十年前後で引退する所を、
奴は二十五年も現役を続けてやがった!
それも、新装備も強化改造も無しに、
ただの特訓や鍛錬、ごく有り触れた健康管理だけで、だ!
……全くイカレてるとしか言いようがねえが、
それがディスペアーって組織だった!
『ハイパーデスナイトは常に最強で無敵!
即ちディスペアーも永久に不滅! 余計な強化など金と資源の無駄!』
ってのが奴らの言い分だが、
要するに過去の栄光に縋り付くただのアホでしかねえ……。
んで、当のハイパーデスナイトもバカ正直なクソ真面目野郎でよ。
何を思っても上に意見なんて絶対にしなかったんだ。
んで結果、組織は腐り始め……ついにその日はやってきた!
そう、『秘密結社ディスペアー』壊滅の日が!
~~~~
「行くぜみんな! アルティメットキャノンブレイクだ!」
「「「「オッケー!」」」」
「アルティメットキャノンブレイク……ファイア!」
「「「「「ファイアッ!」」」」」
『何のこれしき、避けられずとも受け流してみせ、ぐうあああああ!?』
その日、組織に引導を渡したのは
新進気鋭の『撃鉄戦隊マズルフラッシャー』ってヒーローユニットでな。
名前のまま(?)全員が何かしらの鉄砲を使いこなす、
まあ破壊力と技術力に特化したよーな連中だったんだが……
肝心の(?)敵が弱りきってたせいだろう。
奴らの活躍ときたらヒーローがヴィラン組織を壊滅させるってより、
先進国の軍隊が時代遅れな途上国の独裁政権を蹂躙するような有り様で、
殆どの構成員は即死かさもなきゃ戦いもせず降伏かの二択……
唯一ハイパーデスナイトがある程度善戦はしたが、
まあ言う程長続きもせず惨敗しちまってな~。
(……最早、これまでか……)
マズルフラッシャーの必殺技『アルティメットキャノンブレイク』
数多の怪人に引導を渡して来た必殺の一撃は、
当然ハイパーデスナイトにも深傷を負わせた。
必然、もうこりゃ助からねえなと腹ァ括った"元"最強怪人だったが……
「……騎士よ。まだ生きているな?」
死を待つばかりの怪人へ、やたら親し気に話を振った奴が居た。
「意識があるなら、一先ず私の話を聞いておけ」
なんだか謎に上から目線で一方的に絡んできたのは、
やけにノッポで顔のいいロン毛の女……
マズルフラッシャーに名を連ねるヒーロー『レールガンマイスター』だった。
まあ要するにスーパー戦隊の追加戦士枠だと思っときゃいい。
(実際、変身して戦うようになったのはチーム結成からしばらく経った頃だったしな)
なんやかんやテキトー言って他の面々を下がらせたレールガンマイスターは、
死にかけのハイパーデスナイトに馴れ馴れしく語り掛けちゃあれこれ詮索し……
終いにゃとんでもねえことを言い出しやがった。
「なあ、騎士よ。お前さん……ヒーロー、やってみないか?」
『……はあ?』
思いがけねー言葉に、死にかけの怪人は間抜けな声を漏らした。
だってそりゃそうだろ。
今まで数十人ものヒーローをぶっ殺し、
その倍以上を再起不能や引退に追い込んで、
当然民間人の命だって何百と奪い続けてきた……
そんな悪の怪人に『ヒーローやらないか』なんてよ、
正気の沙汰じゃねえやなあ。
(何を、わけのわからんことを……)
当然デスナイトも突っ撥ねるつもりだった。
確かに前例がないワケじゃねーのは知ってたが、
それでもガッツリ悪事に手を染めてた自分がヒーローに転身なんて有り得ねえってな。
(そもそも私の顔と悪名は既に世間へ知れ渡っている……
今更ヒーロー活動などしたところで、上手く行くわけがあるまい……)
とりあえずもう、何を言われても適当に受け流していよう……
ハイパーデスナイトはそう決意した。
あーでもねーこーでもねーとダラダラ引き延ばしてりゃ、
必然遠からず自分は死ぬ……そうなりゃヒーローになんてなりようがねぇ。
あの女が何を考えてんのかは知らねーが、
ともかく自分はもうこのまま死ぬんだ、
自分みたいな奴は死ななきゃならねーんだと、
怪人はそうハラを決めてやがったワケだ。
(『ディスペアー』と共に、私も滅び去る……
それが受け入れるべき運命だろう……)