歪んだ友情劇
狂気愛みたいな話です。
あー…あれ?なんだこれ。
大事に想えば想う程、私は狂ってゆく。
大好きな可憐。大好き、大好き、大好き。小さい頃からずっと一緒。小さい頃から可愛い顔をしていて、笑顔は飛び切り可愛かった。そんな彼女が大好きだ。いつも私のことを慕ってくれて、可愛い声で「奈津美ちゃん!」と呼ぶ。大好き、大好き。
可憐は、私だけのモノ。
誰にも渡さない。渡したくない。可憐の友達は、私だけで充分なの。だから、他はイラナイ。
可憐に近寄ったら天罰を下すの。
可愛い可憐を、汚いやつらに渡してたまるか。だから、天罰を下してやる。
天罰を与えたら、ホラ…誰も可憐に近づかない。
その程度の思いで可憐に近づいた罰よ。
でも、なんで?私は可憐の為にやったのに。いつも可憐は悲しそうな顔をする。
もしかして、やり方が生ぬるいのかな?きっとそうだ。ごめんね、可憐。今度はもっと厳しくするから…。
嫌がらせを酷くした。
もう、本当に誰も可憐に近づかなくなった。
これでいいの。可憐は私だけのものなんだから。そうでしょ?可憐。
きっと可憐も同じ気持ち。けど、また悲しそうな顔をした。
最近は、可憐の本当の笑顔を見ない。
何故だろう。不安が積もる。可憐に何かあったのかな、と。
なんて不安に思っていたら、最近可憐は元気がいい。よかった、なんて思っていた。けど、それは最初だけ。
だって、その原因が分かってしまった。
可憐に好きな人が出来た。
彼の名前は福山晃。女みたいな名前して…私から可憐を奪おうとしている。
そう思うと、ヤツにだんだんと怒りを覚えていった。
天罰だ。天罰を与えればいい。
そう思って、またいつもの天罰を下した。なのに、ヤツは可憐から離れない。イライラしていた。離れろ、と何度呟いてみても、ヤツは可憐から離れない。可憐も嬉しそう。
彼が可憐から離れない理由がわかった。
彼も、可憐のことが好きだったのだ。そして、最悪なことに二人は付き合っていた。
今までその事実に気づかなかった。何故なら、可憐は私に何も言わなかったから。可憐が彼を好きだということも、両思いだということも。付き合ったということも報告されなかった。それでも私がこのことを知っていたのは、まず可憐の視線。そしてヤツの可憐への視線。そして…放課後、照れながらキスをする二人。
何で、何で、何で。
―――ああ、そうか。ヤツが私の可憐に報告しないように言ったんだ。そうに違いない…。
そう思うと、ヤツへの怒りがふつふつと表れはじめた。
―――天罰がきかなかった。それなら、殺してしまえばいい。
私はその二日後、彼を殺した。
彼が苦しむ様を見るのは快感だった。笑いが止まらなかった。
―――これで、可憐は本当に私だけのもの…
そう思うと、大きな安心感を得られた。今までは正直不安で、可憐に近づくやつに「天罰」と称して酷い嫌がらせをしていた。それをすることで可憐には誰にも近づかなかった。それでよかった。
しかし、ある日聞いてしまった。
『あいつおかしいよ!可憐ちゃんといつも一緒に居る…』
『澤田だろ!?あいつ頭おかしいよな!』
『澤田さんてさ…怖くない?』
『怖いよね…可憐ちゃんを縛り付けてさ…』
『アイツ、アタマオカシイ―――』
みんな揃って、私のことを「おかしい」とか「怖い」っていうんだ。
でも、私はそんなの気にしなかった。汚い低俗のやつらに何言われたってよかった。
しかし、ある女子の「可憐を縛り付ける」の言葉に反応した。
縛り付ける?違う。私は縛り付けてなんかいない。可憐は私の大事な…
そこまで言うと、一人の男子が口を挟んだ。
『可憐、可憐ってさ。お前、レズじゃねーの!?』
『レズってなにー?』
『ばか、レズっていうのはな、女しか愛せない女のことをいうんだよ!』
『えー…もしそうだとしたら、可憐ちゃん超可哀想…』
違う。レズ?ふざけんな。そんな低俗な考え方しか出来ないのか…
私は可憐しか愛せない。それはきっと可憐も同じだと信じている。
しかしその愛は、恋愛ではなく友情。
…そして、あの「縛り付ける」という言葉に反応したのも、心の何処かで私の可憐への愛は酷く歪んでいて醜いと認めていたから。
そう、図星だったのだ。
殺してしまおう。直感的にそう思った。
けど、相手は数人いる。いくらなんでもマズい。
結局、殺せなかった。やりきれない気持ちでいっぱいだった。舌打ちを何度してみたことだろう。
だから、今度はちゃんと邪魔者を消せて嬉しい。
きっと、心から喜んでいる。
嬉しすぎて、帰路を歩きながら薄ら笑いを浮かべる。そのせいか、道行く人がみんな私の方を見る。そして一言、「ヤバい。あの子頭イッちゃってる…」。けど、別に悲しくもなんともなかった。今の私は喜びの絶頂にいて、周りの言葉なんか気にならなかった。
自宅を目指していると、家の前にひとつの影。一度舌打ちをするが、そこにいたのは可憐だった。
「可憐…!」
走って近寄ると、可憐は大きな声で「近寄んないで!」と叫んだ。突然の出来事で、全く掴めない。暫くフリーズした後、声を懸命に喉から搾り出して「え…?」と聞き返した。可憐を改めてみる。いつもの可憐じゃない。どこか、殺気立っている…。そう感じた。
「裏のほううつろ。」
相変わらず表情は怖いまま、私は可憐についていった。静かに可憐の後ろ姿を見つめる。
ふと、可憐が口を開いた。
「あたしが小学校の時…」
体を強張らせた。「天罰」のことかもしれない。
「誰も、あたしの傍に近づかなかった。だから、あたしの友達は奈津美ちゃんだけだった。」
今可憐がどんな表情をしているか、全く掴めない。ただ、可憐の話を静かに聞いていた。
「寂しかった。なんでみんなあたしに近づかないのかな、って。けど、ある日トイレで聞いちゃった。みんながあたしに近づかない理由。」
そう言うと、可憐はゆっくりと振り返った。
「奈津美ちゃんだったんだね」
そう言った可憐は無表情だった。目が死んでいるような気もした。かと思えば、微かに笑みを浮かべた。
「けど、感謝してるよ?あんな汚らしいやつらからあたしを遠ざけてくれて…」
あれ?可憐ってこんな子なの?
今私にあるのは、焦りと不安、そして可憐に対しての恐怖。
「でもさぁ。何、人の彼氏殺してくれてんの?」
体が固まった。だって、そう言って可憐が取り出したものはナイフ。
ああ、彼もこんな気持ちだったのかな。なんて心では平静を保とうとしていた。
「『天罰』…だっけ?ははっ、今のアンタにぴったり」
可憐に殺されるのは怖くない。けど、私の知らない可憐には恐怖を感じていた。
この子は、可憐じゃない。
「バイバイ。」
ゆっくりと、体にナイフを沈ませてゆく。不思議と痛くなかった。深くなってきたところで、とてつもない苦痛が私の体を貫く。悲鳴もでない。恐怖と痛みで、頭がおかしくなりそうだった。
死ぬ間際に聞こえた、可憐の言葉。
「あたしに利用されてくれて、ありがとう」
満面の笑みでそう言っていた。
結局、可憐はみんなの前で自分を偽って演じていたのだ。「可愛い可憐」を。
可憐は、私にさえも殺す間際まで本性を表さなかった。
ああ、私殺されたのに凄く嬉しい。
だって、可憐が本性を見せたのは私だけ。
やっぱり可憐は私だけのもの。私は可憐にとって特別な存在。
「可憐」な姿はもうない。醜い心をもった、「歪みの可憐」。それでいい。
もっと心を歪ませて。醜さを出して、私に見せて。
可憐も私と一緒に苦しめばいい。
そして、二人一緒に苦しい人生を送るの。私はもう可憐の手によって人生に終止符を打たれてしまったけど、可憐はまだ人生あるでしょ?
苦しんで、醜くなって、歪めばいい。それらを私と共有しよう。
そうすれば、私たち二人には永遠に美しい友情が消えることなく残るはずだから。