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休日の午後〈六の姫イザベル〉


 ユリウス王子からの呼び出しに、あたしは今、ガーデンの四阿に向かっている。

 まあ、今後のことでしょうね。

 あたしとしたことが、少し緊張しているのよ。卵を孵した姫になってしまったから。


 けれど、ガーデンを歩いているうちに、そんな気持ちも落ち着いて。 

 夕方、儀式が成功すれば、もうここを歩くこともない。

 そんな感傷に、何となくガーデンの小道で立ち止まってしまった。

 

 あたしの赤毛が、ガーデンを通り抜ける風に揺れる。


 わかっていたわ。こだわっていた、あたしがバカみたいだわ。

 ここで過ごした3週間、誰も、あたしの赤毛について何も言わなかった。むしろ褒められてしまった。

 だいたい、あたしは自分の赤毛を気に入っているのよ。誰が何と言おうと、気に入っているの。

 だから。蔑みや、嘲笑はもちろん、同情も、哀れみも、鬱陶しいわ。

 でも、同情や、哀れみだけではなかったのかもしれない。あたしが気づかなかっただけで。

 国にも、そういう人はいたのかもしれない。あたしが気づかなかっただけで。


 何より。

 “姫が死ぬかもしれないより、オレは壊すよ。”

 こんなことを言ってくれる人が、ひとりいたわ。だから余計に、どうでも良くなっちゃったわ。



 四阿に着けば、ユリウス王子が先に来てベンチに座っていた。

 あたしが澄まし顔で隣に座れば、ユリウス王子が唐突に聞いてきた。

「イザベルは、オレのこと好き?」

 ……自分の気持ちは言わないくせに、いい度胸をしてますわね!?ええ、聞かせて差し上げてよ!

 

「わたくしは、あなたが好きよ。

 この髪、褒めてくれて嬉しかった。わたくしのことも、褒めてくれて嬉しかった。好きなところに行ったらいいと、そう言ってくれて嬉しかったわ。」


 これ以上なく真剣に伝えたのに、ユリウス王子はいつもの軽い調子で答えてきた。

「じゃ、きまり、イザベルは王太子妃、いずれ王妃ね。

 あれ、姫、なんでそんなにポカンとしてるの?オレ、王太子だって言ってなかった?」


 ……聞いておりませんわ。

「あなた、第三王子って!?」

「第一王子は剣の修行をするって出て行って、第二王子は魔術の修行をするって出て行った。

 厳しすぎる王太子教育ってのも考えものだよね?元凶は前王のじーさんだけどさ。」


 四国の事情が面倒なのは分かりましたけれど。

「あなた、本当にあたしを王妃にするつもりなのね?」

 ユリウス王子が嬉しそうに答える。

「もちろん。」

 ……予想外すぎるわ。しかし、ここは腹をくくらなくては!

「少し想定外ではありますけれど、業務内容的には何とかなると思うわ。もちろんこれから学ぶことも多いでしょうけれど。それなりに、あたしは役立つと思っていただいて、かまわないわ。」


 ユリウス王子がゆる~く首をかしげた。

「ん~、もちろんイザベルがそれをやりたいなら、やりたいだけやったらいいけどね。きっと皆喜ぶし。俺も応援するし。

 ただね、それよりも、イザベルはすっごく感謝されるよ?」


 ……能力を評価されるのではなくて、感謝!?


「のらりくらりと逃げ回っていた第三王子が、イザベルを婚約者にして変わったとね?」


 あたしは頭を抱えたくなった。

「あなた、国で何をなさってますの!?」

「いやもう、やる気なくてさ~。」

「……あなた、芸術方面はもちろん、そのほかのことも普通以上にデキるでしょ!」

「だからもう、オレ、やる気なくてさ~。」

「やる気云々の問題ではございませんわ!」

「でも、イザベルがそばにいてくれるなら、オレ、仕事するよ?」 

 あたしは大きくため息をつく。なのに、このお気楽王子はなぜそんなに嬉しそうなの!?


 徒労感に襲われて、あたしはかなりどうでもいい気分になった。努力とか、根性とか、気合とかそういうものすべて。

 どうでもいい気分になっても、そばにいるくらいならできるでしょうよ。


「了承しましてよ。」

「じゃ、箱庭から出たらすぐ、四国に来てくれるよね?」

 このお気楽王子はまた唐突なことを!?

 でもそこで、あたしは気づいてしまった。20才になってなくとも、王太子であればそれなりに学ぶことも仕事も多い。当たり前でしょ。

  

「あたしがそばにいれば、勉強と仕事をしますのね?」

 ユリウス王子が嬉しそうにうなずく。

「では是非、そうなさって。」

 再び、ユリウス王子が幸せそうにうなずくから。

 あたしも、まあいいかと肩の力が抜けて、何だかゆるっとした気分になってしまった。

 

 見上げれば綺麗に晴れた空があったのだと、気づいてしまうくらいに。 




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