5年前にタイムリープした成金令嬢は父の遺産を愛人から奪えるか
「これからどうすればいいのよ!」
叫んだらタイムリープした。5年前に。
成金令嬢と呼ばれていた私は、また贅沢できてラッキーとばかりに親の金で一年は遊び歩いた。
けれど遊んでばかりもいられない。数ヶ月後には父が愛人宅に入り浸りになる。思うように散財できず怒り狂った私は、愛人に数々の嫌がらせをし、父からの遺産が一円もなく兄弟からも見放されるという結果を招いた。同じ轍は踏みたくない。
「やっぱりやめれば?」
カーテンの陰から双眼鏡でマンションの一室を覗く私に声をかけたのは、父の会社の社員の石田だ。住まいが父の愛人宅の近くなので札束をちらつかせ間借りした。
「お金を受け取ったなら黙って」
この石田という男は数年後に会社の金を横領し逮捕される。動機は親の借金。端金のために私の(会社の)金を盗られたくないのでこれで防げたらいい。
「どうせ良心より金をとった男ですよ」
「親が借金残して蒸発すれば仕方ないよ」
「……会社はそこまで社員を調べるのか」
「そ、そうよ。私が今こうしているのもその一貫」
「これは違うだろ」
「バレバレね。実は父が愛人に遺産を残すつもりで」
「それで?」
「金の亡者の私達と違って謙虚で淑やかな人だと父は言うけど、本当かどうか確認するよう兄から頼まれたの。本性を暴いて父と別れさせるために」
「そっか……俺は良い人だと思うよ。社長の寛いでいる姿を見たら一目瞭然だろ」
兄達は昔からワガママ放題の私を疎んじていた。兄がそんなことを私に頼むはずがないことは社員なら誰でもわかる。何も言わない石田の気遣いに心がチクリとした。
結局、何年も見続けたけれど彼女に裏の顔はなかった。一応今回も嫌がらせをしての結果なので本当に良い人のようだ。
ついにその日がきた。やはり無一文で追い出された。自分でも笑える。だからなりふり構わない作戦にでることにした。
「少し遺産を分けてほしいの。今までのことは謝るから」
頭を下げる私を見て愛人は戸惑いながら口を開く。
「それは充弘さんの遺志に反するのでお断りするところですが、謝罪をされましたし、あとは3回まわってワンと鳴いてくだされば水に流しましょう」
唐突に気づいた。己の愚かさに。
「やっぱりいらない」
これは彼女がお金を得るために人生を賭け努力した報酬だ。それを奪う? カッコ悪すぎる。
彼女と別れ、考える。この先どう生きるか、誰と生きたいか。
(誰と……)
「もしもし、石田さん? 話聞いてくれる?」
※念のため。親の借金を子が払う必要はありません(保証人になっていなければ)
年内は書かないと言いましたが、思いついた勢いで書いてしまいました(^_^;)