はじまりの歌
第八話 縁結び
その場にいる皆からの歓声が上がる中、赤ん坊の泣き声が響き渡ると、菊之丞は盥の中の赤ん坊の手に自分の手を添えるていた。
すると、その赤ん坊は反射的に菊之丞の指をギュッと握りしめた。
その赤ん坊の手の感触に菊之丞は今まで感じたことのない様な
熱い思いが胸の奥から湧き上がってくるのを感じていた。
そんな菊之丞の様子を直ぐに察した、東雲が
東雲「さぁ若、私がしている様に赤ん坊を支えるて上げて下さいましね」と、赤ん坊の支え役を菊之丞と変わると、
東雲「あまり長湯も赤ん坊には負担になるでしょうから、
そろそろ湯上がりをしてあげないといけませんが、
赤ん坊には何を着せてあげましょうか?」と、
何気なく菊之丞の意向を尋ねると、菊之丞は迷わず
菊之丞「ちょうどいい反物が私たちにはあるじゃありませんか?」と答えると、
東雲「本当にそれでようござんすね」と、念を押しする東雲に
菊之丞「もちろんですよ」と、菊之丞が頷くと、
東雲は神社で祈願してもらった菊之丞の衣装を風呂敷を下敷きにして、その上には既に仕立てられていた反物を上下に二つ折りした状態で広げていた。
そして、菊之丞と共に赤ん坊を盥から上げると、
駐在が用意してくれていたバスタオルの上に一旦上げてから、
赤ん坊の身体の水気を丁寧に拭き取った後で、
用意していた反物の上に赤ん坊を寝かせると、
その反物で丁寧に包むと、菊之丞は自らしていた七色の錦の帯紐を抜き取ると、産着替わりに着せている反物に巻きつけると
菊之丞「これであなたと私はしっかりご縁の糸で結ばれていますよ」と赤ん坊に語りかけると、再び赤ん坊を抱き上げた。
その間中も泣き声続ける赤ん坊を、
菊之丞「ええ、はい、はい」とあやし続けていてが、
菊之丞「やっぱりお腹が空いて泣いているのでしょうか?」と
心配顔を見せると、
駐在が「婆さまがもうすぐ来てくれるはずなんですが…」と
その様子を遠巻きに見ながら答えると、
菊之丞のそばに寄ってきた和尚は、
和尚「そうやなぁ…婆さまが来られるまでは指しゃぶりで堪忍してもらおうかのう…。」と、そう呟くと、
赤ん坊をあやす様に菊之丞が赤ん坊の顔に指で優しく触れているのを見て、
和尚「ここにええ指しゃぶりがあるでなあ」と、
菊之丞の小指を赤ん坊の口元に近づけると、赤ん坊は待ってましたとばかりに、菊之丞の小指の先に吸い付いてきた。
突然のことに虚をつかれた様になっていた菊之丞だが、
赤ん坊が泣き止んでくれた安堵もあり、自然に顔を綻ばせていた。
そして、赤ん坊が少し落ち着いたのを見計らった和尚が、
和尚「さぁ、ほんならそろそろお前さん方の事情を聞こうかなぁ」と、声を掛けると武田が静かに話し出した。
武田「我々は東京から来たんです…。次の舞台の成功祈願をしに
竹生島神社にお詣りをしに…」とそう語り始めると、
いつまで経っても菊之丞の指から乳が出てこないのにゴウを煮やしたかの様に静かだったた赤ん坊が再び泣き出した。
すると、その声に引き付けられる外からは車の音がして、
駆け込む様に婆さまが鳥越先生と石のところのおかみさんを連れて駐在所の中へと入って来た。
婆さま「赤子は無事か?泣き声が聞こえおったが!」