表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/29

ドリームインドリーム

挿絵(By みてみん)


美風慶伍さんよりの頂き物です。

 朔と満は一見、そっくりだが、朔は右耳に金の環を、満は左耳に銀の環を着けている。二人は真衣央の手を(うやうや)しく引いて、回廊を進んだ。

「ここは?」

湯殿(ゆどの)にございます。霊験あらたかな湯でございますれば、打ち身や擦り傷にも効きまする。真衣央様にはまず、ここにてお身体を癒してくださいますよう。お着換えはこちらに置いておきます」

 (ひのき)であろう丸い湯舟からはほかほかと白い湯気が立ち昇っている。天井は半露天で、星月夜を垣間見ることが出来た。朔と満が退室したことを確認して、真衣央は着ていた服を脱いでいく。木の板を渡した棚に、それを置いた。横には、朔が示した着替えがある。左衛門は、湯殿の前で番をしている。痣の箇所が痛まぬよう、慎重に掛かり湯をして、足先からそろりと湯に浸けると、何とも言えないじんわりした温もりが真衣央の総身を包んだ。(ふくろう)だろうか。ほう、ほう、と鳴く声が遠く聴こえる。湯に肩まですっかり浸かると、思わず吐息が漏れた。

 天井の梁からは五色の紐とそれらに連なる金の鈴がついていて、用がある時はそれを鳴らすようにとも言われた。まだ、真衣央は夢見心地だ。空は自分を無力と言ったが、こうして真衣央に居場所を与えてくれている。衣食住を世話しようという気構えが見られる。それが力ある者の業でなくして何だろうか。両親にもすみにも出来なかったことを、空はしてくれる。湯からは仄かに良い香りがして、清涼な心地になった。

 用意された着替えは水色に小花柄の小袖だった。何とか着付けを終えて湯殿を出ると、待っていたかのように左衛門が立ち上がり、朔と満もどこからか湧いて出て、再び真衣央の案内をした。

 最初の部屋に通されると、空が当然のように上座に座し、白い土器の盃で酒を吞んでいるようだった。真衣央を見て、笑みを浮かべる。少年にはない色香が滲む。真衣央は見惚れないよう、自分の席と示された箇所に着座した。半畳ほどの畳が敷いてある。空は一畳の上に寛いでいる。

 朱塗りの膳には、野山の幸を中心とした、滋味深い料理が並んでいた。いただきます、と手を合わせて里芋を口に入れると、ほっこりした感触と、出汁の優しい味が口に広がった。ぐ、ぐう、と鳴いた腹に、真衣央は赤面したが、嗤う者はどこにもいない。空も、給仕をする朔も満も、皆にこやかに真衣央を見守っている。最初は警戒心を漲らせていた左衛門も、自分のご飯を貰い、満悦の様子だ。食卓には言葉が少なかったが、場の空気は和んでいた。

 その夜、真衣央は宛がわれた部屋で、左衛門と温かな寝床に就いた。

 真衣央を脅かす者のない、安らかな眠りが真衣央に訪れ、紺瑠璃の夜は静かに更けた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=611737806&size=200
― 新着の感想 ―
[良い点] 情景が浮かんでくるような素敵な文章ですね(*>ω<)b 九藤さんがこの前してきた京都での経験も作品に活かされてるんですかね〜。 実はマルフォイめも去年末に割と長く滞在したのですが、がっつり…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ