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 真衣央が朝、目を開けると、何やら賑やかだった。今日は土曜日、学校も休みだ。左衛門が、真衣央が目を覚ましたのを見て尻尾を左右に振る。その頭を撫で、真衣央は小袖に着替えた。もう着付けもすっかり慣れたもので、帯も結べる。湯殿の脇の小さな泉で顔を洗い、いつもの部屋に向かう。空の笑い声が聴こえる。珍しい。入口で、朝食の膳を持つ朔に出会った。

「真衣央様。おはようございます」

「おはよう、朔。誰か来てる?」

「ええ、華様がお出でですよ」

 華とは、技芸の神。天鈿女(あめのうずめの)(みこと)。真衣央は俄かに背筋が伸びた心地で、そっと部屋に足を踏み入れた。

「真衣央、おはよう」

「空、おはよう」

「はい、お嬢ちゃん」

 最後、真衣央に声を掛けたのは、露出の多い着物の着方をした美少女だった。くっきりした化粧が美貌を際立てる。

「紹介するよ、真衣央、こちら、華。技芸を司る神だ」

「は、初めまして。真衣央と言います。空たちにはお世話になっています」

 真衣央が深く一礼して頭を上げると、華がやおら抱き着いて来て、驚く。

「お嬢ちゃん、あんたの舞い、良かったよ! この華様が太鼓判押したんだ。暁にもしのごの言わせやしないさね」

 気風の良い、江戸っ子のような物言いだ。暁、と聴いて、真衣央の恐れがぶり返し、ぶる、と身を震わせた。そんな真衣央をじっくり眺めた華は、腰を下ろして盃を干し、深紅の唇を突き出した。

「あいつも子供みたいなことするわね。その癖、力はあるもんだから始末が悪いわ。大丈夫よ、真衣央。あたしがついてる。座んなさいな」

 華が自分の隣をちらりと一瞥したので、真衣央も遅ればせながら着座した。

「華。それだけじゃ解らないよ。ちゃんと説明しないと」

「はいはーい。あのね、真衣央。明日からあたしもあんたと学校に通ってあげる」

「え?」

「あたしが日中、空がそれ以外、あんたの傍にいたら、どんな神だって寄りつきゃしないわよ」

 大丈夫よ、と笑った華の笑顔は名前の通り華やかで、周囲の空気さえ鮮やかになる。真衣央は満から渡された味噌汁に口をつけながら、華の言ったことを頭の中でよく吟味した。考えてみれば真衣央は宮での生活や神楽舞いに没頭して、学校での人付き合いが疎かになっている。家にいた頃は、学校での人付き合いに掛ける労力そのものがなかったのだが。今なら、真衣央さえその気になれば友人も作れる状況だ。

 だが、気後れはする。

「でしょ?」

 華が、真衣央の思考を読んだように念を押す。

「友達第一号に、この華様がなってやるって言ってんの」

「華は頼れる女性だから、僕も安心だよ」

 真衣央はまだ頭が状況について行けない状態で、目を白黒させながら、何とか頷いた。

「よし! そうと決まれば、さあ、華の舞いをとくとご覧あれ」

 華が立ち上がり、着物の袖を振ると、虹色の花びらが舞い踊った。華が腰を落とせば、光が揺らめき、くるりと回れば砂金が零れ落ちる。

 荘厳で煌びやかな華の舞いに、真衣央は我を忘れて見惚れた。

 途中からは真衣央も華に腕を取られ、共に舞っていた。それはとても心躍る経験で、真衣央は明日から始まる新生活への期待に胸を高鳴らせるのだった。



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