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ご褒美とラテアート

 祭りのほとぼりも冷めた翌週、校門を出た真衣央の目に、真っ赤なフェラーリが飛び込んで来た。当然ながら周囲の注目を集めている。朔と満が、あ、と言う顔をした。フェラーリの運転席から出て来たのは、華やかな美貌の吉彦だ。トップスは白無地のシャツ、ボトムスはジーンズという極めてシンプルな服装が、彼の場合は美貌をより引き立てる役割を果たしている。

「初めまして、お嬢さん。俺は吉彦。空の友人だ」

「はじめ、まして」

 朔と満がさりげなく真衣央と吉彦の間に入る。

 安閑とした青空に、小鳥が歌うが、その下に流れる空気はやや不穏だ。

「何のご用でしょう、吉彦様」

「お嬢さんの舞いの労いにね。デートでもどうかと思って。空の了承は取ってあるよ」

 吉彦が片目でウィンクする。それだけで女生徒たちからざわめきが起きた。朔と満は気遣わし気に真衣央を見る。空の納得ずくと言われれば、反対する理由は彼らにはない。真衣央は、心を決めて一歩、進み出た。

「ありがとうございます、吉彦さん。ご一緒します」

 きっと、今この瞬間にも自分は値踏みされている。真衣央は朔と満に安心させるような笑みを見せて、吉彦が開けた助手席のドアから車中に乗り込んだ。車内は、花の芳香のような良い匂いがする。それは、隣に座った吉彦からも匂うものだった。吉彦が車を発進させると、朔と満が遠く、小さくなる。彼らを目で追う自分の気弱を隠す為、真衣央は前を向いた。吉彦は煙草を口にしているが、不思議なことに煙草特有の臭いは全くしない。寧ろ、心安らぐ香りが、車中を満たす匂いと混然一体となって調和していた。

「良い店があるんだよ。お嬢さんは」

「真衣央で良いです」

「真衣央ちゃんは、甘い物は好きかな?」

「はい」

「それは良かった」

 連れて行かれたのは和風の甘味処だった。ランチもできるらしく、本日のパスタ、と書かれた紙が入口のボードに貼ってある。落ち着いた古民家風の佇まいが、宮を思い出させて、真衣央は少し緊張が解けた。

 吉彦と一緒に店内に入ると、程好い人数の客が座っている。窓際の席に案内され、お品書きを見る。吉彦は鷹揚な笑顔を浮かべている。あんみつと抹茶シフォンケーキを真衣央は頼んだ。吉彦はカフェラテとブラウニー。

「ラテアートが可愛いんだよ、ここは」

 そう言われて、運ばれて来たカフェラテを見ると、仔猫の顔が描かれてある。実際、飲むのが惜しくなるような出来栄えだが、吉彦はその絵すら味わうように、じっくりとカフェラテを飲む。真衣央も、甘味を食べて心がだいぶ軽くなった。思わず頬が緩む。

「気に入ったかい?」

「はい。とても、美味しい」

「それは良かった」

 ご満悦の様子の吉彦を、真衣央は上目遣いに見る。

「あの、私に何か話があったのでは」

「ああ、うん。敏い子は好きだよ。君の神楽舞いを見るまでね、俺は空と君を引き離すべきではないかとも考えていた。一人の人の子に、空がかかずらうことは、良いことじゃない。他の神々からも白眼視されかねない」

「……はい」

「でもね」

 言って、吉彦はカフェラテをぐい、と飲んだ。

「君は自分の役割を成し遂げた。暁たちがどう感じたかは知らないが、きっと君を見直したんじゃないかな。少なくとも俺は、君が空の傍にいることを、現状では認めるよ」

 優しいばかりの言葉ではなかった。怜悧な音も含んでいる。

 しかし、だからこそ、吉彦が本音を語ってくれていることが伝わり、真衣央は顔を引き締めて頷いた。

「ありがとうございます」

「と、まあ、難しい話はこのへんで。食べて食べて。おにーさん、奢っちゃうよう」

 茶目っ気のある顔を作った吉彦に促されるまま、真衣央は甘味を堪能した。頑張ったら報われるという事実が、今の真衣央には身に染みて嬉しいことだった。



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