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訪問者

「もうすぐ祭りだねえ」


 サングラスをかけた若い男性が宮の鳥居をくぐる。鼻歌でも歌いそうに上機嫌な空気は、彼が普段から纏うものだ。拝殿の更に奥に踏み込む。そこは空の神域。即ち男性が普通の常人ではないことを明かす。朔と満が彼の来訪に気づき、恭しく拝礼して出迎える。

「お出でなさいませ」

「ああ、お邪魔してるよ。空は?」

「間もなくいらっしゃいます」

 男性がサングラスを取ると、華やかな美貌が露わになる。空や暁たちも美形だが、この男性の美貌は桁違いだ。百花の王と称される牡丹でさえ、彼の前では色褪せるだろう。彼は宇摩志阿斯訶備比古遅(うましあしかびひこぢの)(かみ)。「うまし」は美称で「ひこ」は男性を指す。特別な五柱の天つ神の一柱である。吉彦(よしひこ)と名乗り、空とは交友関係にある。暁が空の客人である少女に敵愾心を抱いていると聴き及び、どんなものかと見物に来たのだ。

「吉彦」

「空。久しいな」

 微笑を口元に刷いた空が現れ、吉彦を出迎える。清水の入った瓶子を傾け、飲み合う。

「お前の虎の子の女の子を紹介してくれよ」

「吉彦は手が早いからな……」

「心配しなくても、何もしないさ。暁のような暴走もな」

 匂い立つ美貌の男が笑むと、それだけで空気まで色づくようだ。

「ただな。暁の気持ちも解らないでもない。お前は一人の人の子にかかずらう立場じゃない筈だ」

「苦言を言いに来たのかい」

「忠告かな」

 空が金色の目を眇める。吉彦もまた、金色の目でそれを見返した。吉彦は真衣央に興味がない。ただ、空の立場を損なう可能性があるのなら、排除も辞さない考えを持つ。空は吉彦の思惑に気づき、警戒した。

「真衣央をお前に会わせたくはないな」

「嫉妬か?」

「危機管理だ。真衣央に会いたければ花鎮めの祭りに来ると良い」

「お嬢ちゃんに舞い手が務まるのかい」

「僕が見込んだ子だよ?」

「随分、贔屓してるな。そういうとこだぞ」

 清水を何杯も飲み干しながら神々の会話は続く。朔と満は吉彦に気取られないよう密やかに真衣央の元に行った。

「吉彦、さん?」

「はい。空様の親しい神です。こたびのご訪問は、真衣央様含めた様子見かと。空様は懸念なさっておいでです。お帰りになるまで、拝殿奥にはお近づきになられませぬよう」

 真衣央は、暁の他にも自分の存在を疎んじる神がいるのかと、暗い気持ちになる。傍らの左衛門の頭を無意識に撫でた。

「暁様のような無体を働く方ではありませんが、冷徹な観察眼をお持ちです。空様が上手く対処なされましょうが、お気をつけくださいませ」

 真衣央はこくりと頷いた。

 花鎮めの祭りが近い。高校では部活に入らず、宮での舞いの稽古に励んでいる。暁や吉彦は真衣央の神楽舞いを見て、値踏みする算段なのだろう。空の面目もかかっている。失敗は許されない。朔や満の指導のお蔭で、舞いはほぼ習得した。後はさらって、練習を重ね本番を迎えるだけだ。舞いに使う扇を持つ真衣央の手に、力が籠った。



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