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冷たい金色

 赤い神域に戻った暁は、そこに佇む姿にぎくりとした。

 冷ややかな金色の瞳を持つ空。暁の行状を知っての怒りが滲み出ている。

「兄者……」

「言い訳は聴きたくないよ」

 空が手を上げると、何本もの閃光が暁目指して射貫く。暁は両膝をついた。

「弱者をいたぶって楽しいか、暁? 僕は人間にこそ迂闊に干渉できないけれど、神にならそれが可能だ。でも僕は、お前をいたぶっても楽しくも何ともない」

「あんな小娘の肩を持つのか」

 空の金色に慨嘆の念が現れる。

「暁。お前は人の子の力を知らない。彼らは非力かもしれないが、思いも寄らない芯の強さを秘めてもいる。真衣央と誠実に向き合えば、お前もそれを知るだろう」

「俺は認めない」

「そう。じゃあ、しばらく、僕の神域に来ることを禁じる」

「兄者!」

 空は一貫して冷たい態度を暁に示した後、赤い神域を後にした。


 横たわる真衣央の傍に歩み寄る。朔と満、左衛門が空を見上げる。

「可哀そうに。ひどい目に遭ったね、真衣央」

 空は真衣央の額に手を置いた。真衣央の身を覆っていた苦痛が緩和される。実際、暁の所業は、下手をすれば内臓破裂さえ引き起こしかねないものだった。真衣央はうっすら目を開けて空を見る。

「大丈夫。慣れてるから」

 この物言いが、一層、空の心に哀れを誘った。慣れて良いものではない。真衣央の両親も暁も、間違っている。空は真衣央を苛む全てに対して異を唱えたかった。

「暁の出入りを禁じた。もう一人、宵と言う弟がいるけれど、こちらはまだ賢明だと思う。けれど、宵も真衣央に危害を加えるようなら容赦はしない」

「弟さんと、仲良くして」

「するさ。真衣央への態度次第でね」

 真衣央は複雑な面持ちをして、目を閉じた。衝撃が大きかった為か発熱している。空は朔と満に粥と梅干を持って来させた。土鍋に入った粥と、添えられた梅干しを真衣央の枕元に置いて、空はずっと真衣央の傍を離れない。朔と満は退出している。この部屋にいるのは左衛門と空と真衣央だけだ。

 開け放した先の濡れ縁から、儚い桜の花びらがほろほろと舞い込んでくる。それは真衣央の寝る上にも散り落ちた。

 宵は自分の神域から、一部始終を見ていた。空の怒りは当然だ。暁は愚行を犯した。だから警告したのに。青い髪を掻き遣り、嘆息を漏らす。宵にとっても真衣央の存在は煩わしいものだったが、暁のように直接的暴力に訴えようとは思わない。やるならばもっと間接的な手段を選ぶ。花がさんざめく中、屹立して、宵は顎に手を当てる。暁に対する空の怒りを、どうやって解いたものか。ここで自分までもが失敗する訳には行かない。気は進まないが、真衣央にとって為になる行動を取るべきか、と考える。それは宵を些か、憂鬱にさせるものだったが、空への絶対的服従心から避けて通れる思考ではなかった。人間にこそ干渉が不便ではあるものの、神族の中において、空の地位は圧倒的なものだったのである。




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