第9話《宜しくでござるよ!》
「フカフカで、ござるな!」
上機嫌で転げまわるハウゾウくんが、とても愛らしい。
ラフィーネとともに、ハウゾウくんを連れて宿を取ったねん。
これからのことをまだ何も考えてへん。いずれはもとの世界には帰らへんとアカンけど、せっかくゲームの世界に入りこめたんやから楽しまんともったいないやん。
なので、ひたすらチートを極めて、無双したるつもりや。
ひとまずは、寝床にありつけることができたのはありがたい。
久しぶりに長距離を歩いたので、すでにクタクタやで。お腹もすいているしな。
「拙者、迷子になったでござるよ!」
なんでかしらんけど、誇らしげなハウゾウくんが、えらい可愛らしい。
「ハウゾウくん、可愛いなぁ!」
「そうでござるか?」
褒めてあげると、ハウゾウくんもまんざらでもなさそうや。泥だらけやったから、お風呂に入れたら気持ちよさそうにしてた。ごわごわだった毛も、今はサラサラや。
おそらくはハウゾウくんも、プレイヤーなんやろう。
犬やのに、ゲームの世界に閉じ込められてしもてる。それも、人語を話してんねんで。
バグか何かやろうか。
「帰れるまでの間、俺たちの仲間になるか?」
「よいでござるか?」
嬉しそうやった。
ハウゾウくんは、かなり強い。仲間にしておいて、損はない。それに、可愛いしな。
「大歓迎やで!」
「かたじけない!」
そんな訳で、ハウゾウくんが仲間になった。
ラフィーネは無類の動物好きなので、ハウゾウくんのお腹をモフモフしている。ハウゾウくんも、気持ちよさそうな表情で受け入れていた。
「パパ上、よろしくでござるよ!」
「よろしくな、ハウゾウくん」
「ところで、パパ上。なにゆえ拙者を、くん付けするでござるか?」
「……え。ハウゾウくん、男の子やないん?」
不意の疑問を、口に出していた。
「パパ上っ!」
唐突に、ハウゾウくんが怒り出した。
よほど何かが、気にさわったのだろう。子犬とはいえ、怒ると恐いな。さすがは、ハスキーや。大人になったら、厳つくなるんやろうか。
「――はい?」
「拙者、女の子でござる!」
「せやで、ロキ。女の子にたいして、失礼やで!」
今日、一番の驚きやった。
てっきり、男の子やとばかり思ってたからな。そら、怒るわなぁ。
「拙者のことは、ハウちゃんと呼んでくだされ!」
意外とハウゾウくんは、マイペースのようや。
自慢げなその表情が、とても可愛らしかった。
煙草に火をつけると、またもや怒り出した。
「パパ上。拙者、モクモクは嫌いでござる!」
「ちゃんと、窓際で吸わな煙たいやろ!」
どうやら煙草の煙りが、お気に召さないようや。
ラフィーネにまで怒られながらも、窓際に追いやられてしまった。