第7話《火を吹くでござる!》
ハスキーの子犬が、傷を負ってこちらを睨みつけている。どうやらこの子が、ブラックドラゴンの姿に化けていたようや。
その背には、黒い翼が生えている。俺の覇王コスプレと一緒で、ブラックドラゴン仕様にでもなってるんやろうか。
というか、何で犬やねんな。
ハスキーの子犬が喋っていることに、普通に驚きやで。
――とは言えやで。
俺は覇王剣を、納めていた。
どんな事情があるにせよ、子犬を痛めつける訳にはいかんわな。というか、めっちゃ可愛いやないか。犬好きの俺には、堪らへんなぁ。
「なぜ剣を、納めるでござるか……?」
「闘う理由がない」
無益に、争うつもりはない。
言葉が通じるんなら、なおさらや。
ちゃんと話せば、解ってもらえるはずやで。悪意が有って、襲ってきたわけでもなさそうやからな。
俺と一緒で、身を守るための行動やったんと違うんかな。
少なくとも、そんな風に感じたねん。
なら、剣はもう不要や。喧嘩のあとは、仲直りせなな――。
「拙者に情けを、掛けるつもりでござるか?」
困惑する子犬――ハウゾウくんが、可愛らしい。光の粒子に包まれた姿が、幻想的に見えた。
いままでその小さな身体で、過酷な世界を生きてきたんかもしれへんな。
「そんなつもりないよ。俺と一緒に、村を探してくれへんか?」
「そういうことであれば、拙者も協力するでござるよ!」
ハウゾウくんの敵意が消えた途端、辺りが急激に暗くなった。
どうやら、戦闘が終了したようやな。
お互いに死力を尽くしたから、さすがに疲れたな。お腹もすいたし、お風呂にゆっくり浸かりたい。汗やら泥やらに塗れた身体を、綺麗に洗い流したかった。
気付けば狐面のゲームマスターは、姿を消していた。
色々と聞いておきたいこともあったねんけど、仕方あらへんわな。それに、まともに取り合ってくれるとも限らんしな。
「拙者、火を吹くでござる!」
炎が出現して、急激に明るくなった。
これはかなり、便利やで。
早いとこブカレストに行かんと、ラフィーネが怒るやろうしな。めっちゃ短気やから、すぐに怒るねん。