第8話《漆黒の竜刃破》
「喧嘩やないで、姉ちゃん。ちょっと、挨拶に来ただけやッ!」
それが開戦の合図であるかのように、タナトスからは覇王竜刃破が放たれてた。
そんなことは意に介さずに、マサは金色の竜に向かって疾走っていた。
正気の沙汰とは思われへんかったが、覇王竜刃破を打ち破って斬り込んどる。
その速度があまりにも俊敏すぎて、俺たちは反応できんかった。
気付いたら目の前で、剣を降り降ろしとった。
――ッぞく。と、いう厭な感覚が、無意識のうちに俺を動かしていた。時間がまるで制止したような感覚やった。何をしてたんかも、自分では解らんかった。
「アカン。アカンで、兄貴。いまのままの兄貴は、覇王の力に振り回されとるだけや」
気付いたら、俺はタナトスを振り上げとった。その剣先からは、漆黒の竜刃破が放たれとった。
俺の剣は、空を裂いただけやった。
背後からマサの声がしたが、俺は動けんかった。
何故なら目の前には、狐面がおったからや。
意識がマサに向かった瞬間に、何もない空間から突如として現れたんや。
「久しぶりやな、ロキ。と言っても、お前がこっちに来たばっかりん時に、顔合わせはしたけどな」
狐面の声を聞いて、俺は耳を疑った。
狐面の肉声が、俺の良く知った人物やったからや。
狐の面を外して、煙草を咥える叔父さんを見て、困惑と嬉しさが綯い交ぜとなった感情が沸き起こった。