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第1話《いきなりガチャで、チート武具が当たりました!》



「ソシャゲーにおいて、『最強』になるための条件がなんか知ってるか?」




 かつてオジサンが、俺にそう問いかけてきた。


 唐突(とうとつ)なオジサンの言葉に、俺は困惑しながらも、こう答えてたのを(おぼ)えてる。




「そんなん、ガチャのヒキやないん……?」




 俺の言葉を聞いて、オジサンは無言で頷いた。


 穏やかな表情で、ただ煙草に火をつけて独り言のように何かを呟いた。それが何を意味してるんかは、俺には解らへんかった。



「これやもんなぁ……。ヒキが鬼ってるやつは、違うわ」




 俺には尊敬しているオジサンがおったんやけど、ある日を境に交通事故にあって死んでしもた。



 子供ながらに、哀しみのあまり大泣きしたことを昨日のように憶えとる。




 子供のころから近所に住んでいるオジサンのもとに、週末になると毎週のように遊びに行ってたねんな。いつも家にいてるくせに、なんかしらんけどお金だけは、やたらと持ってるオジサン。俺が遊びに行ったら毎回、ラーメンと餃子を(おご)ってくれたわ。



 機嫌がいい時には、チャーハンまでつけてくれるんやけど、どれもめっちゃ旨いねんで。



 そんなわけで、俺は週末が楽しみでしかたなかった。



 格闘技とゲームをこよなく愛するオジサンから、色んなことを教わった。ゲームのイロハはもちろんやが、格闘技についても詳しく教わってたねん。




 近接戦(きんせつせん)多対一(たたいいち)での闘い方。武器を使っての格闘術。



 護身術や罠の張りかたなど。

 子供に教えんようなことを、めっちゃ教わってきたねんな。エスクリマのヘブンシックスなんていう技術(わざ)、マニアックすぎて知ってる人も少ないと思うわ。色んな格闘技に精通してるんかして、オジサンからは色んな技術(わざ)を授けて貰ってたなぁ。




 色んなことを優しく丁寧(ていねい)に教えてくれるオジサンが、大好きやったねん。まぁ、平和ぼけした日本では、まったく役に立たへんねんけどな。



 そんなオジサンが死の直前に、俺に聞いたのがさっきの質問や。



 ソシャゲーにおいての『最強』の条件なんか、だれが考えても答えはひとつやで。



 それが、ガチャのヒキや。



 いかに上手い戦術を駆使(くし)しようとも、あらゆるデッキで挑もうとも、当たりキャラを完凸(かんとつ)させまくる者には勝たれへんねや。




 そういう意味では俺のヒキは、異常やった。



 パチンコを打てば、オス1で当たって大連チャン。

 競馬や競輪を買えば、万馬券が当たる。それも、かなりの高い確率でや。




 ソシャゲーのガチャも、(しか)りやった。



 ピックアップを無料配布で、8割か9割ぐらいの確率で当てることができる。

 課金をすれば、10000円ほどで、コンプもしくは当たりキャラの完凸を果たしてしまう。




 もちろんやが、それを()かせるほどの戦略は必要ではあるが、チート級に育ったキャラを駆使(くし)するねんで。そこそこの相手なら、特に苦労せんでも、1ターンキルが可能やった。




 そんなわけで、俺は色んなゲームで上位にいた




 どんなゲームにも、バケモノは存在する。1位をとるのは、ガチャのヒキだけやと不可能やからな。




 最強クラスのレイド戦で、こんな経験はないやろか。



 相手の防御力を下げて、こちらの火力を限界まで上げる。あらゆるスキルや戦術を駆使(くし)して、弱点属性をついてようやく最大火力を引き出して、大ダメージを与える。




 それでも上位陣に喰らいつきはしても、1位には入れず。



 1位のプレイヤーがたったの一撃で、こちらの努力を嘲笑(あざわら)うかのような規格外の与ダメを叩き出していくねん。




 俺には、それが可能やった。



 だからこそ、上位ギルドでも上位に入ることができるねんけど、同じことを平然とやってのける者が何人も在籍(ざいせき)してることがある。




 いくら神ビキしても、『最強』のプレイヤーにはなられへん。



 金のちからを行使(つか)った重課金(モンスター)プレイヤーに、ようやく並べるだけのことや。




 ――君と僕、どっちが強いんだろうね?




 あるひとりの男の言葉が、脳裏を()ぎった。



 どうしても倒したい相手が、俺には複数人いる。

 規格外の化物モンスターが、何人もおるねん。



 そんなわけで、今日もゲームをするためにスマホを開いてたんやが。




 ――実家に帰る!




 同棲中の彼女からのラインには、そう書かれとった。



 心当たりが多すぎて、理由がわからへん。彼女が実家に帰るんは、いまに始まった事とちゃうねん。何回もある。




 どうせ、いつものことや。時間が経てば、機嫌をなおして帰ってくる。その証拠に夕飯は、きちんと作ってくれてた。




 ひとりで食べる食卓は、閑散かんさんとしてたけど、寂しくなんてない。




 スマホに視線を落としながら、唐揚げを頬張(ほおば)った。




「また誰も、ログインしてへんやんけ。どないなっとんねんな!」




 いつもしてるゲームは、ほとんどのメンバーがオフラインになってんねん。一週間前にギルドマスターが消えてしもたから、メンバーの集まりが悪くなってもうた。




 彼女もログインしてへんみたいやし、なんとなく、おもんない。別に、寂しい訳でもない。



 何となくいつもとちゃうゲームに、手を出したくなっただけや。



 彼女がいなくて、寂しいわけでは――断じてない。




 それは、ともかくや。

 誰もログインしてへんことが、そもそもの問題や。もしかして、例の都市伝説が原因やないんかと、思ってまうわ。




 最近、(ちまた)ではある噂が広まってるんやけどさ。これが、ゲーマーなら誰もが喰いつく話やで。



 あるゲームをインストールすると、ゲームの世界に閉じ込められるらしいねん。どんなジャンルかは知らんけど、ホラーではないことは確かや。閉じ込められて、殺されたら洒落(しゃれ)にならへんからな。どっちか言うたら、皆さん大好きなRPGとか、そっち系らしいねん。



 そんなことはあり得へんことやけど――もし、ホンマやったら、()()でもプレイしてみたい。それが、ゲーマーの(さが)ってやつやで。




「ダブで、えぇんやろか?」




 アプリのロゴには、【DUB】の文字がきざまれてる。

 彼女からのラインで、ゲームの招待が届いたんやけどさ。




 ――怒って実家に帰ったんとちゃうの?




 もしかして、面白がってネタとして帰ってるフリして揶揄(からか)ってんねやろか。

 しかも、ゲームの世界に閉じ込められたとか、冗談も良いところや。俺のリアクションを、試してるんとちゃうやろうか。そんなん、嘘でもホンマでも絶対、喰いつくに決まってるやろ。



 俺は秒で、アプリを開いていた。

 俺はゲーマーやで。知らんゲームがあれば、やるに決まってるやんか。もしホンマに、ゲームの世界に閉じ込められたら、嬉しいに決まっとるがな。




 ――それにやで。




 ゲームのタイトルが、すこしばかり気になんねん。



 アプリには【DUB】の文字が、きざまれてる。

 そのタイトルが、幼いころの記憶に引っかかっていた。




 オジサンは、ゲーム関係のプログラマーをしとった。



 当時の俺はまだガキやったから、詳しいことまでは解らへんし憶えてへんことも多かったからなんとも言われへんねんけど、オジサンが制作してたゲームのタイトルが【DUB】やった気がするねん。




 気のせいかもしれへんけど、無視することはできへんかった。



 オジサンが関わってたかも知れへんゲームが、まさに俺の目の前にあるねんで。それを差し引いても、やらへん理由はない。

 



 オープニングと共に、どこか(なつ)かしいレトロなBGMがスマホから流れてきた。


 ホーム画面をタップすると、チュートリアルが始まった。




 最初にプレイヤー名を、決めるようやな。




 ロキという名前にした。

 この名前は、昔から使ってるねん。



 もしもホンマにゲームの世界に閉じ込められても、プレイヤー名から彼女が俺を見付けられるからな。

 彼女からの招待やねんから、俺やって一目で解るようにしとかんとアカン。



 妖精ようせいの女の子が、ガチャについての説明を始める。




 どうやら最初のガチャは、武具が当たるらしい。手に入れた武具によって、プレイヤーの職業しょくぎょうが決まるシステムのようやで。



 早速さっそく、ガチャってみると、派手はで演出えんしゅつとともに最高ランクの武具が出た。




 しょっぱなから、ツイとるやん。




 武具種:剣 スキルスロット数:12

 ランク:UR ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 属性:覇王・闇・竜・剣


 ――覇王剣はおうけんタナトス。




 剣にかんする名前の通り、職業は【覇王はおう】になった。



 覇王が装備できる武具種は、剣・大剣・短剣・槍・(むち)のようや。個人的には、鞭とか槍を使ってみたいな。



 ほんで、武具ぶぐ固有こゆうスキルは、以下いかの通りや。




 【覇王竜刃破(はおうりゅうじんは)】(P)


 最初の3ターンの間、編成している闇属性キャラの人数×100倍の攻撃力と、防御力がアップする。

 最初のターンの初めに、編成する闇属性キャラの人数×5倍の闇属性による全体攻撃が発動する。




 恐らく(P)っていうのは、パッシブスキルのことやろうな。



 スキルっていうんは、大きく分けて二種類あるねん。

 ひとつは任意で発動されるアクティブスキル。ほんで、もうひとつが自動で発動されるパッシブスキルやで。




 覇王竜刃破(はおうりゅうじんは)はターンの初めに、攻撃力と防御力がえげつなく上がる。



 さらに仲間の人間に応じた威力の全体攻撃が、いきなり発動されるようやな。




 ――めちゃくちゃ、強過ぎへんか。




 この時点じてんですでに、チートのいきやが、覇王の固定スキルを見るとさらにチートやった。




 【覇王の鼓舞(こぶ)】(A)


 編成キャラに、自身の攻撃力を付与ふよする。(3ターン)




 こっちは任意(アクティブ)スキルやな。

 闇属性の仲間をあつめて、攻撃力を500倍に上げたら今度は、仲間の攻撃力をさらに上げれるわけやな。




 ――えげつないにも、ほどがあるわ。



 

 ほんで極めつけが、次のスキルやで。

 



 【覇王の一撃】(A)


 編成キャラ(自身を含める)の攻撃力の合計値を、自身の攻撃力に付与する。(3ターン)

 自身に覇王の闘気をまとわせる。(2ターン)

 剣に竜属性を付与して、全体攻撃をする。




 仲間の攻撃力を上げたら、自身の攻撃力をさらに上げるようやな。

 さらに追加効果までついて、全体攻撃やからあまりにもヤバすぎる。


 


 えげつなさ過ぎて、早くもクソゲーのにおいがただよってんな。


 それでも俺好みの設定やし、ゲームを進めることにした。




 早々にチュートリアルをませて、最初のクエストを始めてみる。




 予想はしてたけど、覇王竜刃破(はおうりゅうじんは)だけで全ての敵が死んでまうわ。



 敵と遭遇(エンカウント)すんのと同時に、攻撃力の100倍の全体攻撃が発動するねん。




 何もせんでも、自動的に勝ってまう。




 そのたびに経験値がもらえるから、どんどんレベルが上がってくねん。


 何にも面白味のないままに、ボスを倒してしまった。




 ――その時や。




 レベルが10になると、ガイダンスが表示された。




『ゲームデータをインストールしますか?』





 『インストール』って単語に、思わず反応してしもたわ。


 例の噂では――インストールをしたら、ゲームの世界に閉じ込められてしまうらしいからな。心のなかで、思わず――来たッ――って、叫んでしもたやんけ。



 俺は迷わずに《はい》をタップした。


 めっちゃ身構えてたねんけど、何にも起きへんやん。もしかして、彼女のドッキリ企画かなんかやろか。どっかにカメラでも仕込んでて、ユーチューブで配信されてんのとちゃうか。


 


 辺りを見渡してカメラの有無を確認してると、(まばゆ)い光とともに俺は意識を失ってしまった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 「ある日を堺に」というのはある日を基点にそれまでの「状態」が別の変わるということです。 つまり「ある日を堺に事故で死ぬ」という文章は、ある日までは死ぬことはなかったけどある日以降は、死ぬとい…
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