おやすみロボット
ある朝のこと、タカシくんはそろそろ起きないといけない時間になっていました。
ですが、もう5分といいながらなかなか起きようとしません。
いつもだったら、そのまま遅刻ギリギリになるまでベッドにいるはずでしたが今日は違いました。
「オハヨウゴザイマス。朝デスヨ」
聞きなれない声に目をうっすらと開けると、そこには角ばった顔に黄色いランプをぴかぴかと光らせるロボットが見下ろしていました。
ドタドタと騒がしい音を立てながら階段を下りてリビングに入ってきたタカシに、お母さんが「おはよう」と声をかけます。
タカシは何かに驚いた様子でしきりに自分の部屋の方向を指差します。
「ロボットだよ! ロボットがボクの部屋にいたんだよ!」
「あら、あのロボットはちゃんと起こしてくれたみたいね」
毎日なかなか起きないタカシのために、お父さんがこっそりと買ってきたロボットでした。
これで毎朝おこしに行かなくて済むと笑顔のお母さんにタカシは不満げです。
学校から帰ると、いつものようにベッドにねころびながら漫画を読むタカシでしたが、部屋の隅の邪魔にならない場所でじっとしているロボットが気になってしかたがありません。
「おい、おまえ、こっち見るなよ」
ロボットの硬い鉄のボディを叩くとカァンと金属の音がしました。
つついたり、けとばしたりしてもまるで動こうとしないロボットにため息をついて気にしないことにしました。
晩御飯を食べ終えて、自分の部屋に戻るとタカシは中々寝ようとしません。遅くまで起きているせいで、次の日起きるのがつらくなるのですがタカシはお構いなしです。
「寝ル時間デス」
急に動き出して、目をぴかぴかとさせるロボットにタカシはびっくりしました。
「オヤスミナサイ、タカシくん」
「うるさいな、今寝ようと思ったんだよ」
くちびるをとがらせながら毛布をかぶったタカシは寝たふりをしました。薄く目をあけてロボットを見張ります。
置物のように部屋のすみで動かなくなったロボットを見ているうちに、いつのまにかまぶたが落ちていきました。
「オハヨウゴザイマス」「オヤスミナサイ」
毎日一秒の違いもなく動くロボットのおかげでだんだんとタカシは朝寝坊も夜更かしもなくなりました。 お母さんも大喜びです。
「オハヨウゴザイマス」「オヤスミナサイ」
大人になってからもタカシはロボットの声と一緒に寝起きしました。本当は声をかけられる前に目が覚めていましたが、声をかけられるのを待ってから体を起こしていました。
「おい、ぽんこつ。おまえはいつになったら寝るんだ?」
「ロボットハ寝マセン。タカシくんヲ起コスノガ仕事デス」
「そうかい。70年もご苦労なこった。そろそろおまえも休め」
その日の朝もロボットが決まった時間に声をかけました。
「オハヨウゴザイマス」
ですが、なかなかタカシは起きようとしませんでした。まぶたを閉じたままとても安らかな顔で寝ています。
「オヤスミナサイ。タカシくん」
それっきりロボットは動くことはありませんでした。