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同棲していた彼女に部屋を追い出されたけど、外国帰りの強気な妹さんの青春に付き合わされることになりました。  作者: 遥風 かずら


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第14話 妙な予感の奴

 

 張り切る唯花と一緒に、バイト先であるカフェカッフェに着いた。初日ということもあって、俺たちは朝早くから入るようにという連絡があった。


 駅前から少し離れた所にあるだけあって周辺はまだ静けさが漂っているうえ、まだ開店する前ということがあるせいか、お店のシャッターが閉じたままのようだ。


「開いてないね? どこから入るか聞いてる?」

「いや、特には……多分、横の扉っぽいところだと思うけど」

「じゃあそこから入る?」

「ちょっと待ってた方がいいかも」


 お店の開店時間は朝の10時からと聞いている。ところが、唯花の気合いの関係で、30分前に来てしまった。


 いくら何でもさすがに早すぎたみたいで、誰かが来る気配が無い。

 ――とはいえ、あと10分くらいすれば誰か来そうな気がするだけに、どう説明をするべきだろうか。


「……誰も来ないねー」

「うーん」


 シャッターが閉じられている店先でJKと立ち尽くしている光景は、何となく気まずい感じがある。そう思うのは俺だけだろうか。


 そんなことを思っていたら、唯花が誰かに電話をしようとしている。


「今日来るか分かんないけど、聞いてみよっか?」

「え、誰に?」

「もちろん、ショウだよ!」


 あまり覚えていない名前だが、面接の時にいた唯花のいとこだった気がした。すでに連絡先を知っているとは驚きだが、いとこなら知っていて当然か。


 そうして唯花が電話をかけると、すぐ近くから振動音が響いて来たと思ったら、いとこの男がすぐ近くにいたらしい。


「唯ちゃん! オレ、もう来てる」

「ショウ?」

「グーテンモルゲン、唯花!」

「ヤー!」


 ――どうやらいとこの男は、ドイツ語の挨拶が出来るらしい。それは別にどうでもいいことだが、何か妙な感じを覚えた。


 挨拶をされた唯花は寝起きの俺にしたように、いとこの男と嬉しそうにハイタッチを交わしている。


「……おはようございます。その子と一緒に待ってたんですけど、案外遅いんですね?」


 一つだけ年下と聞いてはいたものの、一応バイトの先輩になるのでとりあえず挨拶だけはしておくことにした。しかしそんな俺に対し、ショウという奴は不思議な表情を見せている。


 もしかして全く気付いてもいなかったのだろうか。

 

「カズキだよ、ショウ! 同じバイト仲間の!」

「あー……、唯ちゃんと来た……名前何だっけ?」


 ――妙な予感が当たった。


 俺が見えていたはずなのに、あえて気付いてなかったように見せていたようだ。どういう意味でなのかは知る由も無いが、唯花といたことに対して気に食わなかったらしい。


(何だこいつ……)


 ――と言いたいが()()()()奴ってことなのは理解したので、冷静に答えることにする。


「あれ? こういう時、ショウから名乗るんじゃないの?」


 そんなことを思っていたら唯花に言われてしまった。そんな唯花に急かされながら、いとこの男はようやく目を合わせて来た。


「……あぁ、新しいバイトの人でしたか。早くに来て待っていたみたいですみません。オレは芝山……、芝山しばやましょうって言います」


 どうやら一応、最低限の礼儀はあるらしい。しかし唯花に言われなければ、絶対名乗ることも無かったはず。


「松岸和希です。今日から始めるので、よろしくお願いします……」

「あ、どうも。でも担当違うし、そんなかしこまられても」

「え?」


 面接の時点では店内でのことに関して、特に詳しく聞かされていなかった。決めるのはもちろん店長だからなのだが、芝山とは入る場所が違うのだろうか。


「ショウはホール?」

「だよ。唯ちゃんもホールだから、よろしくー」

「そうなんだ! じゃあすぐ覚えられる気がする! じゃあカズキは?」

「さぁー……店長が決めてるし、そこまでは知らないな」


(なるほど。担当が違うことを知っていてそういう態度をしていたわけか)


 開店前に自己紹介をすることになってしまったが、唯花は俺のことを特に話してもいないみたいだ。だからといって、どんな関係かを聞かれても困るわけだが。


「おはよう。君たち、早いね」


 そうこうしているうちに、店長が姿を見せた。そのまま鍵を開けてくれたことで、勝手口の扉が開き、ようやく中に入ることが出来た。


 中に入るとすぐに事務所兼更衣室に案内され、そこで着替えることになった。着替えといってもせいぜいエプロンを着けるくらいだが、一応壁による仕切りがあって事務所部分とは少しだけ離れている。


 芝山という奴はゴミ出しに行ったらしく、この場にはいないようだ。それを見計らってか、唯花がこそっと顔を近付けて来た。


「カズキ、顔怖くなってるけど、どうかした?」

「ん? いや、別に怒ってないけど」

「ショウのことなら、気にしないでいいよ。カズキとのことも何も言ってないし聞かれてないけど、ショウって昔からああいう感じ。カズキの方が年上だし、びびることないよ?」


 決してびびってもいなかったが、あんなわずかな時間のやり取りで変な空気を感じたのだろうか。そうだとしたら気を付ける必要がありそうだ。


「年はともかく、バイトの先輩になるし細かく気にしないよ」

「さっすが大人!」

「そんな大したことじゃないけどな」

「ともかくさ、一緒なんだし頑張ってみようよ! だから、はい」

「あぁ、手か」


 さすがにここでハイタッチは――と思っていたら、音を出さずに手だけ重ねられてしまった。唯花的に元気づけてくれているようなので、まずはやるしか無さそうだ。


「ヤー。期待してるよ、カズキ!」

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