第二話:部活の後輩
剣治「時雨君、ぼくをださないっていうのはないだろ〜?」時雨「大丈夫、剣治は星になったんだ」剣治「………」時雨「アマヤドリのほうもやろうって思ってたんだけどね。残念ながらこっちが優先!」剣治「初心に帰るんだよね?ぼくを出そうよ」時雨「さよなら、剣治♪」
前回のあらすじ:まるでシンデレラのように一人で小汚い教室を汗水たらして掃除し、ついでに言うなら窓まで拭いて天道時時雨のお掃除能力は以前にまして若干増えた。だが、彼の精神的ダメージははかりしえなく、その威力はエネルギーに換算すると太陽に地球が激突ぐらいなのだった。傷心のまま時雨は彼が所属する生物部へと向かう………彼の心は憂鬱だった。
第二話:部活の後輩
「…………ふぅ、とりあえずここらで休憩させてもらうかぁ………」
ふらふらと生物室に入り僕は手近にあった椅子を引っ張って座る。
「あ〜疲れた」
「先輩、何で今日はこんなに遅かったんですか?」
準備室から剣呑な声と共に一年生の横山瑠璃さんが現れる。少し頭でもおかしいのか白衣を纏っていてぐるぐる眼鏡をつけていたりする。
「え?ああ………ええと………掃除があったんだよ、掃除」
「掃除ぃ?掃除なら私たちも言われていたじゃないですか!先輩が来なかったせいで私一人で掃除をしていたんですよ!」
漫画とかだったら確実に怒りマークが頭に浮かんでいただろう………可愛いのになぁ、起こりやすい性格が災いしている気がする。仕草とか可愛いんだが物凄く目つきが鋭い、いや、言いなおそうか………怖い。そこらのヤンキーの兄ちゃんより怖い。
しかも気がつけば部長だった僕は今では普通の部員でこっちが部長になっている。入学式の終わったその日にやってきて部長にさせてくれとそういって危うく廃部となるところだった生物部は存続したのだった。僕らのほかにあと三人ほど部員がいるのだが幽霊である。
ふと生物部の部室である生物室をぐるりと見渡すとちょうど扉を開けて目に入る位置に人体模型がおかれていた。
「………あのさ、そこの人体模型がなんでブルマはいてコマネチしてるの?」
「あ、それは入ってきた人を驚かそうと思っておいたんですよ。先輩気づかなかったんですか?」
疲れていたんでわかりませんでしたという事無く、さっさと片付けようかなぁと思ってケータイを取り出す。
「ちょっと誰か呼んで驚かそう」
「ええ、いいですね!」
勿論、宏太に電話することにしよう……今頃サボっている頃合だろうし、田中と古賀は今頃尾行している頃合だろうから邪魔はやめておこう。
「あ、もしもし宏太?面白いもの見せてあげるから生物部に来てよ。すぐに!ああ、わかった十分後ぐらいだね?」
約束を取り付けて親指を瑠璃さんへと見せる。
「よしよし、きっと驚いて白め剥いて泡吹くぞ♪」
「………いや、吹かないと思いますけど?」
「おい、横山もう掃除できたか…………」
「「………あ」」
宏太よりも先に来た人………それは生物部顧問である溝口先生だった。
――――――
「おいおい、お前が見せたかったのは一体全体なんだ?お前の床掃除か?」
「…………」
「………先輩、後で何かおごってもらいますから」
ああ、人生ってなんて儚い………本当に儚いものなんだろうか?ちょっといたずら心があっただけで床を掃除しねぇとならないなんて………ぐすっ。
――――――
「じゃあ、これで今日は帰りますから」
「…………うん、ばいばい…………」
結局その後ファミレスでパフェ(千円オーバーは高校生にはきつい)をおごらされてしまった。ああ、ついてねぇ、全くついてないねぇ………
ふと、ファミレスの外を見ると雨が降っており、しかも転校生がクラスメートの誰だったか忘れてたがとりあえず男子と一緒に相合傘して帰っていた。
「おおっ!?これはスクープでは!?この情報を聞いたらあいつら絶対悲しむに違いないよね、これは!僕ってラッキー!?」
ケータイのカメラを向けて路上に向けてぱしゃぱしゃとる…可愛いウェイトレスさんがひそひそと僕の事を話しているようだがその程度では罪悪感を感じない。
「おい、お前」
「はい?」
ウェイトレスさんの一人がこちらにやってくる。僕と同じぐらいの身長で、眼鏡をかけていて覗く瞳は非常に鋭いものだった。
「神塚の生徒だろ?」
「え、ええまぁ」
「やめろ。同じ神高生として恥ずかしいから」
「恥ずかしいって………」
どこかで見たことがあるようなその顔をまじまじと眺める。
「………せ、生徒会長でしたっけ?」
頷く相手を見て少しばかりやばいなぁと思った。いや、まぁ、メディアで生徒が自主権もって学校統治しているわけじゃないんだが、それでも生徒会長だ。プライベート侵害を先生に伝えられてしまったら停学は確定だろう。
「……すいません」
「うん、わかればよろしい」
これで同級生なんだからなぁ………世の中何が起こるかわからないよ。
データをおとなしく消してお会計を済ませる。
「………名前が出てこないな」
生徒会長の名前も出ないなんてまぁ、よくあることだ。僕はこれ以上何かしらのトラブルに巻き込まれる前に帰宅することにしたのだった。
時雨のお掃除能力が1上がった♪
世渡りが2下がった♪