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第9話 時間

 僕の名前は土岐止太郎(ときとめたろう)

 神様に時間停止能力を貰って、この異世界へとやってきた。

 夢にまで見た能力だ。

 なんだってできるぞ!

 僕はわくわくしながら最初に降り立った街を歩いていた。

 まず驚いたのが、空を飛んでいる人がたくさんいたことだ。

 スーパーマンのような姿勢で飛んでいる人、箒にまたがって飛んでいる人、なぜか座禅を組んで飛んでいる人など様々だ。

 共通しているのは、みんなヘルメットをかぶっているのと、ゴーグルかサングラスをしていること。

 ヘルメットには、ライトみたいな物とカメラみたいな物が付いているのが見える。

 おのぼりさんのように通りを歩いていると、露店の前で店主と話している美少女を発見した。

 少し立ち止まって見とれていたら、神様に貰った能力のことを思い出したので、僕は軽い気持ちで時間を停止してみようと思った。

 その瞬間、街の雑踏や人々の話し声が止まり、空を飛んでいる人たちまでもが映画で一時停止したように、空中で止まったままとなった。


「す、すげぇ。マジで止まった」


 少し疑っていたが、本当に時間を止めることができるとわかると、僕は一気に全能感に包まれる。

 でもちょっと怖いな。

 止まった人々は今にも動き出しそうだ。

 しばらくの間、周りの様子を伺って本当に時間が止まってるか確かめる。

 止まってることを確信した僕は、勇気を出して美少女に近づく。

 うーん、かわいいな。

 でも……。

 駄目だ、やめとこ。

 美少女から離れて時間停止を解除してみる。

 すると人々は一斉に動き出し、世界に音が戻ってきた。

 くぅ、僕の意気地なし!

 でもやっぱこえーわ。

 なんかの拍子に動き出すってことがあるかもだし。


 その後も何度か時間を停止してみたが、駄目だった。

 なにも行動を起こせない……。

 その気になれば、泥棒でもなんでもできるはずなのに。

 一般ピープルの僕にはハードルが高い、高すぎる。

 犯罪なんてできないわ……。

 これはミスったか?

 能力の選択。

 どこいった?

 最初のころのわくわく感。

 意味もなく時間を止めたまま街を歩き、長い階段を上り始めたとき、違和感があった。

 その階段の一番上には、一人の男が立っている。

 それはいいんだがそいつが完全に止まっていないような気がする。

 そもそも、今までの人たちは自然なポーズで固まっていたが、そいつはあきらかに不自然だ。

 なんせ階段の上で、両手を上に広げてYの字のポーズで立っているのだ。

 普通そんな奴いるか?

 日常生活で通路のど真ん中にあんな奴いたらみんな避けて通るぞ。

 しばらくじっとそいつを見ていると、なんとそいつの目が動いてこっちを見た。


「うわぁ!」


 僕はびっくりしてリアルにのけぞってしまった。

 こいつ、今動いたぞ!

 まさか……同じ……同じタイプの能力……!


「やぁ、待っていたよ。よかった、もう腕を上げ続けるのも限界だったんだ」


 そいつが喋りかけてきた!

 ほんとに同じ能力なのか?

 時間は確かに止まっている。

 そいつ以外はみんな止まったままだ。


「僕の名前は時代止稀(ときよとまれ)。キングに仕える『キングに仕え隊』隊員の一人だよ」


 キングに仕える、キングに仕え隊の隊員?

 キングに仕えてるのか仕えたいのかどっちなんだ……。


「土岐止太郎です。びっくりしました。同じ能力なんですね」

「そうみたいだね。なんで僕がここにいるかわかる?」

「……わかりません」

「君を試すためだよ」

「試すって……なにをですか?」

「その階段を二段下りろ、僕たちの仲間にしてやろう。逆に死にたければ……足をあげて階段を上れ」


 んん?

 と一瞬考えたけど、死にたくはないので階段を二段下りた。


「そうかそうか止太郎、フフフ、階段を下りたな。僕たちの仲間になりたいということだな」

「えっ? はい、そうですけど」

「……」

「えっと……もう上ってもいいですか?」


 止稀はなぜか不満げな表情をして黙ったままだ。

 なにも言わないので、ずんずん階段を上って頂上に近づくと、止稀はくるっと僕に背を向けて歩き出した。

 ついてこいってことか?

 時間は止まったままだがいいのだろうか?

 しばらく、無言のまま止稀についていくと広場みたいな開けた場所にでた。

 その中央あたりに差し掛かったとき、止稀が立ち止まって振り返った。


「ところで、君は考えたことあるかな? 時間を止める能力の持ち主が二人いるってことを」

「……いえ」

「考えてみなよ、時間を止めるってことは世界中が止まるってことだ、そうでしょ?」

「えっ……そうですね」

「でしょ? だって自分の周りだけ時間が止まってたらおかしいじゃん。時間が止まってる場所と止まってない場所があったら、時間止まってる人間と止まってない人間が出てくるでしょ。そしたらもう大騒ぎになるじゃんか。たまたま時間止まる場所と止まらない場所の境界線にいたらどうするの? その人は半分だけ止まるわけ? そんなわけないでしょ」


 そりゃそうだ。

 時間を止めたら世界中が止まる。

 普通に考えたらそうだけど、違うのか?

 なにが言いたいんだろうかこの人は。


「っていうか地球的にもおかしいじゃん。半分だけ時間が止まったら爆発とかするでしょたぶん。知らないけど。でもしてない。だから時間を止めるってことは世界中が止まってるんだよ」


「……はぁ」


「なにが言いたいかって言うと、つまり、二人の時間停止能力者がいると、一人が時間を停止したらもう一人も時間の停止した世界になるってこと」


「……あっ!」


「君、何回も時間停止させてたよね?」


「……はい」


「その間僕が大変な目に合ってたの知らないでしょ。人と会話してたらいきなり時間が停止してさ、解除されるまで待ってなきゃいけないんだよ? しかもずっと同じポーズで。だってそうでしょ、解除された時に僕が違う場所にいたら瞬間移動したように見えるじゃん、相手から。会話の途中でいきなり瞬間移動してたらおかしいでしょ? そのあと紅茶を盆に載せて運んでたらまた時間停止されてさ、僕はいいよ? 動けるから。でも盆に載った紅茶は動けないんだって。盛大にぶちまけたよ。それだけじゃないぞ? トイレで用を足してたときさ、今だけは止めないでくれって、僕は何度も願ったよ? でも止められた。無慈悲に。想像してみてよ、僕の体から離れた瞬間にその場に留まっていくんだぞ? カッチカチのやつならまだいいよ? でもそうじゃなかった。僕は泣きながらその後の処理をしたよ。汚れたからシャワー入ったらさ、やっぱり止められた。体は冷えるし、水が出たり出なかったりしてさ。そりゃ待ってれば水は出てくるよ? 出てくるけど、いざお尻に当てようとしたらまた止められてさ。いつ水が出てくるかわかんないから、肛門付近に狙いを定めたままずっと待ってたんだぞ僕は。駄目だ、思い出したらまた腹が立ってきた。もう僕は堪忍袋の緒が切れたよ」


「そ、それは……すいませんでした!」


 調子に乗って時間を停止させてたのがまずかったらしい。

 でもそんなことになるなんて誰も想像できないって!

 やばいな、マジで怒ってるっぽいぞ。


「そういうわけだから。君には死んでもらうよ」

「……はっ!? いやいやいや、なんでそうなるんですか!?」

「階段を上ったじゃん」

「その前に下りたじゃないですか!」

「問答無用。時を支配する者はたった一人、この時代止稀だけだ」

「納得できませんって!」


 止稀が近づいてくる。

 マジでやる気か?

 クソッ!

 殺し合いなんて……。

 けんかだってしたことないのに。

 来るぞ!

 やるしかない!


 ゆっくりと近づいていく止稀。

 止太郎はボクシングのピーカブースタイルだ。

 すでに両者の距離は手を伸ばせば届く範囲。

 その状態でしばらく見つめあう二人。

 先に動いたのは止稀。

 ローキックのようなものを繰り出した。

 まったく腰の入っていない、いや、そもそも蹴りなのだろうか。

 例えるなら柔道の出足払いのようだ。

 しかし距離感を見誤ったか、ただ脚をスイングしただけになった。

 蹴りを放って逆にバランスを崩す止稀。

 ここぞとばかりに止太郎が反撃の狼煙を上げた。

 止稀にパンチをお見舞いする。

 ハエが止まりそうな、いや、そもそもパンチなのだろうか。

 曲げた腕を伸ばしただけの拳がむなしく空を切った。

 それを見た止稀がびびって距離をとる。


 こうして、時が止まった世界というファンタジー至高の舞台で、最底辺の泥仕合が密かに幕を開けた。

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