第4話 PK
僕の名前は新人英雄。
トラックに轢かれて死んだ後、神様と会ってこの異世界へとやってきた。
神様には魔力の量を限界まで上げてもらった。
大抵のなろうものは魔法で好き勝手やってるし、僕もそれを真似してみた。
これから僕が主人公の英雄伝説が始まるんだ!
なんてね。
あ、えいゆう伝説とひでお伝説のダブルミーニングだからね。
そこんとこよろしく!
それで最初の町みたいなところで目が覚めたわけだけど……。
なんだか思ってたのと全然違う。
もっとこう、中世ヨーロッパ風の街並みかと思ってたけどほとんどが廃墟だし。
建物はみんな壊れてて、人が住んでる様子がないみたい。
町全体が不気味に静まり返ってるし、行き交う人はまばらで、しかも見るからにあぶない人ばかりだ。
ぼろぼろの服を着た麻薬中毒者みたいな人。
フードとマントで素性がまったくわからない人。
それに姿が見えないけど足跡だけ残る透明人間。
この町はどこか変だ。
別の町に行ってみたいけど……。
「誰か助けて~!」
どこかから女の子の声が聞こえた。
どこだろう?
この大通りにはいない、となるとどこかの路地裏かな。
いた。
一人の美少女が、二人の男に迫られていた。
これは助けて惚れられちゃうフラグじゃん。
そういえばよくあるイベントだし!
みんな~、英雄伝説が始まるよ~。
よってらっしゃい、みてらっしゃい。
「あの~、お取込み中のところ悪いんだけどちょっと聞きたいことがありまして」
「ん? なんだてめぇは?」
僕が爽やかに登場すると、野盗たちは驚いてこっちを向いた。
「あぁ、助けてください! お願いします!」
美少女が僕に懇願してきた。
手を組んだ仕草がまたかわいい!
そして見るからにでかいおっぱい!
一人目のお嫁さん決定!
思わず顔がだらしなくなっ、ってダメダメ最初が肝心なんだから。
僕はニヤつく顔を見られないように咳払いをしてごまかす。
「あ、彼女は僕の知り合いなんだ。離してやって」
「知り合いだぁ? じゃあ名前を言ってみな」
「新人英雄です」
「……てめぇの名前じゃねぇよ!」
彼女の名前を聞いてたのか。
素で間違えちゃった。
てへぺろ。
と思っていたら、美少女が隙をついて男たちの間を素早くすり抜けた!
僕でなきゃ見逃しちゃうね。
美少女が僕の背後に隠れるようにピタッとくっつく。
お、おっぱいの感触が背中越しに伝わってくる!
漫画だったら鼻血が出てるとこだよ。
僕は紳士だからそういうことはないけどね!
ハァ……異世界最高。
「クソッ! おい坊主、その子を渡しな。悪いことは言わねぇ。てめぇも痛い目に合いたくねぇだろ?」
「痛い目には合いたくないですね。どうせなら気持ちいい目に合いたいですね」
「ふざけてんじゃねぇぞコラ!」
どうやら怒らせちゃったみたい。
男たちは今にもこっちに飛び掛かってきそうだ。
僕の初魔法お披露目の時間かな。
でも魔法ってどうやって使うんだっけ。
なんか集中して~、魔力の流れを感じて~、魔法のイメージをして~って感じ?
色々やってたら体の一部が寒く感じた。
いや、冷たい?
なんか違和感。
腰に。
背中?
背中のへんが痛い。
後ろ向こうと。
体。
痺れ。
動かない。
英雄がうつぶせに倒れる。
その腰から背中のあたりにナイフが刺さっており、地面が血で染まっていく。
ナイフはわざわざ英雄のシャツの下から差し込まれている。
美少女がナイフを抜くと、野盗の一人が躊躇なく英雄の首を切り落とした。
美少女は手慣れた手つきで英雄の荷物を物色している。
中から食料やら水を取り出しては野盗たちに投げ、取り出しては投げていく。
やがてそれが終わると衣服と靴も剥ぎ取る徹底ぶりだ。
一仕事終えた三人の男たちは無言でその場を立ち去る。
あとに残るのは身ぐるみ剥がされ、頭と胴体が離れた無残な死体のみであった。
PKと呼ばれる行為が存在する。
PKとは、通常プレイヤーキルやプレイヤーキラーの頭文字をとったものだが、この異世界においてはさらに、ぺーぺーを狩るという意味も含んでいる。
いわゆるただの初心者狩りである。
いつからだろうか、世界が荒廃していく中で神様は、なろう主人公たちに一週間分の食料と水を持たせて送り出した。
そこに目を付けられたのである。
お約束ともいえるイベントを逆手に取り、ナイフに人体を麻痺させる魔法を付与し、さらに猛毒まで塗る用心深さ。
そして、すかさず首を切り落とす。
美少女は言わずもがな、野盗の一人の変身能力だ。
こういった無慈悲で凄惨な行為は、ナーロッパの各地で起こっているのである。
野盗の一人が死体現場に戻ってきた。
おもむろに腰についた鞘から剣を抜くと、死体の心臓に突き刺した。
すぐさま引き返そうとしたが、ふと近くに転がっていた英雄の頭が目に入った。
野盗は冷笑を浮かべると、サッカーのPK戦のときのように数歩後ずさりする。
そして、助走をつけてその頭を蹴った。
ギャグ漫画の世界ならば、その頭は空高く一直線に吹っ飛び、まるで星のようにキラリと光るだろう。
だが、これはギャグ漫画ではない。
物理法則はきちんと守る。
高尚ななろう小説なのだ。
蹴られた頭はまるで弾丸のように飛び、廃墟の壁に激突して砕け散った。
なにを隠そう、この野盗もなろう主人公の一人である。
砂煙が晴れるとその壁には、一輪の赤いバラが咲いていた。