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第1話 転生

 僕の名前は伊勢海名郎(いせかいなろう)

 アニメや漫画、ゲームが好きな、いわゆるオタクというやつだ。

 部屋には二次元の女の子のポスターが至る所に貼ってあり、美少女フィギュアが所狭しと飾ってある。

 今日もまた、その飾り棚に新しい友達を増やすべく、限定フィギュアを買った帰りだ。

 早く飾りたい、帰って隅々まで鑑賞したい、その思いが強すぎたのか僕は知らぬ間に早足になっていた。

 気付けば先ほどから行き交う人たちは僕を見て笑ったり、あるいは距離をとったりしていた。

 そりゃそうか、三十代後半の頭が少し禿げてる太ったおっさんが、二次元の女の子がプリントされたビニール袋を持って、不気味な笑顔で早足なら誰だって見るさ。

 僕は恥ずかしさで一杯になり、うつむいて地面を見ながら歩き出した。

 交差点に差し掛かり、信号待ちをしている間も、向こう岸にいる人たちに見られているような気がして汗が噴き出る。

 段ボールに囲まれたい……。

 過去何度も思ったことだ。

 やがて信号が青に変わり、歩き出した直後、横からものすごい衝撃を受けた。

 トラックに轢かれたと思った瞬間に、僕の意識は遠のき、視界が暗くなっていった。


 誰かが遠くのほうで、僕を呼ぶ声が聞こえる。

 威厳のある声だ。

 返事をしなくちゃと思った直後、意識が覚醒した。


「やぁ、名郎くん。初めまして、私は創造神の一人だよ。残念ながら君はトラックに轢かれて死んでしまったようだね。だが安心したまえ、君は別の世界で生きていく権利を得た! さぁ、言いたまえ! 君が考えた最強の能力とやらを!」


 いきなりそんなことを言われ、僕の脳は停止している。

 目が覚めたと思ったら、目の前にスーツを着た日本人っぽい男性がいた。

 帽子とサングラスとマスクで顔が全部隠れている。

 強盗かなにかにしか見えない。

 そんな怪しすぎる人物が、私は神だとのたまっている。

 普通なら頭のおかしい人物として関わり合いにはならないが、僕はライトノベルが好きでよく読んでいたし、この展開にはピンとくるものがあった。


「もしかして、異世界ものですか?」

「その通りだ、さぁ早く言いたまえ。君の能力を」


 神様はなぜか答えを急がせてくる。

 なんなんだ。

 アニメの放送時間でも近づいているのか?


「後ろを見てみたまえ」


 そう言われて後ろを見てみると、ものすごい数の人間がずらりと順番待ちをしていた。

 一列に並んだ行列は地平線の彼方まで続いている。

 いったい何人いるんだこれ……。


「わかったらとっとと言いたまえ。使い古された能力を、厚顔無恥にも宣言するがいいさ」


 神様は手をピラピラと振って早く終わらせたい様子を微塵も隠そうとしていない。

 小心者の僕は、急いで頭を働かせる。

 だが、後ろで人が待っているという状態は、僕にとっては修羅場となる。

 ATMの順番待ちや、トイレの順番待ちなどでもそうだ。

 心臓の鼓動は早くなり、急いで終わらせなきゃという気持ちに支配される。

 ど、どうする。

 考えようにも焦ってしまって頭はパニック状態だ。

 ふと思い出したのは段ボールに囲まれた自分の姿。

 誰にも見られなければ、恥ずかしい思いをすることがなくなるじゃん。

 よし、もうそれでいいや。


「では僕を――――――――」

「……そんな能力でいいのか?」

「はい」

「なにに使うのか知らんがいいだろう。ではいくがよい! 精々頑張りたまえ!」


 こうして僕は異世界へと旅立ったのだった。

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