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63.和平交渉

 大悪魔サタンを倒してから数日。

 激しい戦いだったが、後衛に回った魔術師さん達がきちんと防御結界を維持してくれたおかげで、街にはあまり大きな被害は出なかった。

レンガ造りの城下町を囲う壁と、それに備わっている門、城外の舗装された道などが壊れてしまったので、役人さんの指示の下、街はそうそうに復旧作業に着手している。


「ヒルデンブルグ国王に和平の提案を申し入れましょうかね」

 宰相のアドラメレクが、ようやくその言葉を口にする。

 そうだな、とバアルがうなづいた。


「召喚」

 そう言うと、ブルーがメインの鮮やかな色の小鳥がアドラメレクの指先に現れた。

 提案書の書簡は既に用意されていたようだ。流石一国の宰相ともなると仕事が早い。

「さあ、仕事だよ、行っておいで」

 足に付けられた書簡入れに小さなその手紙を差し込まれた小鳥は、大空を飛んで行った。


 日時や参加者などの調整のやり取りが何回か行われ、結果、和平交渉は、最初に申し入れをしてから一ヶ月後に、ヒルデンブルグ城で行うこととなり、私たち三人と、バアル、アドラメレク、フルフルが向かうことになった。


 ◆


 和平交渉当日。私たちは、私の転移魔法でヒルデンブルグ城の城門まで飛んできた。突然現れた私たちに、門番が驚いている……ごめんなさい。


「魔王領を統治する魔王バアルだ。今日の和平交渉のために伺った」

 代表してバアルが門番に要件を告げる。すると、上から話は通っていたのだろう、すぐに案内役の役人が呼ばれ、私たちは交渉のための部屋へと案内された。

 そこは、『選定の間』。勇者を選ぶ聖剣カラドボルグが納められたその部屋に、席が設けられていた。


 程なく、人間側の代表であるヒルデンブルグ王と、その宰相が入室した。私たちは、一度立席して礼をし、双方揃って席に腰を下ろした。


 ヒルデンブルグ王がまず口を開く。

「和平に合意、となりましたら、皆様の前で、この聖剣を封印しようと思いましてな。こんな飾り気のない部屋で申し訳ない」


「なるほど、それであえてこの部屋に設定されたのですな」

 ヒルデンブルグ王の深い意図を理解し、バアルが感心してうなづいた。


「正直なところ、長い歴史の中で真実は失われ、なぜ、『勇者』を『魔王討伐』に向かわせるのが恒例となっているのか、学者に調べさせても真実は得られませんでした」

 ヒルデンブルグ王が言う。


「それは我々も同じ。真実は失われてしまったのが実情です」

 バアルもうなづいて同意した上で、話を続ける。


「ですが、わかる範囲の歴史の中で、我々魔王領側からの侵略行為は行っておらず、今後も行うつもりがないことはお約束できる。出来れば、そちらからの『勇者』派遣もやめていただければ、お互いに無駄な血を流さずに済むのではないかと思っている。友好が進めば、交易などの交流も始まり、互いの益も生まれてくるでしょう」


 その言葉に、ヒルデンブルグ王がうなづいた時だった。


 部屋に神々しい光が溢れ、一人の天使が降臨する。

 背に生える三対の真っ白な羽根、頭上で輝く天使の輪、白き衣。黄金の髪にエメラルドの瞳。

「私は熾天使ミカエル。汝ら、地上の者たちは、過去に決別し、互いの和平を望むか」


 その場にいる者全員が突然の来訪者に息を飲む。


「「望みます」」

 それぞれの王が声を重ねて答える。


 そうだ、とミカエルが思い出したように話し出す。

「大悪魔ルシファーのことで、先に汝らに礼を言わねばならなかったな」

 そう言って、バアルを筆頭とした私たちの方に目を向ける。


「小賢しい悪魔の悪巧みにより、大悪魔ルシファーの復活を許してしまった。あやつは地上も天も滅ぼそうとしていた。汝らは、それを、類まれなる力によって消滅させてくれた。深く感謝しておるぞ。魔王バアル、アドラメレク、フルフル、聖女にして大賢者リリー、エルミーナ、そしてデイジー」

 厳しくも優しい瞳がそれぞれに向けられる。


 一回り私たちを確認したあと、ミカエルが再び口を開く。


「『勇者』についてだがな。あれは、人間という種族がまだ幼く、魔族に抵抗する術を持たなかった太古の昔に生まれたのだ。我々が弱き人の子の祈りを聞きいれ、『勇敢な心を持つもの』に、魔族を打ち払う力として『勇者』に『聖剣』が与えられるようにしたものだ。だが、人の子も強くなったのだな……強き人の子の王よ」


「はっ」

 ヒルデンブルグ王が応える。


「汝らが和平を結び、『勇者』が不要になるというのであれば、私はその選定を行う剣、カラドボルグを天へ持ち帰ろうと思うが、異存はないか」


 ヒルデンブルグ王と宰相が顔を見合わす。

「異存ございません」

 王がそういって、深くうなづいた。


 ミカエルが、カラドボルグに向かって手を差し出す。すると、カラドボルグは封印の石から抜け、鞘に収まり、ミカエルの手の内に収まった。


「では、私は天に帰る。汝らの決意が、長き時にわたって続くよう、見守ることにしよう」

 そう言うと、ミカエルは剣とともに消え去った。


 ミカエルが去った後、ヒルデンブルグ王、魔王バアルの順に、和平を定めた誓約書に署名がされ、二国間の和平が成立したのだった。

下記をどうかお願い致します(。ᵕᴗᵕ。)


駆け出し作家の身ではありますが、すこしでも

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