60.元勇者襲来
ユージーンは、大空を飛んでいた。目指すは魔王城。
『勇者』だった頃は、使えない奴らを引連れて苦労して地上を旅したものだが、今の俺はどうだ!翼を有し、空を駈け、獲物にあっという間に近づくことが出来る!
……俺は強い!
エルミーナ、まずは俺の零落のきっかけになったお前を殺してやる!
魔王城城下の門付近。
魔王城を中心に、城下町を含めて防御結界が展開されていた。
「こんなもの壊してやる!出てこい!エルミーナ!」
「闇の剣!」
俺は、結界に向けて魔法を打ち付けた。
さあ、宣戦布告だ。
出てこい、俺をバカにする奴らはみんな殺してやる!
◆
「襲撃です!防御結界にヒビが入りました!」
兵士の一人が、バアルに報告する。
魔王の執務室にいたバアル、アドラメレク、フルフルが、瞬時に緊迫した面持ちになる。
「敵はどこから襲撃している。何者だ」
アドラメレクが、その兵士に問う。
「城下町入口の門前にて、攻撃魔法を打った模様。敵は悪魔一体です!」
兵士はアドラメレクに一礼して状況を答える。
「兵士は、住民避難を優先。特に城下町の住民を奥に避難させるように!魔法兵には防御結界の修復に専念させろ、悪魔には我々が出る!」
バアルが、的確に指示していく。
「はっ!」
指示を受けた兵士が、一礼して、指示を伝えるべく部屋を駆け出していく。
そこへ、騒ぎを聞き付けたリリー、エル、デイジーが部屋に駆け込む。
「私たちにも手伝わせてください!お力になれます!」
リリーが強い意志を込めた瞳でバアルを見つめる。
正直なところ、バアルはリリー達を連れていきたくはない。危険だとわかっている所へ、あえて心を寄せている相手を連れていこうと思う男はいないだろう。……が、彼女たちもそれぞれ皆優秀な冒険者である。これ以上ない心強い戦力でもあった。
「ありがたい。……ただし、三人とも無理はしないように!」
リリーたち三人は頷き、バアルの転移魔法で悪魔の元へと移動した。
◆
転移魔法で移動した先に悪魔はいた。
短く切りそろえられた金色の髪、青い目、そこに黒いコウモリの翼にヤギの角一対。かつて、『勇者』と呼ばれた彼が、異形の悪魔の姿でそこに居た。
「……ユージーン?」
その彼の面影を残す悪魔の姿に呆然としてエルミーナが声をかける。
「お前は元々我が領地を侵略していた人間の勇者だろう!なぜ悪魔になっている!」
バアルも、『遠見の水晶』越しに彼の姿を見たことがある。その変容ぶりに、理解できないとばかりに眉間に深いシワを寄せる。
「エルミーナ……よく来たな。お前のおかげで、俺の輝かしい勇者としての人生は滅茶苦茶だよ」
ユージーンは、空中に浮かんだまま、エルミーナを睨めつけ、彼女を剣で指し示す。
「それは、アンタが人道に悖る事したからやろ!自業自得や!」
事情を知っているデイジーが、ユージーンの言い分を跳ね除ける。
「魔族を倒すどころか、仲間を殺めて消えたと思ったら……堕ちる所まで堕ちたな、お前」
アドラメレクのその濃い青い瞳が、ユージーンを冷たく射る。
「お前たちみんな俺の事情を知ってるようだな……だったら全員消えてもらわないとな!」
そう叫んで、ユージーンが急降下して来てエルミーナに斬り掛かる。エルミーナは剣を受け止めるが、重い。ぐっと歯を食いしばってその重みに耐える。腕が重みに震える。
「火炎弾」「氷の楔」「風の刃」
そこへ、バアル、アドラメレク、リリーが、ユージーンに向けて魔法を打つ。
「「うおぉーりゃあ!」」
そして、デイジーとフルフルがユージーンの背後を取り、ハルバードとデスサイズで切りつけに行く。
すると、ユージーンの姿は消え、今度はエルミーナの背後に回る。
「エルミーナぁ……死ねって言ってんだろ!」「闇の刃」
「させるか!」
そう叫んだアドラメレクが、片手でエルミーナを突き飛ばす。
「魔力障壁!」
そして、エルミーナを押した手と反対の掌に障壁を展開し、ユージーンの魔法を打ち消す。
「邪魔だよ、クジャク」「闇の槍」
アドラメレクが展開する障壁に徐々にヒビがはいり、打ち消し損ねた数本の槍がアドラメレクの腹をえぐる。
「くっ」
脇を抉られる痛みにアドラメレクが顔を大きく顰める。
「ヒール!」
すかさずリリーがアドラメレクに回復を施す。
「邪魔だって言ってるんだよ!まとめて消えろ!」「地獄の火炎!」
六人の足元に、大きな血色の魔法陣が展開される。そこから、邪悪な炎が吹き上がった。
「「「きゃああ!」」」
「「「……っく!」」」
全員が炎に巻き込まれる。
「聖なる雨!」
リリーは歯を食いしばって立ち上がり、邪悪な炎を聖なる雨で相殺する。
「エリアハイヒール」
そして、炎に巻かれた皆を回復する。
「なぜ死なないぃ!邪魔するな女!死滅斬!」
ユージーンが大きく剣を振りかぶると、黒い剣の衝撃波がリリーを襲う。
「させるか!」
バアルがリリーの腕をとって抱き寄せ、その衝撃波を躱す。
「範囲速度上昇!」
リリーはバアルの腕の中で、味方全員の速度を上昇させる。
「「よっしゃ行くぜ!」」
フルフルとデイジーが、高速でユージーンの元へ駆け込んでいく。
フルフルは胴体の防具の合間を狙ってデスサイズを振るい、デイジーはハルバードの鋭利な刃で黒い翼を一枚切り裂く。
「ぐぁっ!」
二人の速度についていけなかったユージーンが、腹に傷を受け、翼を一枚失った。
「……傷を受けた……だと」
ユージーンが、一瞬狼狽える。
「もう一枚も要らんだろう」
ユージーンが受けた傷に気を取られている隙に、エルミーナがもう一枚の羽を切り落とした。
「行くぞ、アドラメレク」
バアルが言うと、アドラメレクが頷く。
「地獄の業火!」「絡み付く竜巻!」
バアルとアドラメレクが同時に唱えると、炎を纏った竜巻がユージーンを襲う。
そこへさらに、リリーが追い打ちをかける。
「天界の怒槌」
消えない業火に焼かれ、天からは怒槌に苛まれ、ユージーンの体がボロボロになっていく。
「なぜ勝てない!俺は、選ばれし者!何故だぁぁ!!」
炎の中でユージーンが絶叫する。
「俺は、強い、力が欲しい!全てを、殺して、……殺し尽くしてやる程の力がぁ!!」
そう、叫んだユージーンの頭の中に、低い声が響いた。
『力を望め。……我を受け入れよ。さすれば全てを蹂躙する程の力が手に入るであろう』
ボロボロのユージーンには、もう選択の余地はなかった。
「力が、欲しい、力が、欲しい……俺にお前の力をよこせぇぇ!!」
ユージーンがそう、絶叫した時。ユージーンを襲っていた炎も怒槌も止んだ。
ユージーンの頭上遥か高くに暗雲が立ちこめ、渦を巻く。
「一体何事だ?」
バアルを中心にみなが辺りを見回し、訝しむ。
ユージーンの中の、シトリーから受けとった石。それが、ドクン、と脈打つ。
「ぐ、ぁ……」
ユージーンが胸を掻き毟る。
そして、天の渦巻く暗雲のその中心から、一筋の禍々しい光が差し込んで、ユージーンの胸のその石に吸い込まれていく。
『……願い、聞き遂げた。汝、我が器となりて、我と我の力を受け入れるがいい。そして汝は自我を失い、我大悪魔ルシファーの体となるのだ』
「あああああああああああああああ!」
ユージーンが頭を抱えて絶叫する。
ユージーンの体が、ドクン、ドクン、と脈打つ事に、その体が、ひと周り、ふた周りと大きくなっていく。
短かった金髪は腰にも届こうかという程に伸びていく。
ユージーンの額が割れ、ふたつの角に加えてさらに三つ目の血濡れの角が生まれでる。
そして、羽をを失った背には大きな亀裂がはいり、黒く艶やかな羽根が、一枚、二枚、三枚……。全部で三対の黒い羽根が生え揃う。
ゆらり、と幽鬼のように立ち上がったユージーンの瞳の色は金。
「あはははは!愚かな人間よ!お陰でこの世に降り立つことが出来たわ!」
そう宣言する大悪魔の中に、もうユージーンの意識はない。
「我が名は大悪魔ルシファー。まずは矮小な地上の生き物達から血祭りにあげよう。そして、我を堕とした天の輩も皆殺しにしてくれるわ!」
◆
そんな最悪の状況の中、ユージーンを打ち負かしたことによって、リリーの頭の中の『あれ』が響いていた。
【時魔道師のレベルが上限に達しました。以下の職業を追加で選べます】
・空間魔導師
こんな時になによって、選ぶも何も一個しかないじゃない!
【時魔道師のレベルが上限に達しました。以下の職業を追加で選べます】
→空間魔導師
【全ての魔法が行使可能になったことを確認しました。賢者、時魔導師、空間魔導師を、大賢者へと統合します】
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