58.元勇者のさらなる転落
人間も魔族も知らぬ深き深き森の中。あらゆるものに見捨てられた呪われた森の中に、人間界に紛れ込んだ悪魔はひっそりと住んでいる。その森の中にある屋敷のひとつが、悪魔シトリーとジーンの住まいだ。
その寝室のベッドで二人は素肌で横たわっている。
「ねえ、ジーン。人間と魔族、仲良くなってるわよー」
腹ばいで寝ているシトリーが、面白くなさそうに足をブラつかせる。
「はぁ?どういうことだよ。人間と魔族は争うものだろう」
ガバッとシーツを剥ぎ取り、ジーンが体を起こす。
「だってー、ジーンが追放した女とその仲間たちで、魔族領を旅しちゃってさ、魔族を助けて歩いているのよ。例えばあなた達が滅ぼした村の生き残りとかさー」
シトリーは、やめてよ、と口をとがらせてはだけたシーツを奪い取る。
「そうそう、シャーマンのトコでジーンの仲間殺してきたじゃない?それも知っちゃったみたぁーい」
「なっ」
青ざめ言葉が無くなるジーン。
「……ジーンが人殺しちゃったの、みんなにバレちゃうねえー」
シーツに口元を隠し、上目遣いでジーンを見上げてクスクス笑うシトリー。
ジーンは何も言えずに黙っている。どうしたらいいのかを必死に考えているのだろう。姑息な男だ。
「……力、欲しくなぁい?でぇ、あいつら全部消しちゃえば良くなぁい?」
赤い唇を大きくたわめて、ジーンの唇を指でなぞるシトリー。
その言葉に、ゴクリと喉を鳴らすジーン。
「悪魔になっちゃいなよ」
そう言うとシトリーは、喉をごくんと鳴らすと、その舌に紅く暗い色をした石を取り出して見せた。
「……それは、なんだ」
ジーンは、シトリーの唾液でてらてらと光るその石に魅入られるように身を乗り出す。
「悪魔が、他種族を伴侶にしたい時に使う石。飲み込めば、同族に……力を持った悪魔になれるわ」
そう言って、ジーンにその石を差し出す。
差し出されたジーンはゴクリと唾を飲みこむが、受け取ろうとする手は震えてなかなか動けない。
「元勇者で悪魔。前代未聞だわ。……素晴らしい力を持った悪魔になれるわ、そんな力、欲しくなぁい?」
……ジーンはその誘惑に負け、その石を飲み込んだ。
「う、ああああああああああああ!」
ジーンは、シーツの上に爪を立て、四つん這いになって吠える。飲み込んだ石は、彼の腹の中から無数の触手を伸ばし、ありとあらゆる組織に忍び込み、その存在の有り様を書き換える。
対象外になる組織はない。体内の全てが悪に侵されていく。
ジーンが叫ぶ。
「せ、背中が……熱いっ!……頭が、痛いっ!」
肩甲骨の上を覆う肌に亀裂がはいり、赤が覗く。そして、中から血濡れのコウモリの翼がうまれでる。
眉間にも亀裂がはいり、血濡れの山羊の角が生えてくる。
そうして、ジーンは生まれ変わり、その変化の衝撃により気を失った。
「……バカね、伴侶にするためなわけないじゃない」
シトリーは、ジーンを見下ろしクスクス笑って、ジーンの血に汚れたシーツを体にまとい、部屋を後にした。
◆
しばらくして、ジーンは一人で目を覚ます。
部屋の鏡を見て、生まれ変わった自分の姿を眺めると共に、今までかつて感じたことの無いほどの力を、体の内に感じた。……満足だった。
彼は床に散らばった肌着と、シトリーが用意したのだろうか、産まれたばかりの羽を邪魔しない、新しい装備を身につける。
「エルミーナ……その仲間たちも、みんな殺してやる」
そう呟いて、窓から翼を広げて飛び立って行った。
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