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57.リリーの眠り

 ここはとても暗い暗い静かな場所。

 そして私は今とても安全な殻の中にいるの。

 外に出ると、とても怖いの。


 ハヤトとフォリンとスノウが、血の涙を流して私に言うの。

「ドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテ」

「タスケテタスケテタスケテタスケテタスケテ」

「イタイヨイタイヨイタイヨイタイヨイタイヨ」

「コロシテコロシテコロシテコロシテコロシテ」


 百の手が、私を追いかけてくるの。

 百の目が私を責めるの。


 だから、私は今安全な殻の中で眠り続けるの。

 目を閉じれば、耳を塞げば、心を塞げば、……何も見えないし聞こえないから。


 ◆


 魔王城の門番達は、倒れたリリーの噂を聞きつけて押し寄せる領民の対応に四苦八苦していた。


「村で三羽しかいない貴重なニワトリを持ってきたんだ!食べさせて滋養をつけろ!」

 そういうのは、ハーフリングのトッポとジージョ。


「うちのニンジンは栄養いっぱいだよん。たべさせるぴょん!」

 そういうのは、うさみみ獣人の村娘と若者。


「狩でしとめた肉を持ってきた!食べさせろ!」

 そういうのは、猫獣人と犬獣人。


「商いに行った先で気付け薬を買ってきたんだ!飲ませてみろ!」

 そういうのは、商いを生業とするリザードマン。


「復興もままならないが、今年採れた麦を持ってきた。粥にして食べさせてやってくれ」

 そういうのは、ゴブリンの青年とオークのドグマ。


 そんな、今までリリーたちが立ち寄ってきた村の領民たちが、大挙して押しかけてきているのだ。


「おやおや、これはまた嬢ちゃんは人気者だこと。あたしゃ出遅れちまったかねえ」

 そう言って、村の若者に荷押し車に乗せてもらって連れてきてもらったシャーマンのお婆さんもいた。


 そこに、様子を見に来たアドラメレクが、彼女の存在に気づいて声をかけた。

「これは、シャーマン族のばば様。わざわざいらっしゃったのですか」

 彼女の年齢を考えれば、村を出るのは異例のことだ。


「あの人間の優しい子が倒れたって聞いてねえ。私で診てやれることはないかと思ってねえ」

 シャーマン族は、魔力を持ち、医学で治せないものを診ることもできる力を持つ希少な一族だ。しかもその長の老婆は最も村で強い力を持つ。力を借りてみるのも良いかもしれない。


 そう考えたアドラメレクは、シャーマン族の二人を城の中に通し、リリーの部屋へ案内した。リリーは相変わらずただ眠るばかりである。

 その彼女を見せながら、悪魔のこと、その悪魔に知り合いをキメラにされ、彼らの命を自らの手で断ち切ったこと、悪魔を焼き尽くしたことなどを話した。


「……それは、とても悲しく辛い思いをしたんじゃのう。心優しき子になんてことをするんじゃ。心が閉じてしまうのも当たり前じゃろうて」

 そう言ってばば様はリリーの額にそっと手を置く。


「……この部屋は花がいっぱいじゃの。優しき思いが沢山込められておる。これは、誰からのものじゃ?」

 ばば様がちょうど尋ねた時、バアルがリリーの部屋を訪れた。

「……私だ」

「あんたなら、この子を呼び戻せるかもしれんの。それから、あの子の仲間も部屋に呼んでおいで」


 そうして、エルやデイジーを部屋へ呼び、シャーマンのばば様が夢入りの術を行うことになった。その名のとおり、夢の中へ潜り込む術だ。

 ばば様が、バアルにリリーの手を握らせる。そして、リリーとバアルの額に指で模様を描くように指でなぞる。


「心は繊細じゃ、優しく扱うのじゃぞ」

 バアルがコクリと頷くと、ばば様が呪文を唱え始める。


 眠りに入ったバアルの頭ががくりと落ちた。


 ◆


 バアルは、気づくと暗い空間にぽつんと佇んでいた。

「……ここは」


 すると、ヘカトンケイルに囚われていたうちの三人の顔が暗闇に浮び上がる。


 ハヤトとフォリンとスノウが、血の涙を流して繰り返す。

「ドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテ」

「タスケテタスケテタスケテタスケテタスケテ」

「イタイヨイタイヨイタイヨイタイヨイタイヨ」

「コロシテコロシテコロシテコロシテコロシテ」


「お前たちは、既にリリーの手によって輪廻の中に帰っただろう。もう充分だろう。去ね(いね)


 バアルはその言葉と共に彼らを振り払うと、彼らの顔も百の手と百の目も消えていった。


 すると、暗闇の中にぼんやりと白い球体が浮び上がる。覗き込むと、体を小さく丸めて眠っているリリーの姿があった。


「リリー、起きてくれ」

 バアルは優しく懇願する。

「怖いの」

 リリーは首を振る。

「もう怖いものはいない。私がもう消した」

 球体の、リリーの顔のそばに手のひらを添える。

「また怖いことが起きるかも」

 まだリリーは首を振る。

「その時は、私が守る。それに、君の大切な親友も君の帰りを待っている」

 その言葉に、殻の中のリリーがうっすらと目を開く。

「エル、デイジー……そして、あなたは?」

 しっかりと開いたローズクォーツの瞳がじっと見つめる。

「バアルだ。我が魔王バアルの名において、お前を全力で守ることを約束する」

 ピシ、と殻にヒビが入る。

「バアル……」

 パリン、と殻が剥がれて、リリーの白い手が片方差し出される。

 その手を取って、バアルはリリーの体を引き寄せ抱きとめる。

「帰ろう、リリー、みなが待ってる」

 リリーがコクリと頷くと、バアルの意識が薄れて行った。


 ◆


 バアルが目を覚まし、主の元にアドラメレクが駆け寄る。


 そして、リリーの瞳もゆっくり開いていく。

「「リリー!」」

 エルとデイジーがリリーの枕元に駆け寄る。

「……エル、デイジー……」

 リリーがうっすらと笑みを浮かべる。


 バアルが立ち上がり、リリーの頭を優しく撫でる。

「おかえり、リリー」

「……バアル……」

 ほのかに頬を赤らめて、リリーが微笑んだ。


 そしてその様子を見て微笑むばば様がいた。


 ◆


 城の門番は、その知らせにほっとした。

「リリー様が目を覚まされた!もう大丈夫だ!」

「「「おお!」」」

 門外が歓声に沸く。

「見舞いの品は、これからのリリー様の回復のためにありがたく受け取らせて貰う!順番だ!押すな!」

 門外は相変わらずわちゃわちゃしていた。

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