56.デイジー
あの悪魔に対峙して数日、デイジー付きの侍女から、ようやく彼女が目を覚ましたと聞いた。オレは彼女の部屋へと走った。
コンコン
部屋のドアをノックする。
「デイジー、起きてる?オレ、フルフル。あの時一緒にいた……」
言いかけた瞬間、デイジーが泣き叫ぶ。
「やめてや!こんといて!アタシはあん時何も出来なかった卑怯モンや!」
そうして、そのあとは、布団の奥でくぐもって泣く彼女の声しか聞こえなかった。
オレは、かける言葉が何も浮かばず、部屋の前で数時間体育座りでそこにいるしか出来なかった。
◆
翌日。
彼女は目覚めたという。
「でも、粥を用意しているのですが……食べて下さらなくて」
心配そうに、デイジー付きの侍女がオレに報告する。
「デイジー、オレ。フルフルだけど。体を壊すから、食事は摂ろうよ」
「……いやや。アタシは何も出来なかった卑怯もんや。なんも食べたくなんかない」
そう言って、再び布団をかぶる衣擦れの音がする。
今日も、出てきてはくれない。
◆
さらに次の日。
扉をノックする。
「……いやや」
それしか口を聞いてくれなかった。
◆
さらに次の日。
見慣れた扉をノックする。
「デイジー、起きてる?」
「……うん」
初めて会話が成立した。
「何してるの?」
「……なぁんも」
「デイジー……」
「もう、話したない」
会話は途切れた。
◆
さらに次の日。
また見慣れた扉をノックする。
「デイジー、オレ。フルフルだけど」
「……入って」
初めて入室を許可される。
ベッドの上にうずくまって、デイジーは、いた。
「……夢ん中でな、トオルが言うんや。『殺して』って。でもな、アタシ動けんのよ」
ふわり、と、一人で呟くデイジーを抱きとめる。
「全部、自分でなんでもしなきゃいけないと思うな。大丈夫だ、アイツなら、ちゃんとリリーが苦しまないよう逝かせてやれただろう?」
デイジーが、ぎゅう、とオレの背中を握り返してくる。
「……そう、かな。苦しまんかった、かな」
ぽつりとデイジーが呟く。
「うん、一瞬だったよ。大丈夫だ」
そう言って、オレはデイジーの背をさする。
「少し、粥でも口に入れよう?」
「……うん」
俺がスプーンに粥をすくって口に寄せると、少しづつ、口をつけるようになった。
◆
次の日も、デイジーはオレを部屋の中に入れてくれた。
「……フルフルぅ」
ぎゅうと俺の胸にしがみついて、その日は、ただ大泣きした。きっと気が済むまで泣きたかったのだろう。
そうして、何かをふっきったように顔を上げ、涙でぐちゃぐちゃの顔でオレに笑いかけた。
「アタシ、部屋出るわ。涙、拭いてーな」
オレはポケットからハンカチを取り出し、涙なんだか鼻水なんだか分からないぐちゃぐちゃの顔を綺麗にした。
この日は、外で自分で粥を食べに出た。
◆
……次の日からは、デイジーは笑って「おはよう」と言ってくれるようになった。
この一週間で、オレの中で彼女は守ってやるべき大切な存在に変わっていた。
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