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55.魔王城にて

 ……リリーは眠り続けている。


「余程心を消耗したのでしょう」

 魔王が呼んでくれた魔族の医師の診断の結果は、体には異常はなく、心の問題であるとの事だった。


 悪魔との対戦の後、リリーは意識を失って魔王の腕の中で倒れた。私やデイジーも、自分で考えて動くことが出来なかった。それだけ、私たちにとって、あの悪魔の所業は衝撃だった。


 そのため、魔王が瞬間移動の魔法で、私たちも一緒に魔王城へ連れて帰り、部屋を宛てがい、休ませてくれたのだ。


 初めに私が二日ほどで目覚め、次にデイジーが目を覚ましたが、その後一週間ほど部屋にこもりきりだった。そして、リリーはまだ目を覚まさない。


 魔王城での滞在は、想像以上に快適なものだった。


 我々が今まで長く魔王領を旅してきて、病める者、怪我に苦しむもの、魔物に困っているものを助けてきたことが、広く魔王領で好意的に受け止められているらしく、この城で世話をしてくれる者たちも皆優しい。


 そして、リリーの眠りのために滞在も長くなっている中で、自然に、手持ちの冒険者服ではなく、私とリリーにはコルセットなく着られるドレスが、そしてデイジーにはワンピースが用意され、ありがたく着用させて貰っていた。


 そんなある日、私は今日もリリーの見舞いをしに行こうと廊下を歩いていた時だった。

「エルミーナさま、こんにちは。今日もリリーさまのお見舞いですか?」

 城の顔見知りの侍女の一人が声をかけてきた。リリーの部屋付きの子だ。


「ああ、まだ眠っているんだろうけれどね」

 それでも、せめて毎日見舞うことで少しでも早く目を覚まして貰えないだろうか。そう思って日参している。


「陛下もとても気にかけておられるようで、今日も先程からお見舞いにいらしてましたよ。……早く目を覚ましてくださるよう、私も微力ながらお世話させていただきますね」

 ぺこりと頭を下げると、侍女は仕事に戻って行った。


 そう。あの日、リリーが眠ってしまって以来、魔王、バアルという名らしいが、彼がよくリリーのことを見舞っていた。リリーの眠る部屋は、彼が持ってくる見舞いの花に溢れている。


 ……今はバアルが見舞い中か。今行くのも野暮というものだろう。


 私は行き先を変えることにした。そう思って、くるりと向きを変えた先。

 するとそこには、こっそり私が心の中で『クジャク男』と呼んでいる男、アドラメレクがいた。いや、だって派手だろう、この格好は……。だが、こんなナリでも、魔王城の宰相なのだそうだ。


「これは、エルミーナさん、行き先変更ですか?」

 彼は優雅な所作で腰を折って一礼をしてみせる。


「リリーのところに見舞いに行こうと思ったんだが、先客がいるようでね。邪魔になりそうだからやめようかと」

 ふむ、とアドラメレクがひと思案して、口を開く。

「ああ、陛下ですか。彼女のことをとても案じておられるようですからね」


 そうだ、と彼は手を打って提案する。

「お時間がおありでしたら、少しあなたの時間を私にいただけませんか?」

「え?」

 彼と私の間になにか話すことがあっただろうか?

「王都で評判の菓子も取り寄せたところですし。ぜひ」



 ピンクローズのバラが咲き乱れる庭を眺めるテラスに、その席は用意されていた。

 ……どちらかといえば、真っ赤なバラを持ってきそうなイメージだけれど……


 私たちが腰を下ろすと、侍女がポットから香りの良い紅茶を注いでくれる。添えられた評判だという菓子は見た目にも美しいものだった。


「どうぞ」

 アドラメレクに勧められて、紅茶を口に含む。

「……美味しい」

 そう言って顔が自然にほころんだ。

「お口にあったようで良かった」

 アドラメレクも嬉しそうに微笑む。


「私達はね、あなた達が魔王城を目指して旅していることを知っていたんですよ」

 その言葉に、私は首を傾げる。

「あなた方に初めて会ったのは、街に悪魔がやってきた時でしょう?」

 アドラメレクは、ゆっくりと首を振る。


「我々には『遠見の水晶』というものがありましてね、領地の中を城からでも見ることができるんです。私たちは、それで、あなたたちに会うよりも前に、あなたたちを見ていたんです。……そして、我が領民を助け労りながら、なんの用で私たちに会おうとしているのか、待っていたんです」


 最初から見られていたことに少し驚きを覚える。その感情を収めるために、紅茶を一口口にする。

「本来は、リリーが目覚めてから話すべきことなのでしょうが……」

 かちゃり、と小さな音を立ててカップをソーサーに乗せる。


「私たちは、いえ、リリーは、『勇者』が『魔王』を倒しに行くという、『不文律』によって行われている戦争を休戦したいと、そう申し入れをする為にここまでやってきました。勿論、私たちの国、ヒルデンブルグの国王にも了解は得ています。リリーは、無益な争いは無くしたいと願っていたのです」

 アドラメレクは、その美しい瞳を軽く見開き、ほう、とひとつ呟いた。


「それは我が国にとっても好ましい提案ですね。我々からの侵略行為は、遠く過去に遡っても記憶にないほどです。我々には侵略の意思はない。むしろ侵略しないでくださるというのであれば、ぜひ国同士の協定を結びたいですよ」


 それにね、と少し砕けた一言の後に、彼が顔を私に寄せる。


「『勇者』に『魔王』が倒されたらどうなると思います?我が国だって人間と同じように国を治め、仕事をしているんです」

 求められる解答がわからず、うーん、と私は唸る。

「宰相である私が、魔王の書類仕事を全部しなければならなくなるんです!大変でしょう!」

 そう言って、彼は、片目を瞑って茶目っ気を見せながら笑いかけてきた。

 私は思わず、小さく吹き出し笑ってしまった。

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駆け出し作家の身ではありますが、すこしでも

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