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54.醜悪すぎる『玩具』②

 悪魔が召喚した『ヘカトンケイル』。そのあまりの醜悪な姿と、変わり果てたかつて同じパーティだったメンバーの姿に、私たちは呆然としていた。


「リ、リー……ご、めん」

「デイ、ジー……俺、を、コロシテ」

「リ、リー……イタいの」

「リ、リー……コロシテ……」


 死を乞う言葉にも、攻撃を下す手が止まったままだ。

 だって、攻撃をしたら、剣で切りつけられたら、魔法で焼かれたら。

 ……それだって彼らを痛め付けるのではないか。何が最良か分からない。頭が動かない。


 抵抗できない私たちに比べ、囚われた人達の心と、出来上がった化け物の行動は別らしく、取り付けられた百もの腕は岩や石、砦のレンガを壊して投げつけてくる。


土の壁(ロックウォール)


 かろうじて、向けられる攻撃だけは、障壁を作って耐えていた。


 そこへ、瞬間移動なのだろうか、突然三人の男性が姿を現した。

「私の国に何を持ち込んだ、悪魔め!」

 銀髪の背の高い男性が、悪魔を睨めつける。


「悪趣味ですねぇ……」

 孔雀の羽を身につけた人物が、眉間に皺を寄せながら、物理障壁を展開する。


「お前たち大丈夫か!」

 金髪の少年が、私たちの無事を確認して回る。


「あれ?なんで魔王達がこんなところに来るんだよ」

「我が国を荒らされているのだ、来てもおかしくはないだろう」

 悪魔は邪魔なものを見る目で、魔王を一瞥する。


「あのさあ。僕はこの子達に用があるの。あのキメラは、僕から大事なものを奪ったあの子達へのプレゼントなんだよ!」

 そう言って悪魔は私たち三人を順に指さしていく。


「どういうことだ、なぜ抵抗しない」

『魔王』と呼ばれた人が、私の両肩を掴む。

「……私たちは彼のお気に入りのキメラを、そうと知らずに倒したんです。そうしたら、彼がアレ、を…… あそこに埋め込まれている四人は、かつて私たちと同じパーティだったメンバーなんです……知り合いなんです!どうしたらいいのか、分からないんです!」

 私の回答に、『魔王』と呼ばれた人が息を飲む。


「教えてあげるよ、彼らがどうやって()()なったのかを!」

 悪魔は愉悦に目をランランとさせて語り始める。


「生きたまま作るんだよ!まずね両腕を落とすの。綺麗になんか切ってあげない。肉切り包丁で何度も何度も打ち付けるんだよ!」

 アハハハハ!と悪魔は高らかに笑う。


「でもね、腕を落としたあとは、しばらく放っておくんだ。皆の腕を落とすまで順番待ち。気絶したら水をかけて叩き起すんだ」

 私たちも、魔王たちもその話の内容の醜悪さに口を抑える。いっそ耳を塞ぎたくなる。


「そうしたら、次のお楽しみ。脳を含めた頭を切り落とすのさ!ああ、ここは手元が狂ったら大事な脳に傷がついちゃうからね、さっさと切ってあげるんだよ。そして、肉塊にパーツをうめこんで行くのさ。ああ、ちゃんと個人の意識が無くならないように、思考回路は温存してやるんだよ。ここが()()()()()!」


「黙れ醜悪な悪魔!地獄の業火(ヘルズファイア)!」

 バアルは、あまりの残酷さに怒りを抑えきれずに悪魔に対して火魔法を放つ。

「そんなもの効かないねえ」

 悪魔が嘲笑う。


細氷の嵐(ダイヤモンドダスト)

 アドラメレクが黙って悪魔に向けて打つ。

「効かないってば」

 アハハ!と笑ってひらりひらりと逃げる悪魔。


 フルフルは、震えてしゃがみこむデイジーを抱きとめる。


 そうやって、皆が悪魔に振り回されている時。


「リ、リー……コロシテ……」

 スノウが美しい顔を苦痛に歪めながら懇願するのが聞こえた。

 私ははっと我に返る。


「リリー、君が無理をしなくていい。目を瞑っていてもいいんだ。私達がいる」

 魔王が優しく私の肩に手を添える。私はその優しい目を見返したあと、そっと目を伏せて、ふるふると首を振る。

「ありがとう、優しい魔王さま」

 彼の手を肩からそっと下ろす。


 目に決意を込めて、私はヘカトンケイルに向き直る。

「……私が、彼らを苦痛から解放する」

 ……私の一番の魔法で、一瞬で解放しよう。こんな所に囚われず、彼らを輪廻の輪の中に返すのだ。


識天使の門(セラフィックゲート)

 私が口にすると、私の背後に白い黄金で飾られた巨大な門が顕現する。そして、その両開きの扉がゆっくりと開いていく。扉の中には直視できないほどの光と熱がこもっているのが見える。


 門が開ききった時、扉からありとあらゆる物を溶かし切る程の光が、一斉にヘカトンケイルへ向かって放たれた。そして、その醜悪な身体を無数に焼き貫いていく。


「「「「……あり、がとう……」」」」

 そう耳に聞こえたような気がしたのは私の願望か。

 数多の熱線に身を貫かれ、悲しき創造物は跡形もなく消えていった。


 そして私は悪魔の方へ向き直る。

「貴方だけは許さない」

 そう宣言して、両腕を彼の方へ差し出す。


「無限にいでよ。火炎弾(ファイアーボール)!」

 私は悪魔を真っ直ぐに睨みつけたまま、命令する。


「ファイアーボールって、そんな初級魔法で僕を倒せると思って……え……なんだよ……なんだよ、その数は!」


 私の背後に浮かび上がる青い炎は無限と見まごうほど。


 デイジー、エル、そして魔王たちも息を飲む。


「行け!地獄の底に落ちるまで焼き尽くせ!」

 私の命令で、無限の火炎弾が悪魔に叩きつけられる。火炎弾が飛んでいけばまたそこに新たな火炎が創造され、火は永遠に尽きることは無い。


「や、やめ……ギャァ!アヅイ!イダイ!」

 悪魔がぶつかってくる炎に踊らされる。衣服が焼かれ、切れ端になり燃え尽き、穴だらけになった翼も徐々にかたちを無くしていく。そして、翼を失い地面にたたきつけられても、まだ身体中を責める火炎は終わらない。


「……あなたに弄ばれた人達はもっと苦しかったはずだわ!」

 私は泣いて叫んだ。もっともっと苦しめばいい、そう願った。


 やがて、永遠の責苦かと思うほどの長い時間は終わり、悪魔はその姿形を残すことも出来ずに消えていった。


「……リリー、もう大丈夫だ。君の力で全部終わったよ」

 未だその場に立ちつくす私に、魔王が私を宥めるように抱きしめ、背を撫でる。

 私はそれに気が緩み、糸が切れるように崩れ落ち、意識を手放した。

下記をどうかお願い致します(。ᵕᴗᵕ。)


駆け出し作家の身ではありますが、すこしでも

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