52.シャーマンの村
なんだか最近、魔王領を旅していると、向こう側から助けを求められることが多くなった。
オークのドグマ然り、話を聞いてみると、どうやらリザードマンは足の速さを特技として、町や村を回って商いをしているものも多く、彼らが行く先々で、病を治してもらったこと、毒に侵された水源を取り戻してくれた事を話して歩いているらしい。
まあ、好意的な話を広めてくれるのはありがたい。私たちの旅がしやすくなるのだから。
そんな旅を続ける中で、ある村に立ち寄った。
住んでいる人達は体の作りは人間そのもの、ただ、なめした皮を簡易に縫い合わせ、腰で紐で結んだ原始的な服装や、腕や顔に色鮮やかに彫られたタトゥー、そして、天然の宝石を原石に近い形で沢山身に飾っているのが個性的だった。
村の入口で、私達は馬をおりて声をかける。相手は腰の曲がったお婆さんだ。
「こんにちは。怪我や病気で苦しんでいる方はいませんか?」
私はいつもの通りに声をかける。
「おやおや。あんたたちが怪我や病気を治して歩いているっていう人間かい?」
お婆さんはニコニコ笑って尋ねてきた。
「はい、それは私たちです。あとは、『勇者』の足跡をおっています」
お婆さんは、私の言葉の後半には複雑そうな顔をした。
……あれ?何か知っている?
「あたし達は、シャーマンって言ってね。魔術を生業としている種族なのさ。だから、今、怪我や病気で苦しんでいるものは村には居ないよ。優しいお嬢さん、ありがとう。でもね、『勇者』については、あんたたちに教えてあげられることがあるよ。ちゃんと話してあげないといけないね。村へお入り」
私たちはお婆さんに誘われて、村におじゃますることになった。
馬は、村を囲う柵に手綱を結ばせてもらった。
お婆さんの家の中に案内されると、中心に鍋を吊るした囲炉裏があった。それを私たち三人とお婆さんで囲むようにして座った。
「お茶でも飲んで話を聞くといい」
そう言って、一人一人に器に入った薬草茶のようなものを配ってくれる。
「どこから話そうかね」
ずずっとお茶をすすって、お婆さんが話を始める。
「ある日、『勇者』達が村に攻撃を仕掛けてきてね。だが、私たちの村は、魔術に強い。村の若者を中心に抵抗して、大事にはならなかったんだけどね。上手くあたしたちを討伐できないことに、勇者がイライラしていた時にね……女の悪魔が来たんだよ。そういえば、あの悪魔はうちの領主だって騙ってたかね。あいつらは嘘つきだからね」
ずずっとお茶を飲んでお婆さんは話を続ける。
「悪魔がね、勇者の持つ剣を、聖剣じゃないと言ったんだよ。そしたら、一行は内輪揉めを始めてしまってね。勇者以外の人間は帰ると言い出してしまった。そこでね、……悪魔の囁きってやつかい?『そのまま味方を帰すのか』と言ったんだ」
それを聞いたエルの顔色が悪くなる。
「まさか」
うん、とお婆さんは一つ頷く。
「そう。味方をみんな殺しちまったのさ」
「……なんてことを」
私たちは何も言葉に出来なかった。
「……残った勇者はどうしたんだ!」
思いついたように、お婆さんに問う。姿勢は前のめりだ。握りしめる拳は震えている。
「悪魔と一緒にどこかへ行ってしまったよ」
がたんと腰を下ろしてエルが再び床に座る。
「……なんということだ」
エルは頭を両手で抱え、呟いた。
一体なんて顛末なんだろう。本当に、『勇者』ってなんなんだろう。人間の『正義』を行使する人ではなかったのだろうか。
「よっこらせ」と声をかけて、お婆さんが腰をあげる。
「死んだ人間は私たちが埋葬したよ。こっちに墓がある。……ついておいで」
私たちは言葉もなくお婆さんのあとをついて歩いた。
村の外れにそれはあった。小さく盛られた土、上に置かれた拳大の石、それが三つ。彼らの生きた証はそれだけだった。
……私たちは何も言えず、ただ、彼らの冥福を祈った。
◆
私たちは、おばあさんにお礼を言うと、馬に乗ってシャーマンの村を後にした。
「……『勇者』ってなんなんだろうな」
あまりの今回の勇者たちの結末に、憂うエル。
「これといった理由もなく、他国へ攻め入り、他国の王を討つ『役割』を持たされた人」
私は感情もなく答える。やっぱりこんなの間違ってるよ。
「……ほんま、誰が作ったんや、このクソルール」
デイジーは、『勇者』を産む存在に怒り心頭だ。
私たちは、魔王城への足取りを早めることにした。馬の腹を蹴り、馬を走らせた。
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