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51.オークの村

 ぽこぽこぽこぽこと石畳の上を歩む馬のひづめの音が続く。

「やっぱりね、魔族だからといって攻めるっていうのが、ますますわからなくなったわ」

 私は、今まで人と同じように知性を持って生活している魔王領の人々を思い返す。


「勇者が生まれたら、魔王を倒しに行くって『お約束』は誰が決めたんだろうな」

 私の言葉にうなづいて、エルは、この旅を始めた時からの疑問を反復する。


「おい、あれ見ろや!」

 道から少し離れた所に、かつて生き物の営みがあった痕跡があった。


 私たちは、そこへ馬を進める。

 そこは、全てが炎で蹂躙された、かつて村だったものだった。

 小さな畑に、かろうじて生き残った花。残された農作業用の小さな鍬や鋤。


「おい、誰かおらんのかいな!」

 ……返事はない。

 何か小さな生き物が生きていたのだろうか、彼らは蹂躙され滅びたか、もしくは村を捨てて逃げ去ったようだった。


 ◆


 私たちは暗い気持ちで、馬の歩を進める。会話はなかった。

 誰もの心にある『勇者』なのだろうか、という問いに心が重い。

 そこへ、行こうとする先から走ってくるオークに声をかけられた。


「おーい!そこの人間!お前ら、俺たちの怪我や病気を治してくれるって奴らか?」

 彼の息は上がっている。それなりの距離を走ってきたのだろう。


「はい!私です。なにかお困り事ですか?」

 私は馬の上から答える。


「この先のオーク村のドグマという。村にいる深い怪我を負った奴が、いよいよヤバそうなんだ!」

「急ぎましょう!乗って!」

 その言葉に、私は彼の手を取って馬の上に彼を引っ張りあげ、彼に私の後ろに乗ってもらい、急いで村へ走った。



 急いで馬を走らせ、村に着いた。

 ボロボロの板で作られた村を示す囲い、藁でできた質素な住まいと、畑。そして狩猟をするのだろうか、一箇所に弓矢や剣、ナイフなどが積み重なっているのが覗いている小屋があった。


 入口には見張り係なのだろうか、二匹の槍を持ったオークがいて、馬をおりた私たちの行先を阻もうとする。

「おい、例の人間だ。通してくれ」

 私たちを連れてきたドグマの方が上役なのだろうか。

「「はい!」」

 素直に見張りの二人は道を開けてくれた。


 私たちはひとつの広い小屋の中に案内される。

「んっ」

 爛れた肉の腐臭がする。コバエが舞い、苦痛に呻く声がする。


 ……そこに寝かされていたのは、両足を切断されたゴブリンの若者だった。息も荒く胸が大きく上下し、切断面は膿んでいる。


「この道沿いに滅ぼされた村があっただろう。そこの村人だ。生きているものだけ、俺たちが連れてきて面倒を見ていた」


 他にも、火傷をおったもの、腕のないもの、背中に酷い切り傷をおったもの、顔も髪も炎で焼かれてしまった者、そんなゴブリン達が沢山横たわっていた。負傷者は、男も女も子供も差はなく、平等に暴力を振るわれていた。


「まずは、彼ですね」

 そう言って、両足のないゴブリンを指し示す。

 ドグマは黙ってうなづいた。


「デイジー、ナイフをちょうだい。エル、ドグマさん、腐った肉を削ぐから、彼の体を抑えていてください!」

「「「わかった」」」

 デイジーが私にナイフを手渡し、エルとドグマで若者が動けないように固定する。


「クリーン」

 まずはナイフを綺麗にする。そして、蛆がわき小バエの舞う腐肉を切っていく。

「あああああ!」

 若者は痛みに暴れようとするが、エルとドグマの力には適わない。そうしてようやく両足分の腐肉を切り捨て終える。

「クリーン」「パーフェクトヒール」

 若者の両足が少しづつ再生する。そして、綺麗な足が二本揃ったのだった。そして、彼は安堵したのか呼吸も穏やかになって眠ってしまった。


「間に合った……ありがとう!他の者も見て貰えるか?」

「勿論です!」


 そうしてその一日は、重症のゴブリンを治すのに費やされ、翌日は、オークの村人の負傷を一軒一軒回って治して歩いた。


 ◆


 二日かけて全ての治療を終え、私はドグマと二人、村の端の草むらに座っていた。


「……『勇者』ですか?」

 私はポツリと彼に疑問をなげかける。

「そうだ。奴らは真っ先に俺らをターゲットにするからな」

『勇者』が来る度に蹂躙されるのだろう。吐き捨てるようにドグマは言う。


「……人間が、ごめんなさい。助けられなかった人も……」

 私の頬を涙が伝う。

「泣くな。お前は我々を助けてくれた。自分の手の内からこぼれるものまで背負おうとして、それが出来ないことを嘆かなくていい」

 ドグマの大きな手が、私の頭の上に優しく乗せられた。

「死んだものは、俺たちが丁寧に埋葬してやったよ。もう、安らかに眠っているさ」


 私たちはもう一晩オーク村でお世話になって、翌朝旅立った。

下記をどうかお願い致します(。ᵕᴗᵕ。)


駆け出し作家の身ではありますが、すこしでも

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