49.魔王さま達は三人娘が気になる
リリーたちが旅する場所からまだ遠く、高い岩山に囲まれたその城の中、魔王城の執務室で、相変わらずバアルが申請書や嘆願書の山を処理……していなかった。
前と違うのは、机の上に置かれた『遠見の水晶』が、元々しまってあった場所にずっとしまわれず、机の上に置かれたままであることである。
そしてもうひとつ、バアルは机に肘をつき、頬杖をついて水晶を眺めている。もう片方の利き手のペンは止まったままだ。
「勇者に食料を奪われた猫獣人に食料を分け与え、犬獣人の怪我を癒し、獣人たちの仲違いを和解させ、毒に侵されたリザードマンを癒し、巨大蛇を退治し、彼らの住処に清浄さを取り戻す……か」
『これでは本物の聖女か英雄ではないか。……それともただのお人好しか?』
バアルは水晶の中の、リザードマン達を献身的に癒して回り、大蛇を倒し、そして池を大規模に浄化するリリーの姿を目で追っていた。慈愛に満ちたリリーの笑顔や、敵に相対する時の真剣な瞳、そして清らかで清浄な雰囲気からどうしても目が離せなかったのだ。
そこへ、華美で妖艶な彼の宰相が現れた。シックさを好むバアルからすると、アドラメレクの姿は、アドラメレク自らが姿見で見て目が痛くならないのだろうかと本気で思うのだが、この色のコントラストは彼のアイデンティティ、彼そのものを表現するものなのである。
「陛下は、随分と人間の娘が気になっておいでのようですね」
アドラメレクは揶揄するようにくつくつと笑う。
そして、ずい、とバアルが水晶を見ている脇から身を乗り出す。
「ほう、この娘ですか。我が主は、なかなかにお目が高い」
赤い唇に大きく弧を描かせ、満更でもなさそうに笑う。
「目が高いとはどういうことだ?」
バアルはアドラメレクの意図を読めずに、揶揄されているととったのか眉間に皺を寄せている。
アドラメレクは、水晶に映るリリーの姿を見て、目を眇める。
「この娘、大人しそうな顔をして、相当な能力持ちですよ。そうですね……回復師、聖女、賢者の全ての要素を持っている」
「は?それは本当か?」
思わず顔を上げて真顔で彼を見る。
「ええ、勿論。それとも陛下は私の【鑑定】の能力をお疑いで?」
おやおや、とアドラメレクは片眉をあげる。
「いや、疑いはしないが。ただ、そんな人間今までにいたか?」
腕を組んで考えるが、彼が何度も相手をしてきた『勇者ご一行さま』の中にも、そんな傑物はいなかった。……だから彼は今生きているのだが。
「いませんね。……いっそのこと、王妃に迎えては?彼女のことお好きでしょう?ずっと水晶で眺めておいでじゃないですか」
アドラメレクは、珍しく真顔になってバアルに問う。
「はぁ!?」
バン、と机を叩くバアルは、自分では気づいていないが赤面している。
『引っ掛け半分でしたけど、これは脈アリ、ですかねえ。……まあ、早く王妃を迎えていただくに越したことはないのですが』
図星なのか、ブツブツと独り言を言い出し自分の世界に入ってしまったバアルを放っておく。
そして、アドラメレクは別のことを考える。水晶を操作し見たい映像へと時間操作する。
アドラメレクが見る水晶には、大蛇を一刀両断にするエルミーナの姿が映っていた。
『私でしたら、こっちのお嬢さんが好みですがね。あの太刀筋、佇まいも美しい。彼女の所作が彼女そのものを表しているようではないですか』
ふふ、と笑って細められる瞳は珍しく優しいものだ。
そこへ、廊下を騒がしく走ってきた侍従長フルフルが、バタバタと執務室へ駆け込んでくる。
「こら、フルフル。陛下の執務室をなんだと思っているんですか」
アドラメレクがパシンとフルフルの後頭部を叩く。
「『遠見の水晶』見せてよー!」
フルフルは、叩かれた後頭部を擦りながら、机の上に置かれた水晶を覗き込みながら操作する。
「おお、ハルバードで首をぶった切り!可愛い顔したちびっ子のくせして、エグいねえ!」
フルフルはといえば、デイジーにご執心のようだ。
『……おやおや、こちらもですか』
今後の起きうるかもしれない変化や、そもそも彼女達がなんのためにやってくるのか。長く飽いた人生の中で、面白いことになってきた、とアドラメレクは笑むのだった。
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