48.リザードマンの町
今日は曇天。どんよりした雲が一面をおおっている。肌を撫でる風は、ジメッとしていて嫌な感じだ。しかし、あたりは相変わらず一面草原なのだが、道が石畳と整備されたものになってきた。
「今日は嫌な天気ね。雨にならないといいけれど」
私は空を見上げて雲の流れていくのを眺める。
「でも道は石で舗装されてそれらしくなってきたな。次は小さな町位は期待できるかな」
そうしたら宿くらいあるだろう、と、エルは次の町?に期待しているようだ。
「確かに歓迎して泊めてくれるのはありがたいんやけど、藁布団のベッドはそろそろ勘弁やなー」
ハーフリングの村なんて、家自体が狭くてぎゅうぎゅうやったし、と、デイジーはカラカラ笑う。
「あれ、町じゃないかなあ」
私が指さす先には、レンガ造りの壁に囲まれた集落があった。
私たちは、のんびりとポコポコひづめの音を響かせる馬を歩ませて、街をめざした。
町の入口に着くと、入口の両脇にはリザードマンの兵士が一人ずつ立っていた。
なんて言うか、まんま緑色のトカゲが鎧兜を着て二本足で立っている。そして、手には槍を持っている。
「人間が我らがリザードマンの町に何用だ」
爬虫類の金色の目が私たちをじろりと睨めつける。
「傷ついたり病める方を癒して旅しています」
私は、兵士からの圧力にはあまり気をとめず、素直に目的を答えた。
「病める者?それには毒も含まれるのか?」
兵士の声音が少し期待を含んだものに変わる。姿勢もなんだか前のめりだ。
「はい、勿論。毒による病で苦しんでいる方がいらっしゃるんですか?」
コクリと首を傾げ、にっこりと笑って見せた。
「ご領主様の坊ちゃんの病が治るかも!」
兵士が顔を見合わせる。そして、揃ってうなづいた。
「おい、人間。案内するから頼まれてくれ!」
そうして私達は、リザードマンの町の領主の館に連れていかれることになった。
連れていかれたのは、木造の小綺麗な館だった。木枠の窓には小さなウィンドウボックスで色とりどりの花も飾られており、今までの村よりもだいぶ生活に余裕があることがうかがえた。
「こちらがご領主様です」
屋敷の客間に通され、屋敷の執事服を着たトカゲに領主を紹介される。
「私は回復師兼賢者のリリーと申します。こちらは、共に旅をしている剣士エルミーナと戦士デイジーです」
三人揃って領主へ頭を下げる。
「おお、回復師殿だけでなく、剣士に戦士達がいらっしゃるとは!」
喜色を浮かべて顔を見合わせる領主と執事。……あれ?用事って治療だけじゃないのかな?
「リリー殿、そして、そのご友人にもお力をお貸し願いたい!」
領主は、テーブルに両手を大きく広げて手を付き、頭を下げた。
「一ヶ月ほど前から、我々が水源にしていた池に、巨大な毒蛇が住みつきまして。蛇自体も我らの天敵なので脅威なのですが、そもそも生活に不可欠な水がその毒蛇の毒によって汚染されてしまったのです。その汚染に気づく前に、我が息子はその水を飲んでしまい、毒に侵されてしまいました。毒が強いのか、毒消し草を煎じて与えても治らないのです」
領主は我が子のことを思ってか、嘆息する。
「ん?それなら、毒で苦しんでいる方は息子さんおひとりでは無いのでは……?」
私が疑問を口にすると、領主は苦い顔でうなづいた。
「はい、街には毒に苦しんでいるものがたくさんおります。遅効性の毒なのか、まだ死者は出てはいないのですが、このままいくと息子を含め多くのものが死んでしまいます」
領主は頭を抱えてしまった。
私はガバッとソファから立ち上がった。
「まずは、毒に侵されている方を全員見て回って回復させましょう。その後、池と毒蛇のことに対処します。ところで、今は飲水の水源は別のところにしているのですよね?」
念の為に、聞いておく。
「勿論です。隣町の井戸を借りて、まとめて水を汲みに行かせています」
なら、被害者が増えることはないだろうと判断し、まずは治療に専念することにした。
最初に、領主の息子が休んでいる部屋へ案内してもらう。
寝ている息子さんは、本来鮮やかな緑色であるべき肌が、うっすら紫がかった色になってしまっている。おそらく全身に毒が回っているのだろう。
「解毒」
私の手から発する光をあてていると、やがて肌の色が本来の色を取り戻していく。
だが、息子さんの表情は苦しそうだ。
「うーん、既に内臓不全とかに進んでしまっているのかしら」
わかる?と、【鑑定】持ちのエルに尋ねてみる。
「うん、その通りだな。色んな内蔵に既に機能不全が起きているようだ。それも治療しないとダメだろうな」
私は、うん、とエルの見立てにうなづく。そうすると、ハイヒールで回復だね。
「ハイヒール」
息子さんの体が光に覆われる。やがて、息は穏やかになり、ゆっくりと瞼が開かれた。
「パパ?」
彼が父親を見て名を呼ぶ。父親である領主は泣きながら息子を抱きしめていた。
……良かった。
執事の話によると、町の病人は多いとの事だったので、私たちは問題を解決するまで、領主の館にお世話になることになった。
それから数日、私は街の兵士に案内してもらいながら、町中を、病人が居ないか一軒残らず尋ねて回り、治療して歩くことになった。
どの家も、半ば皆回復を諦めていたらしく、完全に健康体になった家族を見て、感激して泣き出す者、何度も感謝で頭を下げる者と、町は回復の喜びに沸いていた。
◆
病人の治療を終えた翌日、私たち三人は問題の池に来て悩んでいた。池はどんより紫色をしている。かなり池は広く、奥に行けば深さもありそうだ。
「倒すのはアタシらが首を狩るからいいとして、どうやって池の中からおびき寄せるか、だよなあ」
デイジーはしゃがみこんで、膝に肘を置き、頬に手を添えている。
「町のトカゲ(住人)を囮にするか?」
真面目な顔をしてつぶやくエル。
「いやいや、それダメでしょ!」
それに突っ込む私。
「蛇の好物ってなんやったっけ?」
首を捻るデイジー。
「ネズミとか卵とか……。肉食?」
一般常識を応えてみる私。
「でも巨大蛇なんだろう。もっと食いでのある肉に来るんじゃないか?」
状況判断を入れた考察をするエル。
「せやなあ……」
デイジーがアイテムボックスをごそごそして色々出してきた。
ニワトリの卵、野ウサギの肉、狩ったワイバーンの子供、空で狩った鳥型モンスターなどを並べてみたようだ。
すると、ずるり、と池の中からてらてらと鱗を光らせた、直径四十センチはあろうかという巨大な蛇が三匹出てきて、野ウサギとワイバーン、そして、鳥型モンスターに向けてそれぞれ鎌首を上げた。
「まさかの三匹!」
「行くぞデイジー、リリー!」
ジャンプしてグラムで首を一刀両断にするエル。
ジャンプして、ハルバードの刃で首をすっぱりと斬るデイジー。
「ウインドカッター!」
魔法で最後の一匹の首を切る私。
「……首狩るの手際良くなったよね、私たち」
横たわる蛇の死体を見下ろしながら私は思わず呟いた。
まあ、気を取り直して、池を綺麗にしましょうか。
「広域浄化!」
私は大きく手をかざして浄化魔法を唱える。すると、水は徐々にどんよりした紫色が薄まっていき、透明でキラキラした湖面を取り戻した。
「うん、毒性なし」
エルが【鑑定】のお墨付きをくれる。
私たちは一人一匹のノルマを抱えて領主の館へと戻った。
◆
町について、もう一回。
「広域浄化!」
これで町中の水も綺麗になったでしょう。
「あ!お戻りになられました!」
私たちを見かけた兵士たちが、領主の館に報告に走る。すると、程なくして、領主と執事が私たちの元へやって来た。
「おお!三匹もいたのですか!それにしても見たくありませんね……」
天敵の蛇、しかも巨大蛇を三匹も見せられて、揃ってリザードマン達が顔を顰める。
「じゃあ、これ要らん?」
ブンブンと音が聞こえそうなほど大きく首を降って頷くリザードマンたちである。
「じゃあ、これうちらが貰っとくな」
ぽいぽいぽい、とデイジーが蛇をアイテムボックスにしまい込んだ。
「この度は本当に何から何までありがとうございました。お礼はどのように……」
深く頭を下げてから、領主が尋ねてくる。
「要らんよ、な?」
と、デイジーがにっと私たちに笑いかける。
「だな」
「うん!」
「あ、そうだ。ひとつ教えてください。この辺りで人間の『勇者』を見ましたか?」
私が思い出して慌てて尋ねる。
「いえ、このあたりでは見かけておりませんな」
「「「はい」」」
領主の回答に、執事も兵士も同意する。
リザードマンの町の問題は解決できたけれど、相変わらず『勇者』の手がかりは見つけられなかった。
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