47.犬獣人と猫獣人の諍い
今日も青空。今日は真っ白な雲がぷかぷか浮いている。草原をそよぐ風は、心地よく火照りを消してくれて爽やかだ。
「本当に魔王領にいるのかってくらい平和だよねー」
私がのんびりという。私を乗せる馬もリラックスしているのか、耳も緩やかに横に向け、目を細めてうっとりとした表情をしている。
「魔王領って言うと、暗雲に覆われていつも雷がなっていてとか……そういうのを想像していたが」
そう答えるのはエルだ。
「そんで、空をコウモリやワイバーンがとんでるのな」
うんうん、と頷くデイジー。
のんびりと歩を進めていると、視界の先に影が見えてきた。
「お、村がふたつ見えてきた!」
デイジーが道の向こう側を指さす。
「うーん、犬獣人と猫獣人?喧嘩中なのかなあ」
そのご近所の村の間には、棘の生えた植物を垣根の間にぐるぐると巻き付け、バリケードのようになっていた。そこを境に、犬と猫に人種?で別れて生活しているようだった。
まずは猫獣人の村から訪ねることにした。
「こんにちは。怪我をしている人はいませんか?治療できますよ」
私は馬をおりながら、村の入口付近の青年に声をかけた。
「お前ら人間が何の用だ!またあの勇者のように食料をよこせというのか!」
あーあ、ここでは勇者さまがやらかしているらしい。
「本当にゴメンなさい。ねえ、デイジー、お詫びにおすそ分けできる食料とかないかしら」
怒っている猫獣人の青年に頭を下げながら、横にいるデイジーに尋ねる。
「こないだ空飛んだときに狩った鳥とかワイバーンなら沢山あるぞ」
そう言って、デイジーはアイテムボックスの中をゴソゴソ覗いている。
あ、ヒポグリフ乗ったときのまだ残してあったんだ。
「ワイバーン!」
猫獣人の目がランランと輝き、髭が前のめりになっている。
「代わりにそれで許してくれないかな」
上目遣いで聞いてみる。
「もちろんだ!むしろ奴らに渡したものなんかじゃお釣りが出るさ!ワイバーン肉はうまいんだー!」
デイジーからワイバーンをズシッと受け取ると、ご機嫌である。なんだかしっぽがパタパタしている。
「長老ー!客人だー!」
ワイバーンを抱えあげ、私たちを猫獣人の長老の所へ案内してくれた。
「勇者のかわりに謝罪をしようというお前たちの気持ちは受け取ろう。勇者たちとの諍いで怪我をした者もいるので、怪我を治してやって貰えると助かる」
「ありがとうございます。喜んで治療させていただきます」
私は、長老さんの指示で集められた怪我人を、全て魔法で癒すことに成功した。
「村のみなを癒してくれてありがとう。ところでな、犬獣人の方は構ってやることは無いぞ」
長老がお礼を言ってくれたが、なんだか気になることを言っている。
ん?どういうことだろう?
「犬っころの奴らがな、うちの飛びっきり美人の長老の孫娘をかどわかしたんだ!そんな奴らに施しはいらないだろう、なっ!」
猫獣人の若者が長老のかわりに答えてくれた。
なるほど、バリケードの理由はそういう事かー。
◆
行くなと言われても行くのが人でしょう。私たちは犬獣人の村の入口前にいた。
「こんにちは。怪我をしている人はいませんか?治療できますよ。それから、人間の勇者に物資を奪われたりしませんでしたか?もしそういうことがあれば、お詫びさせてください」
入口のそばにいた犬獣人の青年に尋ねた。
「勇者!アイツら、道案内しろって村のやつに頼んでおいて、終わったら用済みとばかりに切りつけやがったんだ!そいつがいつまでも帰ってこないから、心配になって探しに行ったら、たくさん血を流して倒れていて……」
「私なら治してみせる!その人を見せて、はやく!」
私は青年の服の襟元を掴んで叫んだ。
「おっおう……」
私の勢いに負けた青年は、怪我をしたという犬獣人の家へと案内してくれた。
家へ入ると、うつ伏せに寝て、背中に血だらけの汚れた包帯に巻かれた息の荒い青年と、彼を介抱している奥さんと思われる女性がいた。
「人間を連れてくるなんてなんてことするの!」
奥さんらしき犬獣人が牙をむく。
「デイジー、ナイフ貸して」
私はデイジーにそう頼むと、アイテムボックスからナイフを取り出して手渡してくれる。
「私は怪我の治癒ができます。彼の治療をさせてください」
そう言って、私は利き手と反対の腕の内側をざっくりと切る。切った傷口からとろりと血が流れ、地面に滴る。
「リリー!何してんねん!」
デイジーが私からナイフを取り上げる。
犬獣人たちも突然の私の行為に驚いて目を見張る。
「ヒール」
そう言って私は自分の傷付いた腕に手をかざす。その傷は光に癒され綺麗に消えていった。
「ね、見たでしょう。私は治療ができます。彼を私に治療させてください」
奥さんになるべく優しい声でお願いする。すると……。
「……主人をお願いします」
そう言って場所を開けてくれた。
包帯を外す。怪我は膿んでおり、ウジも湧いている。
「腐っている肉は切り落とします。痛いでしょうけど我慢してください」
そう言って私は再びデイジーからナイフを借りる。
「クリーン」
まずは、私の血で汚れたナイフを清潔にする。
そして、腐食し色の変わってしまった肉を全て削ぎ落としていく。痛いのを耐えているのだろう、犬獣人の体は小刻みに震えている。
「クリーン」「ハイヒール」
私が唱えると、抉れた肉が徐々に埋まり、綺麗に皮膚がよみがえる。そして、その上に体毛が生えてきた。荒かった息も、穏やかなものになった。
「有難うございます!主人はもうダメかと……!」
奥さんが涙を溜めて私に抱きついてくる。
「いいえ、むしろ人間の勇者がごめんなさい。あなたの旦那様に酷い大怪我をさせてしまって……」
「そういえば、猫獣人と揉めているんだって?」
治療の様子を見ていた青年にデイジーが質問する。
「あれは、あっちの村長の孫娘が、うちの村一番の狩り名人の男に色目を使って誑かしたんだ!」
ふんっと鼻息荒く言い捨てた。
◆
「これってさあ……」
諍いの元になったという獣人の男女が住むという家へ向かいながら、私はため息をつく。
「よくあるパターンの話だな、多分」
エルもため息をついて頷く。
「お、あったで!」
小さな木でできた小屋が見えてくる。そして、家の中からは、ぴーぴーと子供の鳴き声が聞こえてくる。
私たちは家のドアをノックして、家主を尋ねた。犬獣人の青年と、猫獣人の娘さん、そして、二人の子供らしい、産まれたばかりの犬獣人の赤ちゃんと猫獣人の赤ちゃんが一人づつ。結局彼らは隣村で見初めあって、異種族恋愛が認められずに駆け落ちしていただけだったのだ。
私たちは村自体が諍いあっている現状を伝えると共に、子供の生まれた今なら、ちゃんとわかって貰えるだろうからと夫婦を説得した。これから子供たちを育てていくにも、村の人達の協力があった方がいいだろう。
子供を含めた四人家族と私たちで村に帰った。そして、それぞれの実家に詫びると共に結婚の許しを乞うていた。孫効果もあったのか、両家とも許しが出ると、いつの間にか村の間のバリケードは外されていた。
両村は、今夜合同で結婚の祝いと孫生誕の祝いをするらしい。
私達も何故かお呼ばれして、祝いの席に加わるのだった。
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