32.少女誘拐事件
宿の部屋で三人で寛いでいた時の事だ。
コンコン、とドアをノックする音がした。
「当宿の支配人でございます。Sランク冒険者様たちとお伺いし、少々お話をさせて頂きたく……」
「構わないよ、入ってくれ」
エルが扉の向こうの声へ答えた。
鍵をかけていなかった扉は、キィ、と音を立てて開く。入ってきた人物は恰幅が良い中年男性だった。
「わたくしめは、当宿の支配人をしております、アーチーと申します」
入ってくるなり、一礼して、膝をつき、私たちに話を続ける。
「この領地では、若い娘ばかりが失踪する事件が続いておりまして……とうとう、先日ご領主様のお嬢様まで失踪されてしまい、ご領主様もお一人しかいないお嬢様を失い非常に嘆いておられます。そして、私の娘もその被害者の一人なのです……」
とても恐縮した態度で、藁をもすがるように顔を上げ、私たちを見上げる。
「この件、どうか高名な冒険者様の皆様で娘たちを救い出していただけないでしょうか。ご領主様に皆様のご滞在を報告し、災いの解決を依頼させて頂きたく……!」
正直、救いを求める目に私は弱い。
「ここに泊まったのも何かの縁かもしれないわ。少しお話を聞いてもいいんじゃない?」
私は、つい口にしてしまった。
「あたしの帰省が先だろ!」
デイジーは足止めが嫌でご立腹だ。
「でもねえ。困っている人を放っといて帰省して、デイジー、君はお父様に『自分は英雄だ』って胸を張れるのかい?」
うっと返答に困るデイジー。
そうして、宿屋の主を仲介に、その地の領主と話をすることになった。
◆
翌日。
私たちは、領主の館へと招かれていた。
「私は、この地を預けられております、レームス・ブレドゥと申します」
そう言って頭を下げるレームス伯爵。
面会室には、そのレームス伯爵、その執事、私たち三人が客間に腰を下ろしていた。
「宿屋の主からお聞き及びかとは思いますが、我領では若い娘の失踪が相次いでおりまして。宿屋の娘も、我が娘も失踪……いえ、かどわかされてしてしまいました。そうですね……歳の頃は十歳から十五、六の少女でしょうか」
「デイジーに囮決定かな」
エルが私たち二人を見比べてそう言う。
「でも囮で捕まったあと、リリーの方がアタシより魔法で器用にやりそう。アタシはひたすら殴って来るぞ」
「殴るくらいは構わないよ、悪党なんだから」
エルはしれっと容赦ないことを言う。
私たち三人はソファから立ち上がった。
「じゃんけんぽん!」
私はグー、デイジーはチョキだった。
「えー!」
デイジーの負けである。
「攫われた女の子が着ていたような街娘の服をお借りできますか」
エルがそう言って、デイジーの背中を押して一歩前へ押し出す。
「では、依頼を受けていただけると……!よろしくお願いします!」
こうして少女の皮を着た怪物……もとい、成人女性の狂戦士が街に放たれることになった。
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