29.リリーの実家訪問
伯父の名前をユリシーズに修正しました。
ある日、お世話になっているご領主様のお宅に、私宛で贈り物が届いた。
贈り主は軍務卿のおじい様で、品物はラベンダーアメジスト色のドレスだった。それと一緒に添えられている手紙は、お爺さまのお屋敷へのお誘いの言葉が記されていた。
「あら、とても素敵なドレスですねリリー様。袖を通してみてはいかがですか?」と、メイドさんに勧められたので、袖を通してみた。
「まぁ。リリー様のために誂えたようにサイズもピッタリですね!」
……お爺さまにお会いする時って、いつも私ローブ姿だったわよね。どうして私のサイズがわかったのかしら?
そんな時、エルが部屋へやってきた。
「入っていいかい?」
「どうぞ」
エルが部屋へ入ってきて、満足気にうなづく。
「よく似合ってるね」
そして、ドレス姿の私を上から下までチェックする。
「うん、サイズもピッタリだ。私の見立ては正しかったようだな」
そう言って、満足気に『うんうん』とうなづいている。
「ちょ、ちょっと待って、なんでエルが私の体のサイズを知っているわけ!?」
「そりゃあ、この間君の身体をしっかり抱きしめたしね。それによく一緒に入浴しているだろう。君の体のサイズは把握済みさ」
そう言うと、エルは私の片方の手を取り、私の体をくるりと回転させて、私の体を抱き寄せる。そして、顎に手まで添えて、くいっと私の顔を上向きにする。
……うん、完全に遊んでいるわ。
「それはロマンス小説の男性のセリフです!」
私は頬が熱くなってしまって、両頬に手を添て包み込む。そして、そのままエルから、ぷいっとそっぽを向いた。
「まあまあ、軍務卿がそのドレスを着た孫娘の姿を見たくてうずうずしているから。彼の奥様もね。お宅にお伺いして、お礼をしてくるといいよ」
そう言って私を解放し、部屋を出ていった。
……そうか、お祖母様もご健在なのね。会いたいな。
私は訪問する日が楽しみになった。
◆
訪問当日。
贈り物のドレスを着た。髪もいつものおさげではなくメイドさんにサイドを編み込みにして結い上げ、残りは下ろし髪にしてもらった。
しばらくすると、あのペンダントに刻まれた家紋のついた馬車がむかえにきてくれて、王都にある屋敷を訪ねた。
「おお、よく来たな。そのドレスもよく似合っている。さあ、中へどうぞ」
案内された部屋には、年配の女性と、三十代くらいの男性が待っていた。
「彼女はエミーリア。アマーリエの母で、君の祖母だよ」
上品にひとつに結い上げられた髪は、私の髪をさらに薄くしたような桜色だ。そして瞳は私と同じくローズクオーツだ。その瞳がすぐに涙で潤んで、私へと両腕が伸ばされた。
そのまま一度抱きしめたあと、解放して私の両頬に手のひらが添えられる。
「まあまあ、やっと会えたわ!顔をよく見せて。ああ、アマーリエの若い頃にそっくりね!」
この家の女性はお祖母様の容姿を引き継いでいるのだろうか、血の繋がりを感じて嬉しい。
「こっちが私の嫡男でユリシーズ。アマーリエの兄で、君の伯父にあたる」
紹介されたのは、短い銀髪に、水色の瞳の細身だがたくましい男性だ。
「初めまして、リリー。父の怪我を治してくれたんだってね。本当にありがとう。父上ってば、あの日、何事も無かったように眼帯もなく自分の足で帰って来たからびっくりしたよ!」
彼は軽く私の指先を取り挨拶する。
「そうなのよ!この人ったら、帰ってきて一言、『やあ!』の一言なんですよ!私や執事は驚いてしまってしばらく口も動かなかったというのに……。ってあらいやだ。立ち話もなんですから、座ってお話しましょう」
お祖母様の気遣いでみなが腰を下ろし、私の生い立ちから今の過ごし方の事や、龍殺しの時の話を聞かれたり、母の昔の話などを色々教えてもらったりした。
楽しい会話であっという間に時間は流れ、夕食までご一緒させて貰った。
そのあと、お爺さまに、ある部屋に案内していただいた。
「アマーリエの部屋を、君用に整えたんだ」
そう言われて入った部屋は、女性らしく小花柄などで彩られた落ち着いたピンクでまとめられた素敵な部屋だった。
「可愛い!とっても素敵です!」
「洋服ダンスにも、数はそう多くはないが、なくて困らない程度には揃えておいたよ」
「見てご覧」と促されてタンスを開くと、柔らかなシフォンや光沢のある生地など、私には縁のなかったようなドレスが揃えられている。
「君がいつでもこの家に来て困らないように揃えた。今はご友人と一緒なのが一番楽だろう。だが、何かあったら、いつでもここへ帰って来なさい。ここは君の家なんだからね」
「お爺さま……ありがとうございます」
深くゆっくり頭を下げ、感謝の意を告げた。
……孤児だった私に帰る家ができた。
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駆け出し作家の身ではありますが、すこしでも
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