28.堕ちた勇者
俺は勇者ユージーン。この国の王に認定された正式な勇者だ。魔王討伐を命じられている。
……が、既に俺は勇者ではない。何故なら、俺を勇者と認めた聖剣カラドボルグに見放されたからだ。融通の効かない聖剣サマは、仲間であるエルミーナを殺そうとした行為を、勇者には相応しくないと判断したらしい。
今俺の手にある剣は、贋作だ。
勇者ではなくなったことを王国に報告なんかできるものか。なぜ資格を失ったのか詰問されるだろうし、何より俺自身が認められない。……俺は誰が認めなくても『特別』なんだ。
そんな中でも俺たちは魔族領の侵攻を続けている。進捗は全くと言っていいほど良くない。
そんなある日、小者の魔物に手を煩わされていると、明らかに存在感の違う『魔族』に出会ってしまったのだ。
その魔族は女だった。黒曜石のように美しく長いストレートの髪。体のラインを意識させる黒のレザースーツ。そう、エルミーナのような。
異なるのは、爛々と輝く黄金色の瞳、背中に生えた蝙蝠の翼と、頭に生えた二本のツノ。
「アナタたちが私の領土を掻き回している『勇者』達ねー。うふふ。逢いに来ちゃったー」
妖艶に大きく弧を描く赤い赤い唇を舌なめずりする。
「お、おい、ユージーン。魔族が出てきちゃったよ!早くその聖剣で倒してくれよ」
魔術師のケルトが慌てて俺の後ろに回る。
「援護はするわ。早くお願い!」
そう言うのは回復師のアリス。
「俺とユージーン、同時に切りかかろう!」
剣士のダンが戦闘開始を促す。
「……わかった」
俺は『聖剣』を、柄から引き抜いた。
「あらあ。それ、聖剣じゃないのねー?」
魔族の女が楽しそうに俺に笑いかける。
「「「なんだって!?」」」
驚きにいっせいに俺を見るケルト、アリス、ダン。
「聖剣はどうしたんだ!」
俺を責めるケルト。
持てない、とは言いたくなかった。皆の前で白状することは出来ない。そもそもそれを認めることなど……
「持てなくなったのよねー。ねえ、『元』勇者サマ」
楽しそうに女魔族が俺に笑いかける。
「だぁってー、とーっても悪い、違うわ。悪魔好みの『気』だわ、アナタ」
女魔族はまたひとつ舌なめずりをする。
「……お、俺は帰る。帰って国に報告する」
「わ、私も帰るわよ!勝てっこないじゃない!」
「おい、どうなってるんだよ、勇者が勇者じゃないって!俺だって帰るよ!」
三人は、勝ち目のない戦いに俺を見捨てて逃げ出す気のようだ。
ズルズルと後ずさりして俺から距離をとっていく。
「ねえ、『元』勇者サマー。あのコ達あのまま帰しちゃって大丈夫ー?」
女魔族が俺に近づいてきて、俺の首に両腕を回す。そして、耳元で囁いた。
「帰しちゃうと……みんなにバレちゃうよ」
俺はつかつかと奴らに歩みよって、ケルトの首を切った。
「きゃあああああ!」
叫ぶ声が甲高く耳障りだったので、次にアリスの首を切った。
「ひ、人殺し!」
そう言って背を向けて逃げ出そうとしたダンを、背中から袈裟斬りにした。
「殺しちゃったねえー、もう後戻り出来ないねえー」
楽しそうに女魔族が俺の背後から抱きついてくる。
「どうせ元々後戻りなんかなかったさ。それと俺はユージーンだ。ジーンと、そう呼べ」
「んふふ。アタシはシトリー。これからもよろしくねージーン」
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