23.リリーの出自
私エルミーナは、明日、国王陛下との面会の予定が取れたという父に命じられ、共に王城へ行くことになった。
その晩、私はリリーに確認したいことがあって、彼女のいる客間を訪れた。
コンコン、とドアをノックする。
「エルミーナだけれど、今、話できる?」
「大丈夫よ、どうぞ」
リリーがにこやかな笑顔でドアを開け、出迎えてくれた。
「リリーに確かめておきたいことがあって」
「うん」
「もし、あのペンダントトップから、身内の方がわかるかもしれないと言ったら、知りたい?」
うーん、とリリーは少し逡巡してから、
「その方にとって私の存在がご迷惑にならないようなら、会いたいわ」
躊躇いがちに、そう答えた。
「ご両親の名前を教えて貰えないかしら」
「父がユンカーで、母がアマーリエよ」
「わかった、ありがとう。夜分にごめんなさいね。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
◆
翌日、侍女に面会用のドレスに着替えさせて貰って、馬車で父と共に王城へ向かった。
小さな面会室。同席したのは、国王陛下、宰相閣下、父、ギルド長と私だ。
陛下と宰相閣下が後からいらっしゃった。私たちは一礼する。
「まあ、硬い席でもない。座るが良い」
陛下の言葉で、円型のテーブルに備え付けられた椅子に、皆が腰掛けた。
「エルミーナ嬢、あの『奈落』から帰還できたそうで、安心したぞ。さすがと言うべきかな?」
「ご心配お掛けしました。仲間がいたからこそ可能なことでした」
私は恐縮して陛下に頭を下げる。
「用件は、ダンジョン踏破に伴う素材買い取りについてと、入手したというエリクサーを王家に献上したいという件と、同行した冒険者のSランク認定についてだったな」
「はい」
宰相閣下の言葉にギルド長が頷く。
「最初の二件については問題なく受け付けることとする。Sランク認定については、その実力を見てみたいと陛下が仰ってな」
「は」
と、ギルド長が頷く。
「あともう一件よろしいか。その冒険者のうち一名が非常に稀有な能力の持ち主で、彼女の保護についてもご相談したく」
父が陛下に進言する。
「稀有、とは?」
今度は父に代わって私が答える。
「回復師、賢者、聖女の三つの才を持っております。四属性の上級魔法を行使可能な上、回復魔法も聖魔法も行使可能です。私本人が使用するところを確認しておりますし、【鑑定】でも確認済みです」
「「なんと!」」
陛下と宰相閣下が驚きの声を上げる。
「宰相、そんな逸材今までにいたか?」
「いえ、存在しないかと……」
「彼女の実力が外に漏れた場合、貴族や教会、他国もこぞって彼女を欲しがるでしょう。欲にまみれた者が彼女を手に入れようと不当な方法で手を出さないとも限りません」
父が懸念している事を陛下たちに告げる。
「他国に攫われて戦争などの手段に悪用されたら大変ですぞ、陛下。我が国の信頼出来る貴族に縁付けて、後ろ盾を持たせた方がよろしいかと」
宰相閣下が陛下に進言する。
「確かに、保護が必要だな。どこか信頼のおける貴族の養女にでもするか……」
陛下が思案げに呟く。
「発言よろしいでしょうか」
私は陛下方に発言の許しを求めた。
「遠慮は要らん、エルミーナ」
陛下が頷く。
「この紙に描いた家紋を見てください。これは彼女が亡くなった両親の形見だと言って身につけているペンダントに彫られていた図を写しました。亡くなった父母の名前も確認しております」
「この家紋は……間違いないなら申し分無い家ですな」
宰相閣下は直ぐにその家がわかったらしい。
「宰相、誰じゃ」
「軍務卿、ニコラウス・ファルケンホルスト閣下です」
「直ちに呼べ」
「は」
宰相閣下は扉の外に控えていた近衛兵に指示を出した。
◆
暫くして、軍務卿が部屋へやってきた。
「陛下、御用と仰せつかり参じました」
「うむ、確認したいことがあってな」
テーブルに置かれた紙を見て、軍務卿が首を傾げる。
「これは我が家の家紋ですな。これが如何しましたか?」
「ユンカーか、アマーリエという名に覚えはありませんか?」
私が尋ねると、すぐに卿が大きく目を見開く。
「ユンカーは知らない。だが、アマーリエは私の行方不明になっている娘の名だ。見つかったのか!」
興奮する卿に、宰相閣下が今までの経緯とアマーリエの遺児のリリーの保護の必要性を説明した。
「そのペンダントはアマーリエが幼い頃に私が与えたものでしょう。おそらく私の孫娘で間違いありません。本人に会わせていただきたい」
そう答えながらも、卿は口元を押え、感情を抑えているようだった。長く行方がわからなかった娘の死と、孫娘の存在が突然わかったのだから。
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