22.エルミーナの想いと、みんなでお風呂
「ふう……」
私、エルミーナは、自宅の居間のソファで伸びていた。公爵令嬢としてはあるまじき姿だ。
「……疲れた」
そう、疲れたのだ。
目を瞑って、『あの時』のことを思い出していた。
『奈落』に落とされて、目を覚ましたのは激痛によるものだった。おかしな方向に折れ曲がった腕、流れ続ける生暖かい血液。このまま動けず死ぬんだ、そう思った。
そんな時、歳若い女性の声がした。
「クリーン」「ハイヒール」
回復魔法の呪文をかけているようだ。
私は神にもすがる思いで彼女に回復を頼んだ。彼女は快く引き受けてくれた。
「クリーン」「ハイヒール」
彼女が私にかざす掌から光が溢れる。痛みが引いていく。光越しに見える彼女の顔は優しさと慈悲に溢れて見えた。私には女神にすら見えた。
そして、もう一人落とされていたデイジー。リリーは、一緒に安全な部屋を出て、彼女を助け出すのを手伝ってくれた。支援のタイミングも的確だった。
リリーとデイジーがいたから、生き抜いてみせる、そう思い続けることが出来た。彼女たちとの旅は、辛くもあり、楽しくもあったのだ。
……まあ、半年もかかるとは思わなかったが。
戻ったら、彼女たちの身柄を守らなければと思った。いつもは煩わしく思う、この貴族の『青い血』も、彼女たちの助けになるのなら利用しようと思う。
リリーは、前のパーティーメンバーのこともあるが、あの万能の力が狙われるだろう。デイジーは、やはり戻ったあと、前のパーティーが絡んで来ないかが気になる。
……彼女たちを守るためには使えるものは全て使おう。
と、そうだ。帰ったらやりたかったことがあったんだ。ふ、と目を開く。
我が家には、父の趣味で作らせた広い浴場があるのだ。ダンジョンに閉じ込められている間、何度入りたいと思ったことか。
そうだ、二人を誘ってはいろう。二人とも女の子だ。入浴は好きに違いない。
私はソファから立ち上がって、二人を誘いに行った。
◆
「ふわぁ〜天国にいるみたぁい」
リリーが大きな浴槽に浸かりながら、風呂の囲いの部分に両肘を組んで乗せ、腕に片方のほっぺたを乗せて寛いでいる。頬から耳、うなじにかけて火照って赤く染っている。
「これだけ広いと泳げそうやわ!」
と、ぱしゃぱしゃ泳ぎ出すのはデイジー。
まあなにか用途を間違っている子がいるが、楽しんでくれているからいいだろう、と私ものんびりと湯に浸かる。
と、その時、リリーの首元にネックレスがかけてあるのに目に付いた。
「お風呂に入る時もつけているの?」
なんとなく気になったので尋ねてみた。
「うん、これ、中に亡くなった父母の絵姿が入っているんだけど、造りがしっかりしてて水も入らないのよ。だから、寝る時も、身を清める時もずっとつけているの」
しまった、と思った。迂闊だった。
「あ……悲しいことを話させてしまったな。気にしたならごめん」
「ううん、大丈夫」
リリーは気にしていないようで、にっこり笑う。
リリーは首からネックレスを外し、私にみせてくれる。金属のペンダントトップの表面にはどこかで見たような紋章が浮き彫りになっていた。
「これが私のお母さんとお父さん」
中を開くと、中には若い男女の絵姿が二枚入っていた。
「二人とも冒険者をしていたんだけれど、死んでしまって。他に親戚付き合いもなかったから、私は六歳で孤児院に預けられたの」
思い出しているのか、しんみりとリリーが呟く。
そこで、ざばーん!
とデイジーが立ち上がった。
「じゃあ、私がリリーさんのねーちゃんになったるわ!」
「……デイジー、君じゃどう見ても妹だろう」
そう言って、私は手を伸ばして未発達のデイジーの幼い胸をトントンとつつく。
「エル!何すんねん!これでも私は十八歳なんやからな!」
「私は十五歳だから、確かにお姉ちゃんだね」
リリーが私たちのやり取りにくすくす笑っている。
仕返し!とばかりに今度はデイジーが私の胸を手のひらで覆い、ムム……と呟く。
「そういうエルさんはいくつやねん」
「十七歳」
私はデイジーの手を外させながら素っ気なく答える。
「大人っぽいなあ」
と、リリーがやっぱり私の胸をチラチラ見ながら呟いていた。
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