あなただけを見つめる
「ヒマワリは、美しくなるな」
そう言って私の頭を撫でてくれる彼は、人では無い。
いつもは狼の姿をしている彼は私が熱を出して寝込んでいると部屋に入る為に人間の姿になる。
美しく微笑む彼に、小さな私は恋をした。
その恋は、枯れる事無く花開き続け
私は18歳になった。
「「『18歳おめでとう、ヒマワリ』」」
「ありがとう、皆」
今日は私の誕生日。
私には双子の兄が居るのだが、仕事が忙しく帰って来られなかった事が残念だ。
明日からクラークさんの所に空いている家が有るので、其方に住み込みで働く事が決定している。
精霊の結界が有るのでとても安全らしい。
クラークさんはもう一人の父の様な存在だ。
いつも大図書館に通っては話を聞いて貰っていた。その内に、本が好きになった。
家族とは近いが毎日の様に会う事は無くなるだろう。
「あ~ヒマワリも18歳…ここに居てくれるのは今日までなのね。リンドウはお仕事だもの残念だけど…こんなに大きくなって、ママ嬉しい!」
「ヒマワリ、今日のケーキはアレンも作ったんだぞ」
「本当!?アレン、ケーキ作れるの!?」
『少しやってみたくてのぅ、後のお楽しみじゃ』
「わーー楽しみっ!」
「よしっ、ヒマワリ。18歳の抱負は?」
来た。母から毎年聞かれるこの言葉。
私はこれを待っていたのだ。
「今年の抱負はアレンに振り向いて貰う事よ」
「「『へ?』」」
「アレンの事が好きなの」
『ヒマワリ…お主…』
「ずっと変わらなかった。アレン、私をお嫁さんにして?」
シン……といつもは賑やかな家が、一瞬静まった。
「ヒマワリ…、本気なのね?」
「ええ。本気よ」
『出来ない』
「アレン?」
『お主と契る事は、出来ない』
「……どうして?」
『我とお主では時間の長さが違うのだ』
「そんな事、知っているわ」
『分かっていない!!』
ビクッと肩を震わせた。彼が大きい声を出す事は中々無い。
まして、怒った所など初めて見る。
『……考え直すのだな』
「アレンの嘘つき!考えてくれるって言ったわ!」
怒られた事も、突っぱねられた事も悲しかった。
その場に居てる事が辛くて堪らなくて、走った。
闇雲に走ると、近くの湖に来ていた。
ここは私のお気に入りの場所。
何度も兄と彼と遊んだ思い出の場所。
悲しくなった時や悩んだ時に来る場所だ。
いつも綺麗な水面を眺めながら溜息をつく。
「あ~あ、やっちゃった……」
意識をし出した10歳の頃から、ずっとアレンだけを見てきた。
アレンより素敵な人なんて居なかった。
それに………
『ヒマワリ』
「…アレン」
『帰ろう。皆待っておるぞ』
「もう少し、ここに居るわ」
『…大きな声を出して悪かったの』
私がここに居ると言うと、アレンは腰を下ろした。
「…我儘じゃないの。本気なの」
本当にアレンが好きだ。
ちゃんとこの歳になる迄考え、悩んで来た。
カレン様やアンズ様にも相談をした。
沢山の精霊達にも人と精霊の婚姻の話を聞いて回った。
諦める、なんてしたくなかった。
今にも泣きそうだから膝を抱え、顔を隠した。
『考え無かった訳では無い。8年は人間にとっては長い。忘れていると思っておったがな』
「一秒だって忘れた事なんて無かったわ…。私、大人になったのよ。選ぼうと思えば、選べたけれどアレン以外考えられない」
『…分からぬ。どうして、我が良いのだ?』
「好きだからよ。他に理由なんて無い。
それに、私ねアレンに家族が出来れば良いなと思っているの」
『家族?』
「私達は寿命が貴方達より短い。
だけど、私とアレンの子どもだったら?
アレンと私達よりも永い時間を共有出来る。
私、沢山子どもを産むわ。アレンの為に」
涙をグッと堪え、顔を上げて真っ直ぐにアレンを見つめる。
アレンはとてもびっくりした顔をした。
すると、光と共に身体がフッと浮き上がった。
「それは良いのぅ!ほんに、お主は面白い」
いきなり人間の姿になったアレンは私を抱き上げて、家に向かって滑る様に走った。
私は驚きと、抱き締められている事実に頭がついて行かず振り落とされ無いように必死にしがみつく。
「帰ったぞ!」
「おかえり!って、何で人間の姿に?しかも何でお姫様抱っこ???」
お母様が不思議そうに聞いてくるが、私も知りたい。
「我はヒマワリと夫婦になるぞ」
「「「はい?」」」
「ど、どういう事だアレン」
「そのままの意味だが?」
麗しい顔でキョトンとしているが、私もびっくりだ。
「ヒマワリは我の子どもを産んでくれるらしいのでな」
そう言ってアレンは私を下ろしてくれた。
「こ、子ども!??」
いつもは冷静なお父様が今にも倒れそうだ。
「…アレン、ヒマワリを宜しくね!」
「お母様…」
「何となくこうなる気がしていたの。
ゲイル、ヒマワリは18歳よ?もう十分素敵なレディだわ。アレンなら安心でしょ?」
「…そうだが」
「ヒマワリ、私達の事は気にしないで。幸せになるのよ」
「ありがとう、お母様」
「マリー、心配するで無いぞ」
「うん、私もそろそろアレン離れするわっ」
「はははっ、お主らはほんに似ておるの」
「アレン、ヒマワリを宜しく頼む」
「所で、アレンは人間の姿のままなの?」
「ああ。一応、こちらが本来の姿だ」
「え!?」
「狼の姿の方が色々と都合が良かったのでな。随分と其方に慣れてしまっていた。
それに、ヒマワリは此方の方が良いようなのでな」
アレンはそう言うと私に微笑みかける。
ボンッと湯気を立てて顔を赤くすると、皆が笑顔になる。
何だか少し悔しいけれど、とても嬉しかった。




