紡がれる
「ゲイル、アレンは?」
あれから、とりあえず私達は元気にはなった。
フリをしている。
「あぁ、散歩に行くと行っていたぞ。
俺達も今日は休みだ、何処か行くか?」
「そうだね!天気も良いし、ピクニックしよう!」
「ピクニック?」
「ちょっとだけ冒険して、ご飯をお外で食べるの!」
「成程。良いな」
そういえば、森の湖の先に小さな滝が有るとゲイルが言うので、そこに向かう事にした。
多少歩いたが、ピクニックはお腹を空かせるのが醍醐味。
着いたそこは空気が澄んでいて、何だか少し清々しい気分になる。
滝のマイナスイオン効果、侮れない。
2人でお喋りしながら滝を眺めご飯を食べる。
「滝ってずっと見てられるね…」
「そうだな…」
「ねぇ、ゲイル。私ね思ったんだ」
「ん?」
「やっぱりね、私アレンとも一緒に居たい…。
だって、家族だもの」
「俺もそう思っていた。
アレンは俺をずっと支えてくれた、唯一無二の家族だ。これからも一緒に暮らして行くものだと勝手に思い込んでいた」
「私達の我儘かもしれないけれど、選ぶのはアレンだよね。
ちゃんと伝えて、アレンに選んで貰おう。それで、アレンが今から離れたいって言うなら止めないでおこうね」
「…そうだな。今生の別れは辛いものだ、今か後かの話だしな」
「そうだね…なんか考え過ぎて気分悪くなって来ちゃった…」
「大丈夫か?今日は一先ず帰ろう」
「うん、ありがとう」
2人で外に出たのは良いものの、解決する様な事では無くアレンに託すしか無かった。
私達には何百年と永く"生きる"という事を知ることは出来ない。
アレンの傍にずっと居る事は出来ないのだ。
家でゆっくりアレンを待った。
しかし、今日に限ってアレンはいつまで経っても帰って来ない。
おかしい、と思ったがゲイルも1日2日空けることくらい有ると言っていたので精霊にも色々有るのだろうとその日は眠った。
そのまま、1週間程経った。
流石におかしいと思い色んな精霊さん達に話を聞いたが、誰も『知らない』と言う。
でも、クラークさんだけは少しだけ戸惑った顔をしていた。
何が起きているのか分からなくて2人でアレンを探した。
でも、何処に行ってもアレンは居ない。
家に帰っても、いつもの定位置は空いたまま
大きいアレンが居ないと、途端にガランとしている様に感じてしまう。
「ただいま」
「おかえり、ゲイル。どうだった?」
「アンバート家にも寄ってないらしい」
「そっか…」
「とりあえず、ご飯にしよう?大丈夫だったか?」
今日はゲイルが仕事の帰りにアンバート家にアレンが来ていないか確かめに行ってくれた。
私は体調を完全に崩してしまい、お家でお留守番をしていた。
「うん!今日は調子良いよ!
あんまり落ち込んでるとアレンに申し訳無いしねっ」
「そうだな」
「今日はね、トマトのリゾットでーす」
「お、それは美味しそうだ」
夫婦になってからというもの、先に帰って来たりお休みの方がご飯を作っている。
最近は引き籠っているので、専ら私だ。
ゲイルも私も極力明るくは振舞っているが、アレンの定位置を何度も確認してしまう。
「マリーどうした!?」
ご飯を食べていると、ゲイルが急に驚いた様に立ち上がった。
ズンズンと此方に来て、私を膝の上に乗せた。
「え?」
「え?じゃない。
まさか、気付いていないのか…?」
ゲイルはそう言うと私の頬を手で拭った。
「あ…気付いて無かった」
そう言ったが、言われた事で気付いてしまったので目を擦ろうとしたらゲイルに首を振られ、止められる。
「…ゲイル、私……もっとアレンに"大好き"だって言えば良かった。
もっと、もっとありがとうって言えば良かった」
此方に来て支えてくれた恩人の1人だ。
そして、いつも温かく私達を導いてくれた。
まだまだ、恩返しらしい恩返しも出来ていない。
はらはらと涙を流す私に、ゲイルはおでこをコツンとぶつけた。
「アレンの事だ、きっとそのうちひょっこり帰って来るさ」
「そう……、だよね」
ゲイルの方が小さい頃から傍に居て辛い筈なのに私を優しく抱き締め、背中をトントンと叩いてくれた。
『帰ったぞ』
玄関から聞こえた声に、幻聴かと思い2人でバッとそちらを向いた。
『ん?どうした、涙なんか流して』
アレンは帰って来たかと思うと、私達を見てきょとんとしている。
「アレンっ!」
私は走ってアレンに飛び付いた。
『ととと…これ、走るでない。
なんじゃ、悲しい事でもあったかえ?』
「…アレンの帰りを待って居たんだ」
『我の?…なんじゃい、ゲイルまで』
ゲイルまで私と同じ様にアレンを抱き締めるものだから、アレンは耐え切れずクツクツと笑い出す。
『…そういえば、伝え忘れとったかの?ちょいと遠方に用事があったのでな』
「もうっ!言ってないよ!もう……帰って来てくれないのかと思った……」
『悪かった、悪かった。そう泣くでない』
「私ね…アレンの事大好きだよ…。
ずっと傍に居てくれるものだと勝手に思っていたの。
アレンは自由なのに…」
「俺もだ。今までの様にアレンは俺達を見守り続けてくれると勝手に思っていた。
だが、アレンにさよならも言わないままは嫌だった」
『…成程な』
「ねぇ、アレン。離れる時は言ってね?
その時はちゃんと受け止めるから」
「それ迄は俺達の傍に居てくれ」
『…2人とも、ちょいと離れて手を出せ』
アレンは私達をグイッと鼻で押して並べると、差し出した手の上にフッと息をかけた。
何かがコロン、と手の中に居る。
私には蒼色の石、ゲイルには紅色の石だ。
「これは?」
『…双子石と呼ばれるものでの。そいつを探していた。
我は、まだここに居るぞ。
面白いものが見られるのでな…』
アレンはそう言うと、私のお腹に頬擦りした。
 




