72
季節が明け、ゲイルは学校の先生になった。
バタバタと忙しい日々を過ごしている。
ゲイルが一緒に行けない為、私は花市をアレンと共に行っている。相変わらずどちらも心配性だ、指輪有るのに。
なんとアレンは、人間体になれるらしくそれはもう麗しい見た目だ。
なる必要が無かった為に、なれる事をすっかり忘れていたらしい。
ラン様の所には2週に1度通い、自分の店を開店する際には仲介してくれる事になった。心強い味方だ。
今ではラン様のお友達の貴族の方何人かのご紹介をして貰い、ラン様と共にその方々の所にも行っている。
勿論、紹介料は渡した。ちゃっかりしている。
カレンはいよいよ、もうすぐ闇の最高位精霊が帰って来る時の為に備えているらしく、暫く会えて居ない。
婚約者もカレンの誕生日の日に教えて貰えるらしいが未だに難航しているという。
リラは次の漫画本を出す為に執筆活動に勤しんでいる。
偶に遊びに来ては絵を見せてくれる。この為に頑張った、と言っていた絵は少年漫画向けのダイナミックにして繊細な絵柄で如何にもリラらしい。
「どうした、マリー。考え事かの?」
「あ、ごめんね。次のお客様はいつかな?」
人間体のアレンだが口調は変わらない。人に見えるようにしている為に、声も普通に耳で聞こえる。不思議だ。
今日はゆったりめらしく、次のお客様迄少し時間が有る。
「幸せか?」
「え!ど、どうしたの急に」
「マリーは幸せなのか気になったまでよ。次の季節でこちらへ来て1年になるじゃろ?」
「うん、とってもとっても幸せ。ゲイルと恋人同士になれて嬉しい。…だからこそ、2人の関係がこのままで良いのかなって思ってる」
ゲイルとの関係は変わらず、とても良好だ。
本当に柔らかくなったが、私や周りの親しい人以外には自然と前のままである。
それが何だか特別感が有って、とても嬉しい。
カレンには貴女と話す時は私達とも違う顔をしてるわよ、と言われているが。
そして、甘やかしが続いている。
あれ以来、実は唇にはキスをされていない事くらいだ。
頬やおでこが多い。それも恥ずかしがってしまう私のせいな気がする。
ゲイルが旦那様で不満な事なんて無い。
ただ、とても不安なのだ。
自分でも良いのか、本当にゲイルと結婚して良いのか。
喧嘩なんてした事が無い。ゲイルはとても優しい。私もそんなに気性が荒い訳では無いと思うが、ゲイルは色々と完璧なのだ。
自分より似合う人なんて沢山居る。
「マリーはあれじゃな、怖いんじゃな」
「怖い?」
「ゲイルに捨てられるのが」
「そ、そんな事!!
…………有るかも。
私、捨てられたくないから我儘言ってるのかな…?大好きだから…、本当に好きだから不安なの」
「当たり前の感情じゃな。恋とは不安が付き物よ」
「そっか、これは当たり前なのか…」
「人間は誰しも1人では生きていけぬ。誰かに甘え、甘えられて助け合う事でここまで来ているのだろうて」
「ゲイルに甘えられた事無いよ?」
「いや、あれはあれで相当甘えておるぞ?お主を甘やかす事でな」
「え、そこなの?」
アレンが麗しい顔で、でも狼の時を連想させる笑顔でクツクツと笑う。
何だか少し軽くなった気がして、アレンの冗談が可笑しくてクスクス笑っていると次のお客様が来た。
花市が終わり、終わる時間が大体同じなので一緒に帰ろうと思いミレーヌの学園の前でアレンとゲイルを待つ事にした。
暫くすると女生徒に囲まれたゲイルが見えた。
「(あ~、そりゃそうだよね。私も学生の時にあんな素敵な先生が居たら話しかけたかったかも)」
そう思いながら、目立ちたく無いので門の外で待つ。王城でも囲まれると言っていたな、そういえば。
ゲイルは真顔である。目が死んでる。
こちらを向いたので手を上げると、ゲイルはフワッと笑って周りの女生徒に断りを入れ小走りで駆け寄って来た。
女生徒達が唖然とその笑顔見てたよ、少し可哀想だ。
でも、何だか恥ずかしくて顔が赤くなってしまった。
些細な事だが、やはり特別感を感じてしまう。
「マリー、来てくれたのか?」
「う、うん。一緒に帰りたくて」
「アレンもマリーをありがとう」
『良いぞ』
狼に戻っていたアレンにもお礼を言って、ゲイルは私の手を取る。
「げ、ゲイル!まだ皆さん見てるからっ」
小声で抗議すると、ゲイルはニヤリと笑い人差し指を自分の口元に当てた。
ちょっと、何。
新たな顔見せないで。推し、神かよ。




