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「マリー、今日は本当にすまない…」
今日はゲイルとアンバート家に泊まる事になってしまったのだが
何故かあの後、2人してファミーユ様に「婚約者なんだからねっ!仲を深めていらっしゃい♡」と庭に放り出された。
しょうがなくガゼボまで歩いて行き、美しい侯爵家のお庭を楽しむ事にした。
仮初とは…
からの、ゲイルの謝罪だ。
「いや、ゲイルは全然悪くないし…。
寧ろ私がごめんね?
何か色々キャパオーバーだよ…」
「キャパオーバー?」
「自分の許容範囲を超えてる」
「なるほど…」
「何だか凄い事になっちゃったね…」
「そうだな。
だが、正直マリーに婚約者役をして貰えて助かった」
「ん?」
「王城に行くと、それはもう…人に囲まれるのだが、今日は何も無かった」
「あ~。確かにお嬢様方からの視線が痛かったかも?」
緊張して余り気付いていなかったが、見られていたような気がする。
整った容姿。
英雄エディと国を守った人物として名は知られ、おまけに性格も良い。
懸想しても仕方がない。
そう思うと、チリっと胸が痛んだ。
胸を押さえてカレンとエディの時のようなモヤモヤでは無い
もっと黒い感情が巣食っている事に驚く。
「俺は元々貴族も向いていない。あのような者達と共に生活は出来ない。
その点、マリーは一緒に住んでいても心が落ち着くんだ」
「んぐっ…!」
クリティカルヒットだ。
嬉しい気持ちと、申し訳ない気持ちが綯い交ぜになっていく。
先程のモヤモヤが何処かに行って少しホッとしたが、今日は灰になれる気がする。
「…大丈夫か?」
「だ、大丈夫!ありがとう!」
無意識下で言われている事は分かっているのだ。
「マリーと一緒に居て、色々これからの事を考えたんだ」
「そうなの?」
「まだ何も決まっていないので、言えないがマリーにも見ていて欲しい」
「分かった。その時になったら教えてね」
「あぁ」
最後はほんわかした気分になり、2人で暫くお庭を眺めてから戻る。
皆で食事をして、お風呂へ入れられて
用意して貰っていた部屋へ案内された。
「すごいな…」
今日一日で本当に爆発しなかった事が奇跡のようだ。
寝間着のシルクの滑らかさがヤバい
こんな豪華な部屋で初めて寝る
おかげで、語彙力まで何処かに飛んで行ってしまっていた。
「~~ーーーーっ!!」
気丈に振舞っていたが、ゲイルの諸々を思い出して誰も見ていない事を良い事に
ベッドにゴロゴロ転がりながら悶えた。
エスコートされた時の手の温もりとか、あんまり笑わない人の微笑みとか、私の為に怒ってくれた事とか……
何より、仮初だが婚約者になってしまった。
推しと婚約だ。
仮初で本当に良かった…。
私なんかじゃ釣り合う気がしない。
あんな素敵な人と添い遂げる人は幸せだろうな…
そう考えると
またあの黒い感情が湧き上がってくる
「…」
ズキズキ痛む、これはなんなんだろう
と思う程、私は子どもでは無い
そう、嫉妬だ
私はゲイルの未来のお相手に嫉妬している
こんな感情は芽生えてはいけない
1年頑張れるのだろうか…と少々不安である