第七話 『回想 ――罰――』
「あなたに『あれ』の面倒を看てもらいましょう」
笑顔で『いいこと』の説明を始めるエルビナ。
「報告によれば『あれ』は、話し相手ができて嬉しいのか、この短期間であなたに随分懐いているようですね?」
――狼狽える。
「『あれ』も年頃で、外の世界に興味を持ち始めたのか、自分の部屋を抜け出して、地下を散策するようになりましたし……」
(この人はさっきから、何を言ってるんだ?)
「『穢れ』がうつるといけないので、『あれ』の世話ができる者もほとんどいません」
――『あれ』については想像がつく、地下牢にいた『ダークエルフの少女』のことだろう。
「あなたを釈放する際、『あれ』を一緒に連れていく。これを聖域に侵入した、あなたへの『罰』としましょう」
沸々と怒りがこみ上げる。
(『あれ』? 『穢れ』? 『ダークエルフ』ってのは、ずいぶん嫌われてるんだな)
怒りを表面に出さないよう気を付ける。自分が子供の自覚はある。それでも感情のまま喚き散らしても無駄なことがあることくらいは知っている。
(それが『この世界』の常識なのか、宗教上の理由なのかは知らないし、納得する気もないが……)
――少女のことを思い出す。
よく笑い、よく話し、よく動き回る、見た目以上に幼さを感じさせる少女。
牢屋に入れられてから数日の付き合いでしかないが、目の前の女性のように忌避すべき存在だとは思えない。
(……いいじゃないか。『可愛い女の子と旅をする』なんて異世界の醍醐味だろう?)
それが釈放の条件だというなら、断る理由はない。
深呼吸をする。吐く息とともに怒りを吐き出すように――。
「わかりました。その『罰』、謹んでお受けします」
「引き受けてくれて感謝します。それでは旅の準備は、こちらでさせていただきます。少々時間が掛かると思いますので、客間を用意させますので、しばらくはそちらでお休みください」
心底嬉しそうに、そんな提案を出してくる。
「……『罪人』から『客人』に格上げですか?」
これぐらいは許されるだろう。せめてもの皮肉をこめて言う。
「ええ、貴方に感謝を込めて……」
手を組み、こちらに笑顔を向けてくる。
(――『これで会話は終わり』――ということか)
「……」
小剣を手に無言で退室する。
部屋の外で待機していた兵士が客間へ案内してくれるようだ。
(……なるほど。これが『この世界』の現状の一端なんだな。)
――今に至るまでの『いろいろ』なことを思い出しながら、足りない頭を使って『今後』について考えを巡らせることにした。




