第六話 『回想 ――事情聴取――』
「それでは聴取の確認をします」
あれから約三十分が経過した。たった三十分である。
彼女『エルビナ』は、笑顔のまま困った顔をするという微妙な表情で続ける。
「名前は『ナナ』」
(……偽名です)
「種族は『ドワーフ』」
(……そちらが勝手に勘違いしてるだけです)
「年齢は『十六歳』」
(……本当です)
「出生地は……『覚えていない』」
(……少なくとも『この世界』ではありません)
「侵入した理由は……『神樹を近くで見たかったから』」
(……大体合ってます)
「侵入した方法は…………はぁ、『気が付いたら神樹の前にいた』ですか」
(……真実です)
溜息を吐きながら、聴取の内容を記した羊皮紙に再度視線を落とす。
「一番聞きたかった侵入した方法に、『嘘』は無いのですね……」
(あれ? バレてる?)
領主や代表をやっているだけあって、『人の嘘』に敏感なのかもしれない。
エルビナが、ジっとこちらを見つめてくる。
(そんなに見られても、もう何もありませんよ)
自分の風貌を思い出す。
黒髪黒目、中肉中背、服装は黒のシャツに黒のズボン、靴まで黒で統一されている。
(ただ黒が好きなだけで普段着なんだが、この状況だと印象は悪いか?)
――顔は普通、少なくとも不細工ではない……はず、と余計な事まで考え始めると、
「まぁいいでしょう。今回の件は、『子供がヤンチャをして、奇跡的に上手くいった』ということにしておきましょう」
(え? いいの?)
「もちろん、よくはありませんが、他に説明のしようがありませんし……」
俺の表情を読んだのだろう、エルビナがそう答える。
「それと『これ』もあなたに返しておきましょう」
――そう言って、一振りの『小剣』が円卓の上を滑って俺の前で止まる。
「報告によれば、この剣からは魔力反応も魔力を使用した痕跡も確認されませんでした。しかも紙一枚切れない『ナマクラ』、護身用にしても、もう少しマトモな物を持ったほうがいいでしょう」
(忘れてた……、これがないと『依頼』が達成できないんだった)
「それと近日中に、あなたを釈放とします」
小剣を手に取りながら、安堵しつつも別のことに意識が傾く。
「不満、いえ、困惑しているようですね?」
――人の心読みすぎだろうこの人!
「はい、まぁ、その……、いくら子供とはいえ、聖域に侵入した奴を、なんの罰も与えなくていいのかな、と」
「罰してほしいのですか?」
――ブンブンブン――全力で首を横に振る。
「それでは、そうですねぇ……」
何かを思案する領主様。
「いいことを思いつきました!」
満面の笑顔の領主様。
(古今東西、『いいことを思いついた』と言って、良かった例はない)
「あなたに罰を与えましょう‼」
――これぞ天啓‼――と言わんばかりの領主様。
――『余計なことは言うもんじゃないな』と心から思いました。