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魔王育成計画  作者: 千
3/17

第三話 『リア』

「……遅い」


 抑揚のない声。感情の読み取れない無表情で、こちらを見る女性。

 

「遅くなり申し訳ありません。師しょ……っ⁉」


 ――スコンっ――軽やかな音とともに、足元に短剣が刺さる。


「師匠はやめて……と、言ったはずだけど?」

 変わらぬ無表情で、腰に差していた二本のうち一本を投げつける。

 背筋に冷たいものを感じながら、平静を装う。

「そう言われましても、これだけ面倒を見てもらってますから、相応の敬意をですね……」


「『リア』」


「……」


 ――彼女と出会ってから数日間。毎日のように繰り返すやり取り。

 彼女の主張としては、


『パーティーを組むのだから、名前で呼べ、敬語も禁止』


 なのだが、こちらとしては、アルと一緒に魔物に襲われているところ――アルは楽しそうに笑っていたが――を助けてくれた命の恩人であり、その後も、野営の仕方や食料の調達方法など、冒険者としての技術を教えてくれている先生でもある。『一級冒険者』である彼女が、どうしてここまで面倒を見てくれるのか訊ねてみたら……、


『……旅の知識も技術もない子供をほっとけない』


 根がいい人なのだろう。ただ淡々と、当たり前のことのようにそう言った。

 あの時の、感謝の気持ちを思い出しながら、今の現状に意識を戻す。


(さて、どうしよう?)

 と、目の前の彼女に視線を向ける。

「……………………」

 無言の圧力、感情の読めない無表情――。

(美人だな~。……っじゃなくてっ⁉)

 ――数秒とはいえ、見つめ合っていたことに顔が熱くなる。恋愛感情ではないと思う。これは美しいもの、奇麗なものを見た時の純粋な感動に近い何かなのだと……。

 肩まで伸びた金色の髪は、太陽の光を反射してキラキラと輝き、宝石のような蒼い瞳に、冒険者だというのに傷どころか日焼けすらしていない白い肌、軽装に身を包み長剣を腰に佩く姿は、一枚の絵画のようだ。

(年は二十歳前後に見えるけど、女性に年齢を聞くわけにもいかないしな……)

 ようするに、年上の女性――しかも美人――と、一緒に行動したことがないため、距離感がつかめなくて困っているだけのことなのだ。


「あ~、わかりました。いや、わかったよ、……『リア』?」

 この状況に耐えられず、根負けする。


(――メチャクチャ恥ずかしい! 本当にいいの⁉ 大丈夫これっ⁉ 『あっ、やっぱりやめて』とか言われたら悶死するよ俺っ⁉)


「……うん、よろしい」


 相変わらず無表情のままだが、とりあえず悶死は免れたようだ。


「リア姉っ、ごはんっ‼」


 俺たちのやり取りに我慢できなくなった、腹ペコのアルが両手のウサギを万歳するように掲げながらアピールする。


「では、食事の準備をしよう。手伝ってくれるか、『アーちゃん』?」

「うんっ‼」


――違和感がスゴイ。リアはアルのことを『アーちゃん』と呼ぶ。別に呼び方は人それぞれなのだが、クール系美女が使うと少し驚く。――偏見だろうか?


「? 見てないで、あなたも手伝いなさい。」

 アルにウサギの捌き方を教えながら、俺にも指示を出す。

「いや~、こうして見ると『仲のいい美人姉妹』みたいだなと思って」

「? あなたの美的感覚はわからないけど『エルフ』なのだから、どこにでもある普通の顔よ? そんなことより、食事が終わったら剣の稽古をするからね?」


 ――言い忘れていたが彼女、リアは『エルフ』である。

 会話しながらも、コマ送りのようにウサギが解体されていく。速すぎて何をしているのか、まったく見えないのだが、アルは目を輝かせながら、その様子を凝視していたかと思うと、もう一羽のウサギを同じように解体し始めた。

(……え? 見えてたの?)

 相変わらず出鱈目な速度で『成長』するお子様を見ながら、一つ忘れていたリアの情報を脳内で付け足す。



『追記:胸は無い』



 ――ズゴンっっ――軽くない音とともに、足元に二本目の短剣が深々と突き刺さる。


「……………………」

 変わらぬ無表情――、だが、確かな殺意を感じる。


(あれ? 声に出してないよな?)

 背筋に冷たいものを感じながら、足元の二本の短剣を拾う。


 ――午後の訓練は死ぬかと思いました。


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